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22. リタがいるからダメっ


 私の口から紡ぎ出た答えに、ジェレミーは瞠目(どうもく)した。

 そして一拍置いて緩んだ表情は、安堵と幸福感に満ちていた。


「美香、ありがとう。必ず美香を幸せにすると誓おう」


 そしてそっと私の(おとがい)に手をやって、少し持ち上げるようにしてからゆっくりとその整った顔を近づける。

 長いまつ毛はその奥の金の瞳を守るように生え揃い、吸い込まれそうな美しい瞳の中に私が映っていた。


 瞳の中の私もとても幸せそうで。

 ああ、私の居場所はここなんだと実感した。



――その時、ふと思い出したのは壁際で存在感を消しているリタの存在だった。

 そうだ、私と王族のジェレミーを二人きりにしない為にリタは常にそばに控えてるんだ。


「ジェレミー! リタがいるからダメっ!」


 思わずジェレミーの胸を押し戻して、壁際を確かめれば……。

 やはりそこにはリタの姿があった。

 リタは本当に無表情を貫いていたが、それでも私はリタの前でジェレミーと口づけを交わすなんてことはできそうになかった。


「美香、気にしなくてもリタは悪いようにはしない……」

「そういう問題じゃなくて! ダメだよ! 人前で口づけなんて出来ない!」


 納得できずに不思議そうな顔をしたジェレミーは、眉をハの字にして非常に残念そうな様子だ。

 ジェレミーは幼い頃から従者や使用人がそばでいることが普通だったから気にならないのかも知れないけれど、私はそんなの無理!


 ダメダメ!

 そんなに黒耳をぺたんこにして、尻尾も力なく倒れているような雰囲気を醸し出してもダメだから!


「では、早く俺と婚姻を結んでくれればいい。そうすれば(しん)に二人っきりになれるからな」


 サラリとジェレミーが述べた言葉に私は赤面を隠せない。

 

「してくれるんだろ? 俺と?」


 答えを分かってる癖にわざと尋ねてくるのは、そのイケメン具合と子犬のような潤んだ瞳と合わさって……とってもずるい。


 せいぜい私はコクンと頷くくらいしかできなかった。

 それを見たジェレミーは思いっきり破顔して、またぎゅうっと私を抱きしめた。


「ジ、ジェレミー……! リタがそこにいるのー!」

抱擁(ほうよう)くらいは許せ」


 心底嬉しそうな声音で、私を抱きしめたままのジェレミーは答えた。


 リタはまるで家具のように動かない。

 私とジェレミーを二人きりにしない為とはいえ、これなら居ても居なくても同じなのでは?

 

 私はもうこの隠れ甘えん坊のワンコ王子様相手には敵わないと、抵抗するのをやめて抱擁を返した。


「美香、好きだ。いくら尊敬する兄上でも、美香だけは渡したくない」


 兄上……?

 ロレシオ……、ロレシオ……。


「あーっ!」

 

 とっても良い感じの雰囲気は、私の間抜けな大声で吹き飛んだ。


 ジェレミーは驚きのあまり私から離れて、怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「な、なんだ? どうした?」

「実はね、ロレシオが……」


『私は新しい考えを当たり前のように持つ貴女が欲しい。今日話してみて確信しました。こればかりは他の男に奪われるのは嫌だと。ですから、例え可愛い弟が相手だろうが私は貴女を手に入れる為ならば遠慮しませんよ。王太子の特権でもなんでも使うことにします』


「兄上がそんなことを……」


 私は庭園でロレシオが耳元で囁いたことをそのままジェレミーへ伝えた。

 ジェレミーは難しい顔つきになって顎に手をやり、じっと考え込んでいる。

 そして眉間に皺を寄せたままで言葉を零す。


「それならば、先に手を打っておかないと面倒なことになりそうだ」

「面倒なこと?」

「ああ、そうだ。俺だって、美香だけは誰にも譲るつもりなんかないからな。それが例え兄上だとしても……」


 そう言ってジェレミーは私を見つめながら、横髪に手を入れてスウッと梳くように通した。


「美香、歓迎式典が俺たちの婚姻を発表する場となってもいいか?」

「えっ! それはいいけど……でも、そんなに急がなくても……」


 ジェレミーは見たことがないくらいの鋭い目つきをして、この場にいないロレシオを見据えているようだ。


「いや、もしかしたらもう遅いのかも知れない。兄上はきっと……」


 そしてそこまでジェレミーが言いかけた時、部屋の扉の外からモーリスの慌てたような声が聞こえた。


「殿下! 大変です!」




 













 




 



 





 






 

 


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