2. いかにも神様っぽい老人に選択肢を与えられる
広くただ真っ白な空間は、浮いてるのか立ってるのかさえ分からない目の錯覚が起きそうなほどの気持ち悪さ。
向かい合うのはいかにも神様然とした白髪と長い白髭の特徴的なお爺さん。
キリストみたいなゆるっとした衣装は踝までの長さで、いかにも仙人とか、神様ってかんじ。
そのいかにも『私は神様です』といった雰囲気のおじいさんは、よく響く声で目の前の私に話しかけてきた。
「四ノ宮 美香よ。もう分かっておるだろうが、其方は死んだ。残念なことよ」
そんなことはとっくに理解してますよ。
私は思わず訝しげな視線を送ってしまった。
仕方ないよね、だって私だって死にたくなかった。
「そ、そんな目で儂を見るなんて……! まあ一応これがここにいる神の決まり文句じゃから怒らんでくれ。そこでじゃ、これからの其方の行く末を選ばせてやろう」
神様はゴホンと咳払いをしてから話を続ける。
決まり文句とかあるんだ……。
「楽しいが退屈な天国へ行って次の転生を待つか、其方と姉の望んでいた世界へ行って次の転生を待つか……。どうする?」
へぇ……退屈なんだ、天国って。
なんかゲームの選択肢みたいに選ばされるんだね。
「私と姉が望んでいた世界に行くことなんて、できるんですか?」
やっと話に食いついた私に、満足したように大きく頷く神様は答えた。
なんか無性に腹立つのは私が死んだばかりで情緒不安定だからかな?
「まあ儂からしたらどっちで其方が待ってようが一緒じゃからな。其方の姉は信心深いのう。毎日神に祈っておったわ。『病気の妹が死後にあちらの世界で楽しく暮らせますように』とな」
お姉ちゃん……。覚えててくれたんだ
小説家の姉が書く話が大好きで、書籍化されたそれを病床で読むのが病との戦いの中で唯一の楽しみだったもんなぁ。
それで一番好きだったのが、『頑張り屋の伯爵令嬢がイケメンの王子様に溺愛される』っていういわゆるテンプレなんだけど、『異世界ファンタジー(恋愛)』の話。
ヒロインがすごく頑張り屋の令嬢というところがまず感情移入しちゃって、何よりそこに登場するイケメンキャラにハマってたんだよね。
ヒロインの相手役のイケメン王子様じゃなく、当て馬役でヒロインに振られて闇堕ちしちゃうめっちゃ可哀想な『ワンコ系王子様』が私の推しだったんだ。
だからいつも姉には『私が死んだらこんな世界に異世界転生できますように』と冗談半分で話してたんだよね。
「神様、そしたらお姉ちゃんの作品の世界へ送ってもらえますか? 私、恋愛もしないまま死んじゃったからどうしても推しの『ワンコ系王子様』に逢いたいの! それに、出来るならワンコ系王子様ジェレミーの闇堕ちを阻止したい……。だってあんな結果悲し過ぎるんだもん」
『闇堕ちした当て馬役のワンコ系王子様ジェレミー』は、イケメン王子様に殺されちゃうんだ。
ストーリー上仕方ないにせよ、泣いたよねー。
王子様で当て馬キャラなんて私の好物だもん。
「構わんぞ。最近は信心深い人間も減り、儂らも嘆いていたところじゃ。それを其方の姉は随分と熱心に祈っておったからな。其方一人くらい天国じゃなくとも他所の世界に送ったところでバチも当たるまい。バチも何も、儂が神じゃからな。フォッフォッフォッ……」
やっぱりこの神様ちょっとだけ腹立つ。
でも、本当に願いを叶えてくれるなら感謝するよ。
「じゃあお願いします! 絶対にあの当て馬キャラのジェレミーを愛しのヒロイン頑張り屋令嬢のアニエスとくっつけちゃうもんね!」
まあ、逆に振られるイケメン王子様の方は自力でなんとか幸せ掴んでください。
なんてったって私は『ジェレミー推し』だから。
「フォッフォッフォッ……。まあ儂も楽しみに覗かせてもらうよ。神も昔と違って、最近は暇じゃからな」
その直後、とてつもない睡魔が襲ってきた。
寝ていいのかな?
起きたらすぐジェレミーと会えたりする?
「神様! どうかそこのところお願いしますよ! ちゃんとその世界での私の『設定』も頼んだからねぇー!」