入学式②
生徒会の人たちとの顔合わせを終えた俺はさっそく入学式のリハーサルを始めた。
しかし、もともと物覚えがいい俺は美紀さんからの説明を一度で完璧に暗記してリハーサルは一発でOKが出た。
そのため予定よりも早く解放された俺は美紀さんに教えてもらって自分の教室に行こうと思ったが・・・。
いつの間にか俺は会長に連れられ、生徒会室にいた。
しかも会長だけでなく、会計と書記の先輩もいる。
「それにしても誠也君が優秀なおかげで今年の入学式のリハーサルはずいぶん早く終わったね。去年のリンリンのリハーサルは面白かったよ」
会長はそういって会計の先輩が入れた紅茶を飲んで笑っていた。
「去年の話を持ち出さないでください!!亜美さん」
「でも凛ちゃん、本番でもすごい緊張してたよね?声震えてたし」
「由美もやめてよね!!」
さっきの自己紹介の時には興味がなくて聞き逃したが、記憶には残っている。
さっきから会長たちに去年のことでいじられている先輩が2年生で会計の安藤凛先輩。
そして、会長と一緒に安藤先輩をからかっている先輩が2年生で書記の安立由美先輩。
俺は三人の会話を聞き流しながら紅茶を飲んでいた。
「それで誠也君。君を入学式前にここに呼んだのは君に話しておきたいことがあってね」
「なんでしょうか?」
「誠也君、生徒会に入らない?」
「お断りします」
会長の勧誘をすぐに断った俺を3人が驚いた顔で見ている。
「即答・・・理由を聞いてもいいかな?」
「自分が生徒会に入れるような人間じゃないからです」
「どうしてそう思うの?」
「私は今まで同年代の生徒たちとほとんど関わらずに小学校、中学校時代を過ごしてきました。ちょっと勉強ができるだけの対人能力が絶望的に皆無の落ちこぼれ。それが私です。これは私のイメージですが生徒会役員は頭の良さよりもコミュニケーション能力などが必要な役職なのではないですか?」
「確かに生徒会役員の仕事には対人能力を必要とするものが多いからコミュニケーション能力は必要だけど・・・」
「だとしたら、私は生徒会役員には向いてませんよ」
「だけど・・・」
会長が何か言おうとしていたが俺はこれ以上この空間にいたくなかった。
「生徒会への勧誘が要件だったのでしたら私はこれで失礼します。紅茶ごちそうさまでした」
俺は立ち上がり、紅茶を入れてくれた安藤先輩に礼を言い、生徒会室を出て行った。
出ていく寸前、俺を呼び止める声がした気がしたが、俺は気のせいだと思い、そのまま自分の教室に向かった。
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(生徒会長視点)
誠也君が私たちの呼び止めを無視して出て行ったあと、生徒会室は重苦しい雰囲気になってしまった。
「亜美さん。どうします?」
リンリンが私を気遣うように聞いてきた。
「とりあえず、誠也君のことは一旦保留にしようか。それよりも気になることができたし・・・」
「気になることですか?」
「うん。誠也君の過去だよ。彼の小、中学校時代に何があったのか、それが分かればもしかしたら彼との関係性を良好にできるかもしれない」
「それはそうかもしれないですけど」
「勝手に過去を調べられたら、それこそ彼との関係に溝ができるんじゃ・・・」
「安心して、彼にはバレないようにやるつもり、それに私の予想なんだけど、彼が通っていた小、中学校は彼に関して何か隠してる気がするんだよね。まぁ、私の勘なんだけどね」
「それいっつも当たるやつじゃないですか」
「とりあえず、知り合いに協力を頼んでみる」
そう言って私はスマホで親友兼腐れ縁である彼女に連絡をかけた。
あぁ、そういえばあの子、今回の入学試験の次席だったね。
多分、誠也君に負けたことで落ち込んでいるだろうから、今度慰めに行かなきゃ。
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