入学式①
4月3日
今日は私立九龍学園高等学校の入学式である。
今の時間は朝の7時。
俺は・・・布団にくるまって現実逃避をしていた。
「あ~。体調不良って言って入学式休もうかなぁ~」
なぜ、新一年生である俺がこんなにテンションが下がっているかと言うと、俺は今日の入学式で新入生代表あいさつをしなければいけないからだ。
私立九龍学園高等学校は進学校だ。
そのため、新入生代表あいさつは入学試験の1位。
つまり、首席合格者がやる決まりになっている。
そして、何の嫌がらせかその首席合格者が俺なのだ。
・・・はっきり言おう。
高校行きたくない!!
そんな感じで俺は入学式の朝からテンションがダダ下がりしている。
すると、俺の部屋の呼び鈴が鳴った。
低いテンションのままダラダラと玄関まで行って鍵を開けるとそこには美紀さんが立っていた。
「・・・おはようございます。美紀さん」
「おはよう誠也君。案の定テンションが低いわね」
「低くないと思ったんですか?」
「ダダ下がりだと思っていたわ」
「正解です」
どうぞと言って美紀さんを部屋にあげる。
今日の入学式で新入生代表あいさつがある俺はほかの生徒より1時間早く登校しなければならない。
そのため、車を持っている美紀さんが学校まで一緒に連れて行ってくれるらしい。
対価は朝食だ。
「簡単なモノにしようと思ってたんですけどいいですか?」
「えぇ、大丈夫よ」
美紀さんの同意を得た俺は朝食を作り始めた。
それから15分ほどで今日の朝食が出来上がった。
今日の朝食はご飯に味噌汁、それに目玉焼きと昨日の煮物と肉じゃがの残り物だ。
「お待たせしました」
「相変わらず16歳の男子とは思えないほどの料理スキルね」
「いえ、ご飯と味噌汁、それと目玉焼き以外は昨日の残り物ですけどね」
「それでも美味しそうよ。それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
俺たちがそう言って朝食を食べようとしたら、いきなり俺のスマホが鳴った。
スマホをとると、テレビ電話がかかってきていた。
相手の名前は鈴木理央。
俺の母親だ。
俺は美紀さんに許可を取って朝食のテーブルに上にスマホをセットして、電話に出た。
するとスマホの画面に見た目20代後半の男女が映った。
なんだ、あんたもいたのか。
女性のほうは俺の母親。
そして、その隣にいる男性の名前は鈴木海斗。
俺の父親だ。
「お!やっと出たね!おはよう!我が息子よ!」
「おはようさ~ん!!誠也」
朝からなんともテンションの高いことで。
「おはよう。父さん、母さん」
「なんだなんだ、テンションが低いんじゃないかい?」
「それはだめだな~。きょうは入学式だろう?テンション上げていこうじゃないか!!」
本当に俺の両親かと思うほどのテンションに俺がドン引きしていると、2人が俺の向かいで朝食を食べている美紀さんを見つけた。
「なんだ誠也、美紀ちゃんと同棲生活でも始めたのか?」
父さんのいきなりの発言に俺と美紀さんがそろって口の中身をぶちまけそうになり、むせた。
「ちょっと、海斗さん。いきなり何言ってるんですか!!今日は入学式に一緒に行こうと思ってきたんです。そしたら誠也くんが朝食をごちそうしてくれたから一緒に食べているんです」
「なんだ~つまらないわね。美紀、前からいってるけどあなたなら誠也のこともらってくれてもいいわよ~」
「理央!!あなたまでいきなり何言ってるんですか!!それにあなた、それ香織にも言ってるでしょ!!」
「だって、うちの誠也はスペックが高すぎてそんじょそこらの女に安心して託せないのよね~。その点、あなたや香織は問題ないからね~。それでどう?」
「無理ですから!!私を無職にするつもりですか!!」
「固いわね~。まぁ、いいや。それじゃあ誠也、入学おめでとう。新入生代表あいさつ頑張りなさいよ」
「入学おめでとう、誠也。お前のスペックならその高校でハーレムをつくれる!!気張れよ!!」
「母さん、ありがとう。頑張るよ。父さん、豆腐の角に頭ぶつけてくたばれ」
「ははは、それじゃあな」
「美紀、誠也のことよろしくね」
そう言うと2人は電話を切った。
俺と美紀さんは思わずため息をついた。
「朝から疲れた」
「私もです」
「疲れたから入学式は体調不良を理由に休みます」
「だめです」
サボろうとしたら美紀さんにノータイムで否定され、俺はしぶしぶ箸を動かして朝食を食べた。
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出発の準備を終え、俺と美紀さんは車で私立九龍学園高等学校に到着した。
俺のマンションから私立九龍学園高等学校までは車で5分、徒歩で15分といったところだ。
俺は美紀さんに連れられ体育館に到着した。
美紀さんの説明によれば、体育館で簡単なリハーサルを行うそうだ。
美紀さん以外には2人ほどの教師と6人ほどの制服に身を包んだ生徒がいた。
美紀さんがコッソリ教えてくれたが生徒会の役員だそうだ。
すると、生徒会の一団の中から一人の女子生徒がこちらに歩み寄ってきた。
「君が今年の新入生代表あいさつの生徒?」
「はい。鈴木誠也です」
「鈴木誠也君だね。私は私立九龍学園高等学校生徒会会長の工藤亜美。よろしく誠也君」
「よろしくお願いします」
俺たちはそういって握手をした。
俺は会長の馴れ馴れしさに少し嫌気がさしたが、顔には出さないように気を付けた。
その後、ほかの役員も紹介されたが、興味がなかったので聞き流した。
ちなみに会長が女性だったが、ほかの役員は副会長だけ男性で会計と書記、それと庶務2人は全員女性だった。
副会長の男性に俺は同情した。