春休み⑥
俺が小説を書き始めたのは偶然の産物だ。
中学校にほとんど通ってなかった時期にやることがなくなって部屋でダラダラしながらネットを見ていた俺は素人が自分の書いた小説を投稿するサイトを見つけた俺は暇つぶしにそのサイトで様々な小説を読んだ。
その数日後、俺は「暇だし、やることもないし、小説でも書いてみよ」と軽い気持ちでそのサイトに何本かの短編小説を掲載した。
すると数日でその短編小説はサイトの中で大人気になり、ランキング上位にはいり、さまざま人から感想をもらえて俺は少し浮かれてしまった。
そして、特に人気の高かった異世界ファンタジー小説と現代学園ラブコメ小説を連載するようになった。
連載したその2作品はわずか数話でサイトのランキングのトップになった。
そして、たまたま香織さんが家に来ているときにも小説を書いていて、それを見つけた香織さんが作家としてデビューしないかと俺を誘い、なぜか俺よりも乗り気の両親の後押しもあり、俺は中学3年の時に作家としてデビューした。
以後、俺の小説はそこそこの人気のようで、デビュー作の異世界ファンタジー小説は今年アニメ化が放送予定で、もう1つのデビュー作の現代学園ラブコメもアニメ化企画が進行中のようだ。
まぁ、相変わらず俺は特に忙しくないのだが、それもこれも優秀な担当編集である香織さんと周りの友人たちのおかげである。
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「なんで俺がこんなことしなくちゃいけないんだ・・・」
「文句言いつつ5分で原稿書きあげるあたり、さすが大人気作家様。仕事が早いわね」
「ほんとですよね~。しかも誤字脱字も全くないですし、一発OKですよ。誠也君」
俺が5分ほどで適当に書き上げた原稿を香織さんと美紀さんが確認している間、俺は完全に高校生活のやる気をなくし、ベットに寝そべり、呆けていた。
そんな俺の様子を見て、苦笑いを浮かべている2人。
「普通の高校一年生はもっとやる気にあふれていると思うんだけど・・・」
「もしくはワクワクしているかですよね・・・」
「ここまでやる気の無い新一年生も珍しいわね」
「ですね」
2人が何か言っているが、今のやる気の無い俺には何を言っているのか理解することを放棄していた。
「そういえば先生。高校に入ってもお仕事続けて大丈夫なんですか?」
「そういえばどうするの?今までどおりの執筆スピードでもさすがに時間が足りないんじゃない?平日はほとんど学校なんだから」
「もう。高校入学を辞退して作家として生きていきたい」
俺がそう言って2人を見ると眉根を寄せて、俺を睨む美紀さんと困惑しつつそうしてくれたらうれしいといった表情をして俺を見つめる沙織さんがいた。
「誠也君?それはだめよ?わかってるでしょ」
「私としては先生がオープン作家になってくれるのはうれしいですけど、作家としてのレベルアップにもなりますから高校はいったほうがいいですよ~」
「分かってる。3割冗談だ」
「7割本気なのね」
「先生も相変わらずですね」
ジト目で見てくる美紀さんと沙織さんの眼差しから逃れるように俺は寝返りを打った。
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「そういえば、私の要件を忘れてました」
俺が寝返るを打つと、思い出したかのように手を打って沙織さんがそう言った。
「さっきの話と少し関係あるんですけど、先生。次の新刊の締め切りは6月になりますのでそれまでに異世界ファンタジーのほうはお願いします」
「いつもよりゆっくりなんだな」
「えぇ、ぶっちゃけ家のレーベルの作家の中で先生の作品がトップの人気ですし、アニメもありますからね。もともと先生は速筆ですけど、高校入学の節目ですから少し日程を編集長と調整したんです」
「そいつはどうも」
「まだ確定ではないですけど、学園ラブコメのほうは9月締め切りになるように調整中です」
「分かった」
「何かあればいつでも連絡くださいね。先生」
「あいよ」
俺がそういうと満足したのか沙織さんと美紀さんが立ち上がった。
「それじゃあそろそろ私たちは帰るわ。もう夕方だしね」
「私も会社に戻って先生のスケジュール調整しないと」
「分かった」
俺は立ち上がり、2人を見送りに玄関までついていった。
「それじゃ、問題ないだろうけど新入生代表あいさつの原稿がOkだったらまた連絡するわ」
「分かった」
「それじゃあ、先生!!また今度です~」
「えぇ、また今度、何かあれば連絡します」
2人は手を振って帰っていった。
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後日、美紀さんから原稿はOKだったと連絡が入った。
俺のテンションはダダ下がりしたのは言うまでもないだろう。
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そのあと俺は特にトラブルに巻き込まれることもなく、数日ほど快適な生活を送っていた。
そして、4月3日を迎えた。
私立九龍学園高等学校の入学式の日である。