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 僕は学校に戻ると亜紀さんからメールで指示してもらいながら、掲示板のログをダウンロードした。何だかスパイになって悪いことをしているような気分になりつつ、問題を解決させるためにはしょうがないと割り切った。

 うまくできているかどうかって不安もありつつ、何とか終わらせると僕は学校を出た。そこには亜紀さんが待ってくれていた。

「ありがとね」

「うまくできているかわからないんですけど……」

「きっと大丈夫だよ」

 亜紀さんは楽観的な感じでUSBメモリをバッグに仕舞った。

「私はこの近くにホテルを取っているから、駅まで送っていくよ」

「いえ、近くなので……」

「さっき話しそびれたこともあるしね」

 そう言われると断るわけにもいかず、亜紀さんと一緒に駅へ向かった。歩き始めてから少しして、亜紀さんは話を切り出してきた。

「カナミちゃんの件なんだけど、霊障を受けているかもしれないの」

「霊障って、霊の影響というか憑りつかれているとかでしたっけ?」

「まあ、そんな認識で十分だよ。おかしな行動を取っておきながら、本人に自覚はないとか霊障を受けている人のよくある特徴だし、君の話が本当なんだとしたら、カナミちゃんが霊障を受けているってことでほぼ間違いないと思うんだよね」

 亜紀さんは「君の話が本当なんだとしたら」という部分を強調してきた。ただ、なぜそんな風に言ってきたのかはわからなかった。

「はっきり言うね。霊障を受けているのは君の可能性もあるの」

「え、どういうことですか?」

「カナミちゃんは何もおかしなことなんてしていないのに、おかしくなってしまったと君が認識した。これもよくあることで、怪異に遭遇した時、身近にいる大切な人が怪異の影響を受けてしまうかもしれないという不安から、現実には起こっていないことを見たと認識してしまうの。これについては怪異というより、君の不安が生んだ幻覚のようなものって解釈でもいいかもしれないね」

 こう言われてしまうと、今朝のことは本当にあったことなのだろうかと疑問を持ってしまった。カナミは何もなかったかの様子で、それも含めて僕はおかしいと思った。でも、実際はカナミをおかしいと思ってしまった僕の方がおかしいのかもしれない。そう考えると、何が正しいのかまったくわからなくなってしまった。

「混乱させてごめんね。それで聞きたいんだけど、真っ赤なコートを着た女を見た時、何か掲示板の噂とは別のことを思ったり、気づいたりしなかったかな? 結構、そういうのが重要になるの」

「そう言われても……」

 何かあっただろうかと、真っ赤なコートを着た女を初めて見た時のことを思い返した。その中で、自分が何でこんな風に思ったのかって疑問を思い出した。

「そういえば、真っ赤なコートを着た女を見た時、懐かしいって思ったんです」

「懐かしい?」

「僕も何でそんな風に思ったのかわからないんです。顔は確認できなかったし、あんな目立つ格好の人を普段見るわけでもないですし、何で懐かしいなんて思ったのか……」

 亜紀さんは僕の話を真剣に考えてくれているようで、少しの間黙り込んだ。そして、どこか自分を納得させるようにうなずいた後、口を開いた。

「カナミちゃんとは幼馴染だったよね?」

「はい、ずっと前から家が隣で、言いようによっては腐れ縁って感じかもしれませんね」

「君が懐かしいって思ったのは、昔君がどこかで見ていたからだと考えるのが自然だと思うの。霊障を受けているのがカナミちゃんか君なのかはわからないけど、過去を思い返してみるといいかもね。例えば、昔のアルバムとかを見てみたらどうかな? 特にカナミちゃんと一緒の思い出とかを振り返るといいと思うの」

 そこで、亜紀さんはニヤリと笑みを浮かべた。

「幼馴染っていいよね。幼い頃から一緒だからお互いのことをよく知っているし、一番の理解者なんて一生一緒にいたい人に……」

「僕とカナミはそんなんじゃないです!」

 思わず大きな声が出てしまって、周りにいた人がこちらに注目した。何だか恥ずかしくて、僕は顔を下に向けた。

「青春って感じでいいね。私はいわゆるダメンズウォーカーで、恋愛についてはダメダメだから羨ましいよ」

 そんな話をしてくるなんて予想外すぎて、何も返せなかった。亜紀さんは美人の女性って印象が初めからあって、それこそ色々な男性からもてるんだろうなって思っていたけど、実際はそうじゃないのだろうかなんて疑問が生まれた。

「まあ、冗談はさておき真っ赤なコートを着た女って怪異の正体は、案外君達の身近なものかもしれないね。さっきもらった掲示板のログを見ないと何とも言えないけど、思ったより簡単に解決できるかもね」

「そんな楽観的でいいんですかね?」

「とりあえず、見続けなければ大丈夫って噂の通りにすればいいだけだし、そんな気にするだけ損だよ。一応、帰りにカナミちゃんの様子を少し確認するぐらいは必要かもしれないけどね」

「そうですね。帰りに寄ります」

 駅には既に着いていたけど、結局のところ長話をしてしまった。まだまだ話をしたいけど、僕も亜紀さんもすることがあるし、何かあったら連絡することを約束して別れた。


 今日は丁度すぐに電車が来てくれたから、それに乗った。亜紀さんから言われたのもあるけど、なるべく向かいのホームは見ないようにした。

 一駅移動して電車を降りた後も、あまり周りは見ないようにして、足早に駅を後にした。

 速足どころか少し小走りになりつつ移動して、亜紀さんに言われた通りカナミの家に寄るとチャイムを押した。それからすぐカナミがインターホン越しに返事をしてきて、少し話せないかと言ったら出てきてくれた。

「どうしたの?」

「ああ、別に大して用があるわけじゃないんだけど……」

 出てきてもらったけど、無事を確認できればそれで良かったわけで、特に話すことはなかった。

「何よそれ?」

「まあ、特に何もないなら良かったよ。じゃあ、また」

 結局何しに来たんだって感じだけど、カナミの無事を確認するって目的は達成できたわけだし、これでいいと納得させた。

「待って! 今朝のことなんだけど、聞いてもいい?」

 帰ろうとした僕を、カナミは慌てた様子で呼び止めた。

「何?」

「本当に真っ赤なコートを着た女性がいたの?」

 カナミがこんなことを聞いてくるとは思っていなかった。

「いや、俺の見間違いかもしれないし、確証はないんだけど……何か気になることがあるのか?」

「ううん、何でもないの。じゃあ、またね」

 真っ赤なコートを着た女は嘘が作り出した怪異だと亜紀さんは言った。だから、それが存在するかもしれないと話すことが正しいかどうか、判断が難しかった。話すことでカナミが信じたり怖がったりして、その結果、怪異が身近に迫ってくるかもしれない。

 そんな迷いから僕が何も言えないまま、カナミは家に戻っていった。

 これで良かったのだろうかって疑問と不安が残ったけど、僕はその場を後にした。

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