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 次の日、僕はいつも通りの朝を過ごしていた。昨夜また夜更かししたせいで少し遅い時間に起きて、慌てて着替えてから朝食を食べるのも、そうしているうちにチャイムが鳴るのもいつも通りだ。

「もう、今日も準備できてないの?」

 そんな文句を言いつつやってきたのはカナミだ。カナミとは幼い頃から家が隣同士で、いわゆる幼馴染だ。幼稚園、小学校、中学校と一緒だっただけじゃなく、高校まで一緒ということで、朝はこうしてカナミが迎えにくる。そして、無理やり僕を引っ張って一緒に学校へ行くというのが日常になっている。

「ほら、早く食べなさい! 遅刻するわよ!」

「カナミちゃん、いつもごめんね」

「いいえ、大丈夫です」

 カナミは母さんとも仲良しで、まるで口うるさい姉みたいだ。まあ、これについてはカナミの母親が早くに亡くなってしまったことも関係している。カナミにとっては僕の母さんが母親代わりみたいなものらしい。だからといって、同い年なのに僕が弟でカナミが姉というのは納得できなかった。

「じゃあ、行ってきます」

「ほら、急ぐわよ!」

 カナミに急かされるようにして家を出ると、駅に向かって走った。

 僕一人ならもう少し速いペースで走れるけど、カナミはそんなに足が速くない。だから僕など待たずにカナミは先に行ってもらって、僕は後から追いかけるという風にした方が遅刻しないんじゃないかといつも思っている。ただ、そうすると僕がいつまで経っても家を出ないだろうとカナミは決めつけ、結局いつもこうなってしまう。

「もう間に合わなかったじゃない!」

 今朝はいつも以上に遅れたせいで、駅に着いた時には電車が行ってしまった。この駅と学校の最寄り駅はどちらも各駅停車の電車しか止まらないから、次の電車までしばらく待たないといけない。ここから学校の最寄り駅まではたった一駅なのに、足止めを食らうのは何だかなと思ってしまう。

「まあ、速足で行けば間に合うだろ」

「そうだけど、もっと余裕を持って行った方が絶対いいわよ」

 だったら先に行ってくれれば良いのにと言いたかったけど、ケンカになりそうだからやめておいた。

「駅で待つのって嫌いなんだよね」

「え?」

「何か嫌じゃない? 学校や仕事へ行く人に、遊びや旅行へ行く人。もしかしたら夜勤明けとかで帰る人。みんな目的が違うのに、同じ場所にいないといけないって」

「いや、そう考えたことないけど……」

「嘘でしょ? 私は帰る時だって嫌よ。家に帰る人もいれば、これから遊びに行く人や仕事へ行く人とかみんな目的はバラバラなのに、一緒にいないといけないなんて嫌でしょ?」

 カナミのような発想を僕は持ったことがないから返事に困った。

 その時、向かいのホームに電車が来た。僕は自然と昨日見た、真っ赤なコートを着た女のことを思い出していた。昨日のは隣の駅での出来事だったけど、噂では日本全国様々な駅であの女に遭遇する可能性があると書かれていた。つまり、今またあの女が現れても不思議じゃないってことだ。

「ねえ、聞いてる?」

「ああ、ごめん」

 カナミが怒っているようだったので、僕は向かいのホームから目を離した。

「だから電車を待つ時間を短くしたかったのに、遅刻するんだもん」

「いや、遅刻はしていないじゃん」

「時間通り出てくれたら、さっきの電車に間に合っ……」

 突然、カナミは言葉を切ると真っすぐ前を向いて固まってしまった。

「カナミ?」

 話しかけてもカナミは特に反応しない。何があったのかとカナミの視線の先を確認して、僕も気づいた。

 向かいのホームには昨日見たのと同じ、真っ赤なコートを着た女がいた。まさか朝でも現れるなんて思ってもみなかった。これだけ明るければ今度は顔を確認できるかもしれないなんて考えつつ、それは良くないと判断して咄嗟に目をそらした。

「カナミ、あれは見ない方が……」

 いつの間にか、カナミはゆっくりと前へ向かって歩いていた。それは何かに操られているかのようだった。

「……電車が通過します」

 アナウンスは通過電車が来ることを伝えていた。このままだと危ないと僕はカナミの腕をつかんだ。

「カナミ!」

 大声で呼ぶと、カナミは我に返ったかのように振り返った。

「どうしたの?」

「どうしたのじゃないだろ!」

 その時、通過電車が目の前を通り過ぎていった。それを見送った後、向かいのホームへ目をやると、あの女は既にいなくなっていた。

「さっきの女、見続けるとやばいみたいなんだ。だから、今度見かけてもすぐ見ないようにしろ」

「さっきの女? 何よそれ?」

「いや、今向かいのホームに真っ赤なコートを着た女がいただろ?」

「そんな人いないじゃない。それにこんな暑いのにコートなんて着ないでしょ?」

 どういう訳か、カナミはさっきの女をまったく見ていない様子だった。でも、カナミが何かに操られているみたいだったのは確かだ。僕は何か言わないといけないと思ったけど、どう言えばいいかわからなくて、結局何も言えなかった。

「ほら、行くわよ」

 そうこうしているうちに電車が来て、とりあえず、カナミに言われるまま電車に乗った。

 正直言って、昨日から何が起きているのか、よくわからなくて混乱している。ただ、何とかしないとって気持ちは強く持った。

 そして、僕はオカルトライターアッキーに連絡することにした。

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