8話 Kings 〜オーク〜①
「うわばみっ!」
雷魔法をくらって思わず変な声が出た。
「ごめーんロベルト!」
別に喧嘩をした訳ではない。姫の魔法の練習の巻き添えをくらったのだ。
「なかなか上手くいかないな〜」
姫が使える魔法は雷魔法だけ。それ以外はほぼ使えない。その雷魔法も威力が強すぎて調節が難しかった。
「これじゃケーキの焦げ目が…」
「まあまあゆっくり練習していきましょう」
そう、今回姫が練習を始めた理由がケーキである。
昨日姫がパンケーキを作った。
そのパンケーキの仕上げる時に、表面に焦げ目をつけようとして雷魔法を放ったのだ。
ケーキが大惨事になった。
「どうしても上手くいかないようなら、
また雷魔法の得意な彼女を呼びましょう」
「そうだね〜…」
何にせよ調節できるようになるのはいい事だ。今のままでは市街地戦などでは使えないし。それ以外でも味方が近くに居ると巻き込まれてしまう。
「えーい!」
バリッ!
「うわばみっ!」
〜〜
「だんだん私に焦げ目がついてきました。
そろそろ彼女も到着するでしょうし、後は彼女に習いましょう」
「よし!そうする〜」
彼女とは姫の雷魔法の先生だ。
雷魔法のエキスパートであり現役の騎士。しかし性格に難があり、正直あまり呼びたくない。
「姫!お久しぶりです!お元気でしたか!」
長く艶やかな金髪に白銀の鎧。彼女だ。名前はセリーヌ。美しい女性。
「あ〜セリーヌお久しぶり!」
姫も久しぶりの再開で嬉しそうだ。ここまでは微笑ましいが……
「貴様も残念ながら元気そうだな。そろそろ寿命で死なないのか?」
でた。
性格に難があるとはこれだ。男に対してやたら冷たい。塩対応どころではない。ハバネロ対応。
「俺の寿命どれだけ短いんだよ……」
「姫! こんな齧歯類並みの寿命の男は置いといて、さっそく練習しましょう!」
美人なので男騎士からよく言い寄られたりもするが、この口の悪さで今まで多くのトラウマを植え付けてきた。
女性には優しく人気があるので姫の練習は彼女に任せておけば大丈夫だろう。
雷で痺れて筋肉がピクピクしてるので休ませて貰う。
〜〜
次の日オークの出現報告を受けた。
報告によると通常のオークとは少し毛色が違いそうだ。
またすぐに討伐に向かわねば。
そのタイミングで勢いよくドアを開け、セリーヌが入ってくる。
「オークの話聞いたぞ、齧歯類! さっそく討伐に行こう。姫の魔法の練習にちょうど良さそうだ!」
えぇーいやだな。
率直な感想がそれだが、特に断る理由もない。
結局、姫、セリーヌ、そしてまた回復役のモデムの四人チームで討伐に行くこととなった。
やはり正直いうと、あまり行きたくはない。なにせセリーヌと組むと、途中何を言われるかわからないのだ。
予想通りに、道中の作戦会議から苦労する事となった。
「よし!まずは貴様が囮になって突っ込め!」
「さんせ~い」
「いや何の囮だ…」
さっそく出たよ。しかもセリーヌと姫、二人揃うと危険度が増す。
「なんの囮でもいいからまずは突っ込め。囮は得意だろう?
生き様が囮みたいなものじゃないか。囮をやるため生まれてきたのだろう?」
むちゃくちゃである。
「囮がイヤならオークに抱きついて爆発かな。
ちゃんと墓は建ててやる。ロベルトオークと抱き合って爆死す」
「最悪の死因だな…」
「派手でいいんじゃないか? ああ、でも絵面的にキツいかな。
まったく貴様、姫に何てものを見せようとしている。オークと抱き合うなんてどんな性癖だ」
「俺を変態みたいに言うな! とんだフェイクニュースだ」
セリーヌと話しているとこちらまで言葉使いが悪くなる。
「姫、コイツはオークと抱き合う変態です。近づかないようにしましょう!」
「え~ロベルトやらし~い」
広まる風評被害。
「もう少し真面目に考えろよ」
「貴様に真面目不真面目言われたくないな。貴様こそ不真面目でふしだらな男だろう?
昨日も私たちのお風呂を覗こうとしてたし」
「え~ロベルトさいて~」
「してない!」
「今朝も一人でこっそり抜け出して、ニワトリの真似をしながらコケッコッコーと叫んでたし」
「もっとしてない! そんなヤツが居たら俺も近づきたくないわ」
「前にも私たちの隊も勝手に抜けたし……」
……確かに俺ととセリーヌは、かつて同じ騎士団に所属していた。俺はそこを抜け別の隊に入り、そして姫の護衛になった。
その事を今も怒っているのだろうか……
「あの時は色々あったんだ。話を元に戻そう。モデムはどのような作戦が良いと思う?」
「……」
モデムは賢い男だ。こう言う時は自分に矛先が向かないよう何も言わない。
「モデムもロベルトが囮になるのが良いと思わないか?」
「素晴らしい名案だと思います!」
モデム貴様……!
結局碌に作戦は纏まらないまま目的地に着いた。いや、そりゃ纏まる訳がないだろう。
「よし。まずはオーク達に近づき戦力を見てから対策を練ろう。慎重にな」
物陰に潜みながらオーク達の様子を伺う。
「ねえ、あれ……」
「うむ、思ったより数が多いな」
「わ〜いっぱい居るね〜」
十数体のオーク。そして奥に一際絢爛な鎧を着たオークが居る。
人に近い見た目だが非常に大きな体躯をしている。おそらくこの隊のボスであろう。
「整列!」
オークのボスが号令を挙げる。
「む、お前! 鎧が緩んでいる! 直ちに着付けなせ!」
「は! 申し訳ありません」
「いいか! 服装の乱れは心の乱れだ! オーク騎士団の名誉を傷つけぬよう普段からしっかり心を正せ!」
モンスターが心を正すのか…? ややこしいな。
「あのボスは恐らく特殊個体だろう。
気をつけろ、どのような行動をするか予測がつけにくい」
「いえ、あの様子なら逆に予想しやすそうよ」
セリーヌはなにか悪知恵が働いたのか、ニヤニヤと悪い顔をしている
まあ何にせよオークがこの道をそのまま進めばいずれ町に到達する。町に被害が出る前に食い止めねば。
「ロベルト〜どうするの?ここで戦うの?」
姫も魔力を溜め始める。
「いえ、先回りして待ち伏せしましょう。道なりに進んでるので進路は分かり易い」
幸い向こうは徒歩でこちらは馬だ。手早く先回りを済ませる。
「よし、ここに落とし穴を掘るぞ!」
「落とし穴!?」
セリーヌがまたおかしな事を言い出した。
「あのオークのボスはアホそうだから落とし穴に落ちるだろ? そこを捕らえる」
うーん今時落とし穴に落ちるヤツなんて居るか…?
まあ何もしないよりは良いかと、さっそく皆で穴を掘り始める。
「うお~!」
姫は穴掘り楽しそうだ。確かに落とし穴を掘るなんて普段やらない事だからにちょっと楽しい。
ひとしきり穴を掘り終え、最後に落とし穴の底に捕縛の魔法陣を敷いた。
問題はどうやってオークのボスを落とし穴に誘導するかだな。
そうこうしているうちにオークの部隊も目視できる所までやってきた。
「全隊止まれー!」
オーク達もこちらを視認し、動きを止める。
「貴様等、何者だ! 名を名乗れ!」
そう叫びながらオークのボスがこちらを睨みつけている。
「私がヤツを誘導する」
セリーヌは小声でそう言うと前に出た。
「私はオルリア国騎士団のセリーヌだ! この部隊のトップに一騎打ちを申し込む!」
奥から例の絢爛な鎧を着たオークが答える。
「一騎打ちだと? 数の利はこちらにある。
それを捨ててわざわざ一騎打ちをしろと?」
それはまったくその通りだ。
「そうだ。貴様も隊を預かる者なら誇りを持って受けてみせよ。それともやはり豚風情には怖くてムリか?」
セリーヌが遠慮なく、どんどん挑発する。
「フン、安い挑発だな。そのようなものに乗ると思うか? 誇りとはそう見せびらかすものではない」
「何を偉そうに豚風情が。不愉快な顔面を見せびらかしながら語るな、鬱陶しい。お前のようなやつはフゴフゴ言いながら森でトリュフでも探してこい、その方が余程有意義だ」
セリーヌの饒舌な挑発はさらに続く。
「森でトリュフを探す事だけがお前の生き甲斐だろ? こないだ森で変質者騒ぎがあったがそれも貴様だろう」
「まったく迷惑なヤツだ。今すぐ土下座しろ。
土下座しながら地面に潜って二度と出てこなければ、ミミズと同等くらいの暮らしは許可してやる」
「せいぜいモグラに食われないようにしろよ。
ついでにトリュフも取ってこい!」
酷っ!ひっどい事言うなー!
これ挑発じゃない、ただの悪口だ。普段の俺に対しての言葉は、まだ気を使っていた方だったんだな。
オークの方を見ると怒りからかブルブル震えていた。
めげるなオーク。