7話 運命の女神
「もうすぐエミナも来るであろう」
そう姫の事を呼び捨てにするのは、このオルリア国最高の権力者ーーオルリアドミニオン国王。
がっしりとした体躯、厳格な顔つき。
王の間の玉座に相応しい威厳ある王だ。
今日は王から急な召集だったが一体何かあったのだろうか?
「しかしロベルトよ、こうして顔を合わせるのも久しぶりだな。エミナに事では苦労をかける」
「とんでもございません、王よ。私などに気遣いは不要です」
歳を重ねる事に分かってくるが、人の上に立つというのは難しい。
きっと王は我々の想像も絶する重責を担っているのだろう。
少しでも王や姫のお役に立たねば……
「おはよ~、パパ~、ロベルト」
「おおエミナ!遅かったからパパ心配したぞ!」
「遅くなってごめんな~い。今日は寝癖がまとまらなくて~」
「ぜーんぜん!」
……相変わらず姫には甘々だな。
「パパはオールバックでまとめやすそうだから良いな。ちょっと引っ張っちゃお」
王の髪をわしゃわしゃしだす姫。
「それで王よ。今日はどのような……?」
「ふむ、実は昨日神託があってな。近く運命の女神が顕現するらしい。二人を指名しているようなので迎えに行ってくれ」
うえ〜運命の女神か、あの人が来るといつも大変な事になる。
「え、命さんがくるの? やった~!」
女神と姫は仲がいいから嬉しいそうだ。わしゃわしゃする手にも力が入ってる。
「ふむ、ただ二人とも十分に気をつけてくれ。
相手は神だ、
人間の敵でも味方でもない。人が理解しえぬ世界に居る者たちだ」
さすがは王、わしゃわしゃされながらもその言葉は思慮深い。
髪型はもはやエリンギみたいだ。
「はい、パパ!」
「では私は少し用があるので席を外すが、二人とも頼んだぞ」
そう言い残し玉座を立つエリンギ。
髪を直しに行かれたのだろう。
~~
女神を迎える神殿の祭壇にてーー
「姫、そろそろお見えになられる頃かと」
「めっちゃ楽しみ〜」
姫と二人で運命の女神を待つ。
すると突然辺り一面が煙がかり、視界が純白に染まり始めた。
それと同時に天上の音楽が流れ始め、やがて清らかな空気に満たされる。
そして上空から美しい光が降り注ぎ、眩い光の中から女神が降臨した。
何という神々しさ、これが神のーー
「ゴホッ! ゴホッ! スモーク焚き過ぎたみたい! ゲーホッゲホ!」
「光も強くし過ぎたわ。あー目がチカチカする」
「あ、そこに誰か居るみたいね。はい! 私が運命の女神です!」
スモークの中からハイテンションの女神が現れた。
ふぅ、相変わらずだな、この人。
「きゃ〜命さんお久しぶり〜!」
「キャーエミナちゃん久しぶりー!」
テンション上がり、向かい合って小刻みに手を振る二人。
久しぶりに会った女子同士がよくやるアレだ。
「ロベルト君も久しぶり」
「お久しぶりです。というか演出をする時はまず一回リハしましょうよ」
「にゃははは、失敗失敗!」
女神と言うだけあり絶世の美女、しかし性格は毎回こんな感じ。
この女神、フランク過ぎる。
「それで今日はどのようなご用件で?」
その問いに対し急に真面目な表情になる女神。
「二つあります。今日は二人にお告げに来ました。近く、今まで身を潜めていた魔王が大きく動き出すます」
いよいよか……!
今まで魔王は身を隠し動向が全く掴めなかった。その魔王がいよいよ表だって活動し始めたという事だ。
「魔王はまずその先兵として四体の魔物にキングを任命しています。二人共もう会いましたね」
先日戦ったトールとオーガの事のようだ。
「いずれ魔王直属の配下や魔王本人も動き出すでしょう」
「そしてこれは魔王の居場所を掴むチャンスでもあります。
エミナちゃんはまだ勇者の力を使いこなせてないようだし、来たる決戦までしっかり準備して下さい!」
「はい! その力、しっかり使いこなしてみせます!」
いつになく姫も真剣だ。
勇者にかけられた責任は重い。王と同様本人にしか分からない重圧があるだろう。
「はいでは! お告げは終わりね!
もう一つの用と言うのは〜、今日はお喋りに来ました!」
運命の女神曰く我々二人共戦いの日々でストレスも溜まっているだろうから、愚痴を聞いてあげましょう!との事だった。
〜〜
「それでねー、大地の神がこれがまた堅物で全然融通が効かないわけよー」
王宮で運命の女神と会食。
ワインを飲みすっかり酔っ払った女神。
逆に日々の愚痴を聞かされていた。
「命さんも大変ですね〜」
「ありがと、エミナちゃんはいい子ねー!」
もう帰ってくれないかな。
「はー暑くなってきちゃった。もうこれ要らなーい」
「ちょっと! 命さんダメダメ!」
おもむろに服を脱ぎだす女神……
いや、マジでダメだ!
こんなところ誰かに見られたら誤解されかねない。
特にセリーヌとかに見られたらどんな噂を流されるか……
(王宮騎士ロベルト、女神に痴漢をする)
明日のトップニュースだ!
社会的に死ぬ。
殴って止めようとしたが、それはそれで問題なので姫に強引に抑え込んで貰った。
「とりあえずもう帰って下さいお願いします」
ゴネていたが祭壇まで丁重にお見送りする。
「じゃあねーエミナちゃんロベルト君」
来る時同様眩い光とスモークに包まれ、笑顔で消えていく酔っ払い。
「賑やかだったね〜」
「全く。今日は遅いので我々も帰りましょう」
姫を送り届け一人帰路につく。
正直なところ神や精霊といった類はどうにも好きにはなれない。王の仰る通り油断のならない存在だからだ。
そのような事を考え歩いていると、突然目の前に轟々と十数個の炎球が出現した。
ほらな、こういう事をするから信用ならない。
襲いくる高密度の炎球を全て斬り伏せる。
「そこに居るんでしょう? 一体どういうつもりです?」
何もない空間から姿をを現す女神。
「さすがロベルト君! 見事全部防いだわね。いやーゴメンゴメン。ちょっと君の実力がどれ程か試してみたくてね」
試すだと? 冗談じゃない、下手すれば死んでいたぞ!
「ほら、君は普段本気を出していない感じがするからね。一度本気を見ておきたくて」
「いつも必死でやってますよ」
「どうかな? 普段は今のような鋭い動きは余り見せないんじゃないかな? さっきの炎球も並の者が防げるような弾じゃないよ?」
「まあ、とりあえずエミナちゃんは任せて大丈夫そうね。打倒魔王は同じなんだから仲良くやって行こう!」
そう言い残しら運命の女神はまた笑顔で消えて行った。
あのレベルの炎球は捌けると見抜かれてたのか、
それとも死んでも良いと思って撃ってきたのか?
……考えても無駄か。
神々は我々の善悪の価値基準を超越している。
世界の調和を第一とし必要とあれば人間も滅ぼしかねない。
……全く気に入らない。
いったい何様のつもりだ。
いやまあ神様なんだけど。
まあ俺には俺の思惑がある。
目をつけられ怒りを買わないように気をつけないとな。
翌日
王宮騎士、深夜の夜道で女神と密会! というゴシップが流れていた。
ゴシップにも気をつけよう!