3話 Kings〜トロール〜②
「やってくれたな人間共…」
低い声で唸るようなで喋るキングトロール。
通常のトロールと明らかに違う。見た目も非常にマッチョという事を除けば、トロールと言うより人間の姿に近い。
モンスターはレベルが高い程人間の姿に近くなる。いや、正確に言うと人間ではなく、神や精霊の姿に、だ。
相当に知能やレベルが高く、厄介な相手なのは間違いない。
「ただで帰れると思うなよ」
キングトロールはその力を誇示するように両手で岩を持ち上げた。
「皆離れろ!」
攻撃に備え身構える。
「まあ待て、ちょうどいい重さの岩だ。このショルダープレスが2セット終わったら相手してやる」
そのまま持ち上げた岩を上下させ筋トレを始めた。やはり知能は高くないかも知れない。
「おいキングトロール!さらった二人はどこへやった!」
たまりかねて、二人の友人でもあるセドが叫ぶ。
「ふっふっ、あの二人か。まだ生きてはいるぞ。ただまあ変わり果てた姿になってはいるがな」
「俺の趣味でな、凄まじい苦痛を与えてやった。この世の地獄を味わった事だろう」
満足そうに笑みを浮かべるキングトロール。
「連れてこい」
洞窟の奥から手下のトロールがさらわれた二人を担いできた。そのまま我々の前に放り投げられる二人。
「ぐあああああ!」
苦しむ二人、慌ててセドが駆け寄る。
「ああ酷い、こいつはなんて事だ!二人とも筋肉がパンッパンだ!」
二人はマッチョになっていた。
「こんなにムッキムキのカッチカチになって……これじゃあアウターもパンツもサイズが合わず、全部買い直しじゃないか!」
「ふふ、案ずるな。もう少し大胸筋が発達すれば、筋肉を強調するワンサイズ下のピチTを着たくなるであろう」
ボディービルのサイドチェストポーズを取りながら、誇らしげに大胸筋を見せつけてくるキングトロール。
「たった3ヶ月でここまでパンプアップするなんて……。一体どれほどの筋トレで地獄を味わったことか!」
二人を抱き寄せるセド。
「イダダダダ! 触んなバカ! 体中筋肉痛なんだ!」
「さてと……二人とも元気そうだし、そろそろ真剣に討伐に入ろう。セルクル、モデム、予定通り周りのトロールは任せた」
「元気ちゃうわ!」
叫ぶ二人をしりめに剣を抜く。
森に入ってからはずっと集中はしていた。しかしここからは命のやり取りだ。自然と緊張感が高まる。
無駄にチカラが入らぬよう脱力し、真っ直ぐにキングトロールを見据えた。
邪悪な笑みと共に、キングトロールの瞳も怪しくぎらついている。
「改めて名乗るとするか。キングトロールの名はグラークだ」
「オルリア国の騎士ロベルトだ」
対峙すると改めて感じる。異常な威圧感。
「ウルグァ!」
真っ正面から突進し真っ直ぐ拳を振り下ろしてきた。咄嗟に身をかわす。岩に誤爆した拳は、そのまま岩をバラバラに砕いた。
グラークは策を弄するタイプではないようだ。それは無知からではなく、真正面から叩き潰せるという自信の表れだろう。
「今度はこちらの番だな」
鋭く斬りつけるが、ガシッと鈍い音が響いただけでその刃は簡単なは通らない。
「やっぱりな…」
剣先の感触で分かる、その硬質感。トロールは元々硬い皮膚に覆われている為、防御力や耐久力が非常に高い。
そして脂肪だらけの普通のトロールと違って、コイツの皮膚に覆われているの、ははちきれんばかりの筋肉だ。
「ガハハ、貧弱だな!」
喜々として二撃、三撃と拳を振り回してくるトロール。
剣で捌きながらギリギリでかわす。技術はこちらが上だが圧倒的にパワーで押し負けている。
「ロベルト〜足にタックルよ〜」
姫のムチャぶりが飛ぶ。あんなぶっとい大腿筋にしがみついて何になるんだ……。
さて、実際どうするかな。剣に魔法を纏わせてみてもほとんどダメージは通らないだろう。
目を狙うか……いや、恐らくこのトロールは片目を潰さたくらいでは怯まず反撃してくる。
なら…!
ドスッ! という音と共にグラークを切りつける。防戦一方だった刃が初めて防御を貫いた。
「む、なんだ? ドーピングか? いや、これは……」
グラークはこちらの剣先を見つめる。
「ほう器用な奴だ。剣の先、それも先端一点のみにエネルギーを集め、足らん攻撃力を補ったか」
楽しそうに笑うグラーク。明らかに余裕がある。大きなダメージは与えられてないようだ。
「大した技術だがみみっちいな。パワーが……! 筋肉が足らーん!!」
カッ! とグラークはサイドチェストのポーズをしながら光り輝いた。
マズい! と危険を察知し即座に飛び退く。
グラークは全身から、魔力のエネルギー波を放ってきたのだ。巻き添えを食らった手下のトロールが消し飛んだ。
一瞬とは言えなんとか剣先一点で行っている事を、体全身で放ってみせたのだ。パワーの差は圧倒的。
「フハハハハ…どんどん行くぞ!」
「ラットスプレッド!」
「サイドトライセップス!」
様々なボディビルのポーズを取りながらエネルギー波を放ってくる。
非常に暑苦しい。
あれに当たってやられたくない。
何とか技術で捌いているが、このままでは勝負は明白だ。なにせこちら側はたいしたダメージを与えられず、逆にヤツの一撃は致命傷になりうる。
技術差でギリギリしのいているだけだ。この調子で戦えば、いずれは削られ追いつめられて負ける。
……と、そう思わせる。
もっと大技を撃つ事もできるが今のままで問題ない。なぜなら私はあくまで囮役。本命は姫なのだ。
「そろ~りそろ~り」
死角から近づく姫。