22話 それぞれの……②
『オークのシュバルツとセリーヌのオク組』
「セリーヌ様シュバルツ様、此度の戦の勝利、誠におめでとうございます。つきましては次回の戦には、是非我々も参戦させて頂きたく存じます」
シュバルツの部下のオークは物々しくそう述べた。
部屋の中には女騎士セリーヌとキングオークのシュバルツ、そして部下オークの代表の三人。
「む、それはよい。それよりも装備などの準備を頼みたい」
部下オークの参戦を拒否するシュバルツ。
シュバルツは部下と共に勇者側へ寝返った。自分の勝手で寝返ったのだから、なるべくは部下達を戦闘に巻き込まないようにしていた。
「はっ! ではさっそく準備に取り掛かります」
そう言い残し部屋を出ていく部下オーク。
「相変わらず部下に対しては、ずいぶん偉そうな態度じゃないか」
「いえセリーヌ様。私のような者が偉いなどと、そのような……あふん!」
話している途中でビンタをくらったシュバルツ。
セリーヌとシュバルツの主従関係はとても厳しい。ただその主従関係をシュバルツはとても喜んでいた。最近ではわざと叩かれにいこうとしている。表情もフニャフニャだ。
ガチャ
「失礼します。シュバルツ様、武器は剣と槍どちらの方がよいでしょう?」
突然部屋に入ってきた部下オーク。
「うむ、剣の方を頼む」
急にまたシャキッとするシュバルツ。
もともとオーク騎士団の隊長だったシュバルツ。威厳を保つため部下達の前では、セリーヌとの関係(叩かれて喜んでいるところ)は見られないようにしていた。
セリーヌもそれを理解した上で、部下オークたちの前では、シュバルツに合わせていた。理由は面白いから。
「失礼しました」
再度部屋を出て行く部下オーク。ホッと肩をなでおろすシュバルツ。
「ずいぶんな変わりようだな。私の前ではいい加減な態度をとってもいいという事か?」
またビンタが飛ぶ。ヘラヘラとだらしない笑顔になった。
「あふん。とんでもありません。忠誠を誓ってるが故、セリーヌ様にこそ包み隠さぬ姿を……」
ガチャ
「失礼します」
「どうした! なんの用だ!」
また入室する部下。ヘラヘラ顔から即座に真剣な表情になるシュバルツ。素早い変わり身をみせる。
「鎧の方はいかがしましょう? 耐久性を取るか、動きやすさを取るか」
「耐久性を優先させてくれ。足を止めて打ち合いになる可能性が高い。ああ、あと次に入る時はノックをしてくれ」
「わかりました!」
また部下が出て行くのを見度とけ、ホッと一息をつく。
「ずいぶん慌ただしいな」
ジロリと睨みつけるセリーヌ。
「申し訳ありません、お見苦しいところを……謝罪いたします」
頭を下げ床に両膝をつく。
「おいおい、そこまでしろとは言っていないぞ?」
「いえ、こうでもしないと私の欲ぼ……いえ、気持ちが収まりません」
さらに両手まで床につこうとするシュバルツ。
ガチャ
「失礼します」
「あっひゅう!」
またまた入室する部下。瞬時に飛びあがり体勢を立て直す。
「ど、どうされました?」
「なんでもない! それよりノックしろと言っただろう!」
「も、申し訳ありません。盾の方は……」
「盾も耐久性重視だ! いいな、必ずノックしろよ!」
「は、はい」
シュバルツの強い言葉に、慌てて部屋を出て行く部下オーク。
「……おい、いい加減飽きてきたぞ。何度繰り返す気だ」
「重ねて申し訳ありません。処罰は甘んじてお受けします」
壁に顔を向け、無防備に尻をセリーヌに向ける。
「さあ、セリーヌ様! どのような罰も受けます! 遠慮なくご褒び……処罰を」
ガチャ
「失礼します」
「どわっしゃぁぁ!!」
シュバルツは顔から壁に突っ込み、めり込んだ。姿勢を直そうと勢いあまったのだ。
「大丈夫ですかシュバルツ様!」
「問題ない! 戦闘訓練だ! それより貴様いい加減にしろよ! なぜノックをしない!?」
「も、申し訳……鎧の色は……」
「そんなもん何色でもいい! それよりノックをしろ! 装備よりなにより、まずノックするとメモをとれ!」
「す、すいませんでした」
逃げるように部屋を出ていく部下。
「壁に穴を空けてしまった……セリーヌ様、こちらの件を含め処罰の方は」
ガチャ
「失礼します」
「うおおおい!!」
「お前もうわざとやってんだろ! 逆に感心するわ! お前の辞書にはノックという言葉はないのか!? ってかもう全部一度に聞けやぁ!」
「ひいぃすいません!」
逃げ出す部下オーク。言い疲れ、息を乱すシュバルツ。
「クックックッ」
ふいにセリーヌが笑い出した。
「セリーヌ様?」
「アハハハッ。いや、やはり貴様は愉快でいいな」
セリーヌは笑いすぎて出た涙を拭いながら、続ける。
「最近ロベルトもずっと姫に付きっきりで忙しそうだからな。全然かまってくれなくなってたんだ。新たにお前がが来てくれて楽しくなった。感謝してるよ、相棒」
その性格ゆえ孤立しがちなセリーヌ。安心できる相手と出会い、珍しくその胸の内を素直に伝えた。
「セリーヌ様……とんでもありません! この不肖シュバルツ、ずっとお側に仕えていきます!」
感銘を受け、シュバルツもまた素直にそれに答える。
バシッ!
「あふぅ!」
素直に答えたのに、また意味もなくビンタをくらう。しかしひっぱたかれたその顔は、喜びに満ちていた。
このビンタでさらに、一生ついて行こうと誓うシュバルツだった。