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21話 それぞれの……①

 魔王ギラルドとの邂逅の後、キングス&クフェア四騎士と共に、王都に帰りつく。皆、あまり大きなダメージは受けてないが、次回は魔王戦、万全の状態で挑めるよう休息を取ってもらうことにした。


 ただなるべく各々コンビで過ごすよう頼んだ。コミニュケーションを多くとり、意思疎通を高め、現場での連携をスムーズにできるようにする為だ。


 まあ、プライベートな時間だから絶対にそうしろという訳ではない。実際どうするか各々の判断に任せることにした。

 なにせ、戦場の行方によっては最後の休日になるかも知れないからだ。


 皆がそれぞれの休日を迎える……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『トロールのグラークとアッシュのトロ組』


「珍しいな、貴様がここに来るなんて」


 腕組みをし、アッシュのトレーニング姿を見ながら、グラークは微笑みそう言った。

 ここ、とはグラークが経営するトレーニングジム。まだ開店して日が浅いジムだが、すでに人気店となりつつあった。

 グラークが行う筋肉解析(マッスルスキャン)という独自の魔法により、 筋肉量、体脂肪率を計れるのが人気の理由だ。


「たまには運動もしとかねえとマズいだろ」


 汗をタオルで拭いながらアッシュはそう返した。

 本来は魔法による戦闘がメインのアッシュ。それゆえ筋肉をつける理由はあまりない。グラークが珍しい、と言ったのはそういう意味だ。


「なんだったらトレーナーもしてやるぞ。筋トレは正しい姿勢で行うのが最も大事だ。食事も食材選びからメニューを考える」


「いらん。ありがたいがそこまでガチじゃない」


 そう、運動とは口実で、本当はグラークに会いに来たのだ。


「後で少し顔をかせ。話がある」

「いいだろう。俺もこのバーベルスクワットが終わったら行く。ふぬあああああああ!」


 水分を補給し、汗もひいた後、アッシュはジムの屋根の上に立つ。心地よいい疲労と爽やかな風がアッシュを包む。


「なんだ話というのは」

 グラークも同じように屋根の上に立った。


「魔王の話は聞いたか。世界を征服するのに理由はないんだとさ。ただ一番に立ちたいんだと。ふざけた理由だがわからんでもない。俺も多少そういうところはあるしな」


「ふむ」

 筋肉をぴくぴくさせながら頷くグラーク。


「まあ俺の場合は魔法だが、お前もそういうところはあるんじゃないのか? だからそんなに筋トレに励んでいるのだろう。強さを求めて」


「ふーむ、俺は世界征服とか一番になりたいとかは興味はない。筋肉がありさえすればそれでいい。だが結局は同じなのかも知れぬな。魔法も筋肉も強さも。自分の為にだ」


「そうだな。だがこの前、こう……」

 アッシュはなにかを言いかけ、だが言葉につまってしまう。


 その様子を見てグラークは嬉しそうに笑いながら言う。

「ハハッ。わかる、わかるぞ! みなまで言うな。この間の骸骨との戦いの時であろう。あの時貴様と共闘して、今までにない高揚感を感じた」


 グラークは続ける。

「ずっと一人で筋トレを続けていた。その事に不満はなかった。だが仲間が居るというのは新たな力を与えてくれるものだな」


「ふっ、恥ずかしい言い方だがまあそうだな」

 普段はあまり笑わないアッシュだが、その時ばかりは我が意を得たりと、ニヒルに微笑んだ。


「前にエミナ姫とロベルトとの間に感じていた力だ。俺にも、筋肉意外にそのような仲間ができる日が来るとは……」

 感慨にふけるグラーク。


 強さがゆえに孤独を感じていた二人。そして仲間を得た二人。今、互いにシンパシーを感じていた。


「ハッ、ここらで止めよう。こっぱずかしくなってきた。まあ……よろしく頼むぜ、相棒」


「うむ」

 グラークはゆっくりと深くそう返事をした。


「さて! では戻って筋トレを続けようか。貴様は栄養が足らなさそうだらか生卵を三つ飲め。ガハハハ!」


「ふざけんなボケ。……一個だけにしろ」


 二人の間に、心地よい爽やかな風が通り過ぎていった。


〜〜


『オーガのギダンとアキアのオガ組』


「アニキ! アニキ! 今回の戦の報酬、めっちゃ貰えましたね!」


 相変わらず子分オーガのトシオが騒ぎたてる。いつもはやかましいと思うギダンだが、今日はその存在に助けられていた。


 同じ部屋にアキアが居る。


 対骸骨で共闘はしたものの、ギダンからすればまったく理解できない相手。上手く会話できず気まずさを感じていた。


「この報酬でまた愛車(トカゲ)の装備をチューンナップできますね!」


 その気まずさをトシオの喧騒が薄める。


「あの、ギダンさん。前にも聞きましたけど、なぜギダンさんは勇者様の側についてるんですか?」


「ああん? 別に魔王側に居る理由もねえからよ。つまはじき者だったしな。俺が大事なのは仲間の魔物(チームのファミリー)だけだ」

 前にも聞いたか?と疑問を感じつつも、突然のアキアの問いに答えるギダン。


「へーファミリーなんて羨ましいですね! 仲はいいんですか?」


「大事なファミリーなんだから、仲いいに決まってんだろ! ああん?」


 初対面の緊張もなくなり、突飛な言動も少なくなってきたアキアだったが、まだ意思疎通は微妙にズレていた。


「……なんだ、おめえ、家族は居ねえのか」

 ふと、先程の羨ましい、という言葉が引っかかり察したギダン。


「え、いや両親が居ますけど」

 全然察せていなかった。


「んだよ、紛らわしい言い方すんじゃねえ!」


「あ、でも仲良さそうで羨ましいのは本当です。私、紛らわしい話し方じゃないですか。どこへ行ってもなかなか馴染めなくて……」


「……」


 無言になるギダン。なにか慰めの言葉を言いたかったが、アキアの紛らわしい話し方には弁護の余地がなかった。


「アニキ! 見て下させぇ!チューンナップの予定図書きました!」

「えー私も見たいです」

「ヒッ!」


 前に魔法の防御壁に挟まれてから、トシオはアキアのことが少しトラウマになっていた。


 人懐こいトシオにまで避けられ、暗い表情をするアキア。

 いや、アキアはその(馴染めなさ)からか、いつもどこか陰りのある自信のない表情をしていた。



「おい、ちょっとおめぇ防壁張ってみな」

「え?」

「いいから。ああん?」


 疑問を感じつつも言われた通り防壁を張るアキア。半透明な壁が部屋の中に現れる。


「オラァ!」

 突然防壁に頭突きをかますギダン。


「ちょっとちょっとどうしたんです!? バカになったんですか?」


「見な。こんだけ頭突きを入れても、この壁びくともしてねぇ。お前の防御魔法は相当なもんだ」

 防壁を親指で指さしギダンは言う。


「こんだけ強い防壁を張れるヤツはそうは居ねえ。これはお前が誰かを守りたいって努力した結果じゃねえか? ああん?」


「それは……はい、努力はしました」


「じゃあよ、例え喋んのが下手くそでもよ、その気持ちは伝わるんじゃねえか? だからロベルトの兄貴もおめぇを信用してんだろうよ」


「ギダンさん……!」


「もっと自信持てよ。んで、次の戦いでも俺をしっかり守ってくれや。そんかわし、俺もお前を必ず守ってやる」


「……はい!」


 力強く返事をするアキア。その表情も先ほどまでとは違い、力強さに満ちていた。



「っしゃ! んじゃ今日からおめぇもチームのファミリーだ!」


「あ、それはいいです」


「ああん!?」


 ああん……ああん……


 過去に例を見ない程見事な、ああん!? が部屋にこだました。


「ウソウソ、今のは冗談ですよ」

 いたずらっぽく笑うアキア。


「アニキー! アニキー! チューンナップ! チューンナップ!」


 トシオの喧騒だけでなく、今度からは三人で賑やかになりそうだった。



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