20話 魔王ギラルド
魔王との対峙。
徐々にこちらに歩みよる魔王。おそらくこのまま戦いに入る。だがその前に俺は、魔王にどうしても聞きたいことがあった。
「待て、魔王ギラルド。お前の目的はなんだ? なぜこんなことする? 世界に攻め入りお前はなにをしようとしている?」
「ハハっ、知れたこと。目的はただ一つ。世界征服だ」
歩みを止め答えるギラルド。
「その後の話だ。世界を征服してなにをする? 動機はなんだ? 人間に対する怒りか? 魔族という種の勢力拡大の為か?」
「動機? そんなものは無い。単に世界を征服したいだけだ。ダメか?」
単に、とは? なにを言ってるか理解できない。それを察してか魔王が話を続ける。
「お前たちはないのか? 誰かに勝ちたい、人より上に行きたい、トップに立ちたい、一番になりたい」
「俺は、この世界の頂点に立ちたいのだ! そこから見える景色はどんな素晴らしいものか。想像しただけでも歓喜の震えがする!」
「……何かないのか? 過去に人間に迫害された悲しい過去とか、王として魔族の繁栄を願っているとか。なにかこう……あるだろう」
「特になにもないな。世界の悲劇や栄枯盛衰など、どこにでも溢れてるだろう。俺はそんな世事に関わりたくない。うんざりだ。
子供の頃から思っていたのは一つだけ、頂点の景色を見たい。それだけだ」
「そして今、その力を手に入れた。俺はこれから……世界の頂点に立つ」
「はぁ〜? なにそれ?」
呆れたような声が姫から発せられる。
当然だ。このたった一人の男のワガママによって、世界は危機に晒されていたのだ。
しかし、そのワガママは途方もなくスケールがデカい。魔王の力を得る為に、恐らく壮絶な鍛錬もしてきただろう。
その一途で純粋で狂気をはらんだ夢を叶える為に、この男は努力し続けここに立っているのだ。
「さて、おしゃべりは終わりだ。そろそろ始めようか」
その言葉を聞き身構える。もう問答は無しだ。
「お前の相手はこのワシじゃ!」
突然、光の輪に締め付けられ、身動きが取れなくなってしまった。くそ、ダンダの魔法か。罠がないなんて言っていたクセに、抜け目ないジジイだ。
「ロベルト!」
「大丈夫です、それより魔王を!」
ギラルドが姫に襲いかかる。互いに素手。姫が武器を持たないのは威力に耐えられず、すぐ壊れてしまうからだ。魔王にも素手で対応する。
「ぐっ!」
姫に襲いかかったギラルドだったが、意外にもあっさり弾き返される。
「フッ、分身体ではやはり分が悪いな」
分身体? この魔力量で分身体? それなら本体はいったいどれほど……
「この身体では時間に限りがある。一気に決めようか」
そう言うとギラルドは手に魔力が集めはじめた。異様な魔力をの流れを感じる。
ーーこれはヤバい。
そう思った瞬間、俺は自身の制限を外し、ダンダの光の輪をはね飛ばした。そして自由になった我が身をギラルドの元へ運ぶ。
「なんじゃと!?」
驚くダンダを無視し、そのままギラルドに斬り込んだ。
「滅光」
ギラルドが姫に禍々しい黒い光を放つ。だがその光は姫には向かわなかった。ギリギリで手を斬りつけ、軌道を逸らすことに成功していたのだ。
逸れた光はあらぬ方向に進み、城を割った。少し驚いたんだ様子でこちらを睨むギラルド。斬りつけた剣はそのまま砕けた。
「ありがとうロベルト!」
大技を撃ち隙ができたギラルド、今度は姫が聖なる力を纏った拳を撃ち込む。
「聖華掌!」
「ぐっ!」
めり込む姫の拳。その強さを表す様に力強く閃光を放った。まともに食らったギラルドは大広間の壁を打ち抜き吹っ飛んで行った。
「くっ、フハハハ、いいぞ! 勇者ミニア、騎士ロベルト! まったく、世界征服の前にいい楽しみができた。お前たちという壁を超え、俺はさらなる頂点に立つ!」
消えそうな分身体で笑うギラルド。
「遊びは終わりだ。今度は魔王城で待つ。おっと、今度は部下の四天王も用意しておく。魔王たるものやはり四天王は必要だからな」
そう言い残し分身体は消えていった。気がつけばダンダの姿もない。一旦ではあるが、戦いは終わったのだ。
「姫、大丈夫ですか?」
「うん、最後のあれ食らってたらちょっとヤバかったかも……」
姫は今までどんな相手でも、ヤバイと言った事はない。そうとうな脅威を感じたのだろう。
次にまた、姫に危険が及ぶようなら……
「とりあえず、今日は帰りましょうか!」
「そだね!」
重くなった雰囲気をふり払うため、努めて明るくふるまう。そして喧騒の後の静けさが訪れた大広間をあとにした。
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魔王城にて。
分身体から意識を引き戻したギラルドが玉座に佇む。そばには転移魔法で移動してきたダンダが立つ。
「おいダンダ、あのロベルトというのは何者だ」
「それがわかりませぬ。もともとオルリア国の人間でもないようで、どこか他国から来たようです。それゆえノーマルという事以外、経歴がなにも掴めませんでして……」
「そうか。……気づいたか? ヤツが呪縛を破り斬りつけて来たとき、異常に魔力が増大していた。剣が砕けなければ、そのまま腕を斬り落とされてたかも知れん」
言葉とは裏腹、嬉しそうに笑うギラルド。
「ハハッ、ありえるか!? 人間界でいえばノーマルなど一般兵士だろう? それが魔王の腕を斬り落とすなんて!」
「魔王様……」
「楽しくなってきたな。ダンダ、やはりあれの準備をしておけ。さすがにあの二人同時に相手するのは骨が折れそうだからな」
宿命の勇者のとの対決、そのことばかりを考えたできた魔王。だが今回のイレギュラーな相手の出現に、先の見えない展開に、楽しさを覚えていた。
そしてまた、玉座に静かに佇み始めるのだった……
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