19話 城前の攻防、そして魔王
いよいよこれからダンダの城に乗り込む。
装備を整え、召集したメンバーと共に馬車の前に集まる。
メンバーはトロ組オガ組オク組ハピ組。四人のキングと四人の騎士、そして姫と俺。
「みんな〜よろしくねっ!」
出発前に皆にあいさつする姫。八人もの屈強な戦士に守られてる様はまさにお姫様。しかし、ここにいる大半は一度姫に負けている。
アッシュですら、過去に一度喧嘩を売って姫にボコボコにされていた。改めて姫の凄さを感じる。
各々馬車に乗り目的地に向かって進む。到着までは問題なかった。しかしダンダの居城を目にした時、異様なものが視界に入る。
城の前に黒いモヤがかかり、そこからぞろぞろと骸骨兵士が湧いて出てきていた。
「うわーきもちわるー」
シーナがつぶやく。ハーピィである彼女。魔族なのだから、単純に骸骨の見た目の感想ではないだろう。気持ち悪いのはその行動だ。
骸骨兵士たちを観察すると、各々勝手に動いていた。蝶々を追いかけたり、おにごっこをしたり、木に登ったり……組体操をしている者もいる。カタカタ笑いながら陽気に遊んでいた。
「あんなの無視してもいいんじゃない?」
「見た目に騙されるな。あの骸骨の戦闘能力はかなり高い」
シーナの疑問に答える形で、全員に注意を促す。
「おい、あいつら筋肉がないのになぜ動ける?」
的はずれなグラークの疑問は無視する。
「どいてろ、道を作ってやる」
アッシュはそういうと、巨大な火炎球をいくつも作り放った。隕石のように降り注ぐ火炎球。高熱になぎ倒される骸骨たち。
「ガハハハ、やるな、相棒!」
意気揚々とグラークが追撃をかける。
戦闘は始まった。
「っしゃ! やってやんぜ! ああん!?」
そう言うとアキアと共に前に出るギダン。自慢にしているリーゼントに、アキアが硬化魔法をかけ始めた。いや、どこにかけてんだ。
「オラぁ!」
そのままギダンは骸骨兵士の群れに、頭突きで突進していった。リーゼントを起点に流線形に起きる衝撃波。なぎ倒される骸骨。
オーガであるギダンは今、リーゼントという新たなツノを手に入れていたのだ。
「いけ、我々の絆をみせてやるぞ!」
「はい! セリーヌ様」
セリーヌとオークのシュバルツのコンピネーション。絆という言葉とは裏腹、シュバルツが囮になりセリーヌが雷撃を放つ、という酷い戦法を取ってた。
恐ろしいのは、セリーヌの雷撃はシュバルツにも当たっていた。シュバルツもろとも骸骨を攻撃していたのだ。
「はひぃん!」
シュバルツは嬉しそうだ。これも一つの絆の形なのかも知れない。
ここは大丈夫そうだ。骸骨たちは彼らに任せ姫と城に向かう。スタンの弓の援護のもと、ハーピィのシーナにつかまり、空から入城した。
がらんとした城内。骸骨だらけの外とは違い、内部には魔物の気配はない。
「なんか静かだね〜」
姫の言うとおり城内は静まりかえっており、妙な雰囲気が漂っていた。
罠か……?
警戒しながらダンダを探す。
しかし、意外にもダンダはすぐに見つかった。侵入地点から少し進んだ大広間、その中央にポツンと立っていた。
「お前がダンダか?」
そうじゃと答えるダンダ。そして、意外な言葉が続けられた。
「待っとったぞ。罠なんかも考えていたんじゃがな。そんな気も起こらんくなってしまったわ」
待っていたとはーー?
注意深くダンダを見ると、その顔はどこか気の抜けた表情をしている。どういうことだ。
「魔王様にお前たちの事を報告した。そしたら一言、会ってみたい、とおっしゃられた。まったく、色々と気を揉むだけムダじゃったわ。これで全て終わりじゃ」
会ってみたい? まさかーー
そう考えた瞬間、大広間の奥から足音が聞こえてきた。コツっコツっとゆっくり、確実に近づいてくる。
そしてその音が止まると共に、一人の男が目の前に立った。
ーー魔王だ。
すぐにわかった。城内に漂っていた妙な気配の正体は、コイツだったのだ。
先程から見せる、ダンダの気の抜けた顔もこれが理由か。この者が居れば全て大丈夫、と。
「フッ、よく来たな。勇者エミナ、そして騎士ロベルト。俺は魔王。魔王ギラルドだ」
魔王は、余裕と自信に満ち溢れた表情をしている。そして、少し嬉しそうな顔で笑っていた。
「え〜ここで魔王が出てくるの?」
姫の素直な感想。まったく同感だ。魔王を引きずり出すためダンダを捕らえにきたのに……。まあこうなれば話は早いな、ここで魔王を倒して終わりだ。
「フッ、まあそう急ぐな。一つ提案がある。勇者よ、俺と手を組まないか? そうすれば世界の半分をお前にやろう」
「ふざけないでよ〜そんなの聞くわけないじゃん!」
「フッ、やはりそうか。……えーとダンダ、次のセリフはなんだったか?」
突然魔王はおかしなことを口走った。
「おい、それはなんのつもりだ」
「フッ、先達の魔王が書いた(魔王の作法)に載っている決めゼリフだ。魔王たるもの魔王らしい振る舞いをせねばならんからな」
「まあ作法はもういいか。本当は、組むのも世界の半分もどうでもいい。フッフッ言うのも面倒になってきた。本題に入ろう」
決めゼリフ? ふざけてやがる。こちらをバカにした様な話だ。しかし、それだけの余裕があってのことだろう。
「今日はな、お前たちの力を見にきたのだ。魔王の力と対をなす勇者の力。興味をそそられん筈がない。もちろん大したことがないようなら、ここで片をつける」
魔王はまたゆっくり歩み寄り始める。コツコツと不吉な靴跡が鳴り響いていた。