18話 魔王軍司令ダンダの悩み
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トシオが壁に挟まれていたときから、時間はさかのぼり数週間前。場所は、魔王の副官ダンダの居城。
「はぁ〜」
城の主人であるダンダは、大きくため息をついた。彼は今、大きな問題に悩まされていた。
ダンダの周りには何冊もの本が積み上げられている。そのタイトルは(部下を動かす冴えたやり方)(信頼される上司とは)(優秀なパーティーを作る方法)などなど。
ダンダの悩みとはそうーー配下の魔物が言うことを聞かないという事だった。
魔王軍作成のため、魔王から巨大な魔力を預かった。その力を使い、まずは四体の魔物の潜在能力を引き出しキングと任命した。いきなり寝返った。
そもそも、ふてくされたり、筋肉の話しかしなかったり、酷いのになると招集にすら来なかった。まともに言うことを聞かなかった。
キングたちからすれば、それも当然。いきなり出てきた、それも魔王本人でもない者に従え、と言われても納得いかない。
当然言うことを聞くはずもない。
キングたち以外の魔物も同様。がんばってみたものの、ダメ。部下との関係に疲れ果ててしまった。
「カタカタカタ」
ダンダのかたわらに居る骸骨が笑う。
「なにがおかしいんじゃ」
次の悩みはこの骸骨たちだった。
我の強い魔物たちに嫌気がさしたダダン。次は自我の薄いアンデット兵士を作ることにした。
実際作ってはみたが、大きな欠陥が見つかる。
アホすぎる。
戦闘能力は高いが、自我の薄い骸骨たちは知性も低かった。
「カタカタカタ」
「こらこら、カーテンを引っ張るんじゃない」
「あ、こら! 落ちてるものを食べるんじゃない」
「カタカタカタ」
楽しげに笑う骸骨たち。
こないだ、一体の骸骨騎士が、飛んでいた蜂を追いかけて行き行方不明になった。とにかく目が離せない。
「はぁ〜なぜワシがこんな事をしなければならないのか。そもそも上司とかリーダーとか向いてないんじゃよ」
「それもこれも魔王様が、軍の実権をこちらに全部丸投げするから……」
そうだ、とダンダは思い立った。もともと魔王に命令されたのは゛勇者を倒すための゛魔王軍を作ること。
「要は勇者を倒してしまえばいいのじゃ」
もう直接自分が倒すか、もしくは魔王様が倒せるようお膳立てをすればいいのだ、そう考えた。
勇者の力を甘くみた考え。しかしダンダはバカではない。まずは勇者の力を調べるためオルリア国に潜入するのだった。
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オルリア国にある小さな町。ここに高価な秘宝がある。
ダンダはまず、山賊ゴブリンを焚きつけこの町を襲わせることにした。王都からはそう遠くはない町、騒ぎが大きくなれば、討伐に勇者が出てくるかも知れない。
「すいませんねえ、騎士様。荷物を持っていただいて」
ダンダは人間の老人に化け町に潜伏していた。正確にはダンダの分身体だが。
「はっ、気にすんなじいさん」
潜伏した町には騎士が複数居た。町に溶け込んではいるが、いずれも能力は高い事をダンダは見破っていた。このトニー以外は。
(なぜこんな小さな町に騎士がこんなにいるんじゃ……? なにか要人が来ているのか? だとすればついている)
そう思ったダンダ、探りを入れるためトニーに接触していたのだ。
「ありがとうございます騎士様。なにかお礼ができればいいのですが」
「じゃあ今度ナンパを手伝ってくれよ」
「ええ? ワシはそんな歳ではないですよ」
「んなのわかってるよ。じゃなくて爺さんが女の子に絡んでさ、いやがらせしてよ。迷惑老人いちゃもんをつけるって感じで。それを俺が助ける」
(なにを言ってるんじゃこのバカは。なんでそんな事せねばならん。これでも騎士か……)
「爺さんいかにも迷惑老人って顔してるからさ。むいてるむいてる」
(ふざけよってガキが。消しとばしてやろうか)
「ん、怒ったのか? 悪い悪い。あんまカリカリしてっと嫌われるぜ」
(後で消しとばす)
どうせこいつからは有益な情報は取れないだろう、警備からもハブられてるようだし、と判断したダンダ。慎重に魔力を探知し、要人を探し始める。
そして発見し、絶句した。
(なんじゃあの異常な魔力は……!)
ダンダが、この世で一番強いと思った魔王。その魔王と同程度。
この町に来ていたのは姫本人だった。自分では勝てないことを悟る。
ちょうどその時、町の何ヶ所かで山賊ゴブリンたちが暴れ出した。そのうちの一体がダンダにも襲いかかる。
「じいさん危ねえ!」
トニーが割って入った。もちろんダンダに山賊ゴブリンなど相手にならないが、トニーから見れば、か弱い年寄りだ。
「大丈夫かじいさん! 怪我はないか!」
(なんじゃ、わりといい奴じゃないか。消すのは勘弁してやるか……)
そんなことを考えていたとき、ダンダは後ろからの異様な気配を感じた。
ロベルトだ。
その姿を見た瞬間、ダンダは姿を消した。危険を察知したのだ。
「……? トニー、今ここに変な気配がしていなかったか?」
トニーのもとに駆けつけ問うロベルト。
「いやー? ゴブリンに襲われていた町民が居ただけっすね」
「……そうか。急いて姫の所に行こう。他にもゴブリンが居るかも知れん」
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分身体を消し、居城に戻ったダンダ。
(なんじゃあの化け物どもは……。勇者もそうだがあの護衛もヤバイ。分身体の変装は完璧だったが、あのままなら見破られてただろう。勇者とは別種の脅威を感じる)
到底自分一人では無理なことを悟った。
「もう、魔王様にきて頂く他ない……」
ダダンは最後にそうつぶやいた。
「カタカタカタ」
相変わらず笑う骸骨。カーテンはもうビリビリだった。
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