17話 アキアとギダン
グラークとアッシュが精神的なインパクトと、物理的なインパクトを残し演習場を去り、また次の組が現れるのを待った。
次は若い女性騎士のアキアとキングオーガのギダン。
「お待たせしましたー。待ちました?」
まずはアキアが来た。
「え、どうなんです? どれくらい待ってたんですか?」
さっそく出たアキア節。質問の意図がよくわからない。待ち時間を伝えたところでなんになるんだ。
この子はいつもこんな調子だ。言葉や伝え方が変。ひと呼んで失言クイーン。めちゃくちゃ失礼な事をいう時もある。だからクフェア隊に居るのだ。
「大丈夫だ、それ程待ってはいない」
「本当ですか? 嘘ついてないですか? なんで嘘つくんですか?」
なぜそこを掘ろうとする。
いや、わかっている。待たせた事によって、俺が怒っていないか心配しているのだ。根はいい子なのだ。ただ言葉のチョイスが変なのだ。
「今日は誰が来るんです? 隊長のあれですか?」
隊長のあれってなんだ? 俺のどれなんだ? さすが短い言葉でも、ツッコミたくなる事を言う。
イライラはしない。根はいい子だからね。イライラを通り越して困惑する。
「オーガのギダンを呼んでいる。今後コンビを組んでもらおうと思ってるんでね。現場でいきなり組むより、事前に顔合わせした方がいいだろう?」
「あーそうだったんですね! 確かに! 隊長も考えたりするんですね」
考えたりするんですね……?
どういう意図で言ってるんだ……? これは煽ってるんじゃないか? マジで言葉がぶっ飛びすぎてて、思考が追いつかない。
喧嘩になりそうなのでミニアには帰ってもらった。
「ああん? 今日はなんの用だ? カチコミか?」
ギダンも来た。子分オーガのトシオも引き連れている。
お互いの紹介と、呼び出した趣旨の説明を済ませる。後は野となれ山となれ。
「えーギダンさんは、なんでオーガをやってるんですか?」
「ああん!? 生まれた時からオーガだよ! おめえ人間に、なんで人間やってるんですかって言うか!?」
おお、ギダンがツッコミに回っている。
「いや、あの違うくて、オーガなんてやってて辛くないですか?」
「……」
ギダンがフリーズした。わかる。言葉がぶっ飛び過ぎてて脳が追いつかないのだ。
「アニキ、こいつ喧嘩売ってますよ」
「えーそんなつもりじゃないんです! ごめんなさい!」
アキアの言葉を翻訳するとこうだ。
ギダンさんはオーガなのになんで人間側についているんですか? その立場は辛くないですか? とギダンの心配をしたのた。いい子だ。
「トシオさんはなんなんですか?」
「! アニキ、こんな事言うてますよアニキ!」
それはそう思う。トシオはなんなんだ。
「トシオさんとギダンさんはできてる……っじゃなくて、仲良しなんですよね」
ギリギリ言い直した。
フリーズしてたギダンが我に帰る。
「おいロベルトの兄貴、さっきからコイツはいったい何を言ってるだ!?」
うおお、こっちにきた。ふるなバカ。飛び火する。
「えー、私そんなにおかしな事言ってます? 隊長なら理解できますよね?」
「うーんまあ、若干言葉選びはおかしいかなー」
理解できますよね? もおかしいっちゃおかしいぞ。
「付き合って長いんだから、隊長なら分かるでしょう。同罪でしょ?」
「ああん!? 付き合って!? 同罪!? テメーら最初からグルか!」
「出会ってから長い、の間違いだ。同罪はよくわからん。仲間でしょうの間違いかな」
困惑するギダン。疑問符でいっぱいの顔だ。
「……どういうつもりかわからねぇが、戦場で組むなら、まず弱くちゃ話にならねぇ。怪我したくなきゃちょっと力を見せてみせろ」
ギダンの拳に魔力が集まる。攻撃する気だ。
「わかりました」
アキアの表情も真剣になる。
「重郭の壁」
アキアとギダンの間に、透明な二重の防御壁が張られていく。アキアの能力は防御に特化しているのだ。
「ぐええええ」
二重の防御壁の間に、運悪くトシオが挟まった。
「トシオー! おめぇ、この狭い隙間にトシオ挟まってんじゃねえか!」
「ああ! ごめんなさい!」
「待ってろトシオ! すぐ出してやる!」
防壁を壊そうとガンガン叩くギダン。拳に押されてさらに狭くなる隙間。
「あああギブギブギブ!」
〜
トシオ救出。
アキアが防壁を解いたのだ。
「あんだけ殴っても壊れなかったんだ、とりあえずお前が強ぇのはわかった」
「ギダンさんは強くならないんですか?」
「ああん!?」
ギダンさんは本気を出していないでしょう? という意味だ。
もう面倒くさくなってきたので、後は二人で話し合ってもらう事にした。疲れた。
さて、これで魔王討伐の為の編成は済んだ。いよいよこれから、魔王の副官という者の居城に攻め込む。いつも魔物が現れてからの対処対処だったが、今度はこちらから攻め込む。
その副官を倒し、魔王の居場所を吐かし、魔王に攻め込み、一気に片をつかてやる。
長らく目標だったもの、ようやく実現が見えてきた。
魔王が現れるから勇者が現れる。これは古来よりそうだった。必ず魔王が先だ。魔王を倒せば、俺の目標は一応は終わる。一応……
考え込んでる内に、アキアとギダンの話し合いが終わった様だ。
「……こいつが悪いヤツじゃねぇ事はわかった」
「ギダンさん頭良いんですねー」
「ああん……」
そうなんだ。しばらく話し合うと、なぜか悪い子じゃない事は伝わるんだ。
理由は上手く説明できない。俺たちはなにか洗脳されてるんじゃないだろうか。ギダンのああんも力ない。
まあ人間は言葉より、その姿勢や行動で人を判断してるって事だろう。姿勢や行動にその人の心が現れる。大事なのは心だ。
「隊長。ギダンさんと仲良くなれて良かったです。今日は帰っていいですか?」
帰っていいですか……? いやいいんだけど、やはり言葉がいちいち引っかかる。
ダメだ、見ないといけないのは姿勢と行動だ。心だ。今そう考えたばかりだろう。
「隊長? どうしたんです? 考えこんで。なんか今日はずっとあっちに行ってますよね。あの日ですか?」
「どの日だよ! さすがにダメだろ! ってかその前のあっちってどっちだよ!」
結局最後は耐えきれず、盛大にツッコミ終えるのだった。