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16話 アッシュとグラーク


「喧嘩になるんじゃないか、これ……」

 

「え?」


 仕事場の執務室にて、思わず独り言が出た。

 部隊の編成を考えている最中の事だ。

 ミニアが不思議そうな顔でこちらを見ている。不穏な呟きだったしな。


 その編成というのが、魔王討伐の為のパーティー編成だ。以前に魔王側から寝返ったキング達も編成に加えている。

 加えた理由は簡単、戦闘能力が高いから。


 その内容としては、

(トロ組)キングトロールのグラーク×アッシュ

(オガ組)キングオーガのギダン×アキア

(オク組)キングオークのシュバルツ×セリーヌ

(ハピ組)キングハーピィのシーナ×スタン


 ミニアにも組み合わせ表を見て貰ったが、


「わー凄い組み合わせですね、さすがロベルトさん!」

 と。あまりわかっていない様子。

 問題ありなのだ。

 最近、ミニアがイエスマンになってきている気がする。


 この組み合わせの内、シーナとスタンは問題無い。二人共もうすっかり仲良しだ。

 シュバルツとセリーヌも大丈夫。この二人には強固な主従関係が培われているからだ。どんな主従関係かは触れないでおく。怖いから。


 問題は残りの二組。その内のギダンとアキアのオガ組は、まだ何とかなるだろう。

 危ないのがトロ組。

 二人共極端に戦闘能力が高い。

 

 寝返った四人のキング達には、再度寝返らない様に契約魔法がかかっている。いざという時に発動し弱体化させる為だ。


 しかし、グラークは危ない。魔力が高過ぎて自力で解除しかねない。万が一を考えてクフェア隊員最強のアッシュをつける。


 ただそのアッシュも問題だ。ストイックなヤツだがプライドも高いので、お互衝突するかも知れない。


「喧嘩になっても、ロベルトさんが居れば大丈夫ですよ!」

 とイエスマンのミニア。

 いやいや、下手に止めに入ると死んじゃう。


 初対面は安全な場所でする事にした。


〜〜


 演習場にて。

 見晴らしのいい大きな広場。土の地面に多少雑草が生えてるくらいで、他には何もない、殺風景な場所だ。

 ここなら何かあっても、周りに被害はでないだろう。そう例えば、爆発なんかがあっても。


 見学のミニアと一緒に二人を待つ。

 

「ガハハハ、良い場所だな!今日は何のトレーニングだ? 器具もない様だが自重トレーニングか?」


 まずはグラークが来た。相変わらずの筋肉マニア。


「なんでこんな所に魔物がいる」


 ふいに後ろから話しかけられる。アッシュだ。

 黒いローブに鋭い目つき。剣などは持たず、騎士に見えない軽装。

 それもそのはず。アッシュは魔法に特化した、珍しい魔導騎士だ。剣など魔法で作り出せる。


 二人に編成について説明する。


「冗談じゃ無い。魔物と組めってのか。命のかかった戦場で。ふざけた話だ」

 怪訝な表情で不満を述べるアッシュ。


「ガハハハ、俺は構わんぞ。どんと受けよう。その様な事でこの筋肉は動じない」


 意外な事に、魔物であるグラークの方が大人だ。地頭が良いので、この組み合わせの意図も理解してるのかも知れない。知性のある脳筋だ。


「ああ? お前が土壇場で裏切らない保証がどこにある? そもそもこんな暑苦しい奴と組めるか」


「フッ、貴様こそそんなヒョロヒョロしたなりで戦えるのか? 良いプロテインを紹介しようか?」


「何を言ってやがる、ふざけたヤロウだな。戦えるかどうか試してやろうか」


 アッシュの鋭い目が、さらに鋭くなる。やる気だ。場の空気がピリつく。


「……いいだろう。ではここからは筋肉で語るとしよう」

 グラークの目つきも鋭くなる。その雰囲気から戦闘態勢に入った事がわかる。


 やはり喧嘩になった。巻きぞえを食らわぬよう、すぐにその場から距離をとる。

 お互いを見据え改めて対峙する二人。先に動いたのはアッシュだった。


 手のひらから、いくつも火球を繰り出す。だが、すぐには撃たずフワフワと漂わせる。グラークの出方を伺ってるのだ。

 対してグラークは、ボディービルのポーズのまま動かない。


「……おい、後悔すんじゃねえぞ」

「フン、要らぬ心配だ」


 相手の身を案じたアッシュの最後の警告だ。その意を汲み取り、答えるグラーク。

 その返事を聞き、アッシュが次々と火球を放つ。グラークはこれを全て拳で撃ち落としていく。


「ヌハハハ、これはいい。ヒッティングマッスルが鍛えれる……ぐっ!」


 調子良く火球を打つ落としていたグラークだったが、突然弾き飛ばされて防御にまわった。

 アッシュは無数の火球の中に、威力の高い炎球を隠し織り交ぜていたのだ。


「まんまとかかりやがったな。バカみてえに、ただ弾を撃っていただけだと思ったか」

 勝ち誇る訳でもなく淡々と言い捨てるアッシュ。


「フン、やるではないか。ではこちらも新技を見せてやろう」


 そう言うとグラークはまた、ボディービルのポーズをとる。オイルを塗った様にテカった肌。そのテカリがどんどん強くなる。そして全身テカリに満たされていく……


 いや、気色わるっ!

 

 やがて強烈なテカリは背景とグラークの肌の境界をを曖昧にさせていく。そして次の瞬間グラークの姿が消える。


「フンッ!」


 突如アッシュの背後に現れ、強烈な一撃を放つグラーク。衝撃が起こり吹き飛ばされるアッシュ。


「ガハハハ、どうだ! テカリを利用した残像術だ」

「チッ、気色のわるい奴だな」


 アッシュは吹き飛ばされはしたものの、直前で防壁を張り致命傷を防いでいた。


「もうチマチマとして小技は終わりだ。一気に片付けてやる」

 急速に魔力を高め、空気を練るように手に集め始めるアッシュ。


「よかろう。受けて立とう!」

 同様にグラークも全身の魔力を高める。


 ダメだ。

 二人共テンション上がり過ぎている。この位置なら巻き添えをくらう。

 ミニアを抱きかかえ、急いでその場を離れる。


「きゃっ、ロベルトさん、ちょっとどうしたんですか。そんな急に、積極的な……」

 ミニアが何か言いかけた瞬間、後ろで眩い閃光が走る。


極炎球(バーナーデス)!」


「うるぁ!サイドチェスト!」


「キャー!」


 力比べのように二人の魔力を衝突しせめぎ合い、当然大爆発が起きた。ミニアが悲鳴を上げる。


 閃光が消え衝撃が過ぎ去り、爆炎は収束していく。やがて視界が晴れ、その場に二人は変わらず立っていた。


「ムカつくヤロウだな。平然としやがって」


「ヌハハハ、それは貴様も同じであろう。どうだ? そろそろ手打ちでいいのではないか?」


「まあな、これで駄々こねる程バカじゃない。認めてやるよ」


 二人ともようやく落ち着いたようだ。

 お互いの力ををぶつけ合い、視界が晴れるのと同様に、二人の気持ちも晴れていく様が伺える。


「ふむ、では一汗かいた後はサウナに行くぞ!」

「行くかボケ」


 憎まれ口を叩きつつも、今後いいコンビになりそうな雰囲気を感じる。地元じゃ負け知らず感。この組み合わせはやはり正解だった。



 さて、後はギダンとアキアのオガ組だけだな。


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