15話 姫の休日②〜ロベルトの心配〜
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ふー、間に合ったな。
姫が出かける。となれば、たとえ公休といえど当然、警護には来ていた。
ましてや、警備の薄い小さな町なら尚のことだ。
ただ姫達の邪魔にならぬよう、遠くから見守ったいた為、駆けつけるのが遅れてしまった。
残りのゴブリンも、一体はトニーが飛び蹴りを食らわし、もう一体はモデムが羽交い締めにしていた。
「ロベルト!」
姫が安堵した顔でこちらを見る。姫のこんな表情は初めて見たかも知れない。
「ロベルト……良かった」
よほど不安だったのか、こちらにしがみつく姫。これも初めての事だ。やはりもっと早く駆けつけるべきだった。
「大丈夫かい? お嬢さん」
サラの前でカッコをつけるトニー。
「ありがとうございます……あれ? この前のナンパ男?」
「げげ!」
何をやってるんだお前は。
呆れてトニーを見ている時、飛び蹴りを食らったゴブリンが、立ち上がり逃げ出した。
「爪が甘いぞトニー。捕らえてこい」
「はい!」
バツが悪くなっていたトニーは、嬉々として追いかけて行った。
危機が去り安堵した三人が、互い寄り添う。
「うう、エミナ、ミルー」
「エミナちゃーん、サナちゃん、怖かったよ〜!」
「二人とも無事でよかった、ホントよかった〜」
最初にサナが泣き出し、それにつられて二人とも泣き出してしまった。サナも気丈に見えるが、無理をしていたのだろう。
三人とも怪我が無さそうで何より。だが次回からはもっと手早く対応できるようにせねば。
ゴブリンを捕らえトニーも戻ってきた。ゴブリン達を人気の無い裏路地に連れて行き尋問する。
「何故この町を襲った? お前達の目的はなんだ」
「噂でこの町に凄えお宝があるって聞いて……このレプリカも返しますんで許して下せえ!」
うーむ魔王軍の者かと思ったが、本当にただの盗賊の様だ。この秘宝はインテリアの類で高く売れるが、これ自体特別な効果はない。
「噂というのは誰に聞いた?」
「誰と言われても道すがらのジジイで……」
コイツらに聞いてもこれ以上有益な情報は出てこなさそうだな。
それにしても、魔王軍の刺客などではなくて良かった。もしそうだったら姫が、友達を巻き込んでしまった事を気に病んでいただろう。
ゴブリン達を殺さず捕らえたのも、動機を聴くためと、姫達の前で凄惨な場面を見せたくなかっただけだ。
コイツらは見逃す事はできない。そこまで甘くはできない。
〜〜
「ロベルトさんありがとうございました!」
その後三人はカフェを再開し、ひとしきりお喋りした後、そう言い残し帰宅した。
強いコたちだ。今回の事で三人の友情が壊れる事はないだろう。
王宮に戻り一息ついた頃、姫に呼び止められる。
「ロベルト、あの〜その、今回は本当にありがとう。カッコよかったよ」
姫からそんな風に言われるなんて……動揺を隠すよう、努めて冷静に振る舞う。
「いえ、警護として当然です。こちらこそもっと早く駆けつけられていれば……」
「ううん。私も、もっと強くなれるよう頑張るよ!」
いや、単純な強さでいえば最強なんだが。
「打倒魔王に向け一緒に頑張りましょう。ところで姫、そのダボダボのズボンは戦闘には向いてないのでは?」
「ダボダボのズボンって。サルエルパンツだよ。ロベルトって歳の割におじさんみたいな言葉使いだよね〜」
オッサンじゃない!
〜〜
後日執務室にて、
トニーが山賊ゴブリンについて報告に来ていた。
「洗ってはみましたが、やっぱあのゴブリン達からは何も出てこなかったっすね」
噂、というのが気になっていたが、やはりこれ以上は無理そうだな。何者かが山賊ゴブリンをけしかけていたとしても、調べる術がない。
魔王が復活してから世界の状況は不安的になってきている。
もともと、人と魔物は、大気の魔力が濃い土地、薄い土地で棲み分けができていた。
お互いそれぞれ文化を持ち、適度に交流し発展してきた。
しかし魔王が現れると、世界のパワーバランスが崩れ、人と魔物の争いが増えていく。
これは歴史の中で、過去に何度か魔王が現れた時もそうだった。
そして魔王が現れるところ、必ず勇者が現れる。そして世界を守ってきた。
今回の盗賊事件は単に治安の乱れによるものか、魔王の差し金なのか、どちらにせよ早急に魔王を倒さねばならない。
「ふむ、報告ご苦労、トニー」
王達に報告の為、ミニアに事務を手伝ってもらいつつ、報告書の作成作業に入る。
「そういえばトニーさん、こないだナンパしてたそうですね」
怪訝な表情でトニーを見るミニア。
「バッ、いや、あれは違くて……その、違うんだ」
「違う事はないだろう」
「サイテー」
「いやいや、最近の若者ならナンパも出会いの一つっすよね、隊長」
「バカねトニー。ロベルトさんがなんてする訳ないでしょ」
「え、俺オッサンぽいかな?」
最近の若者、という言葉に引っかかる。
「おおとうとう呼び捨てになったか。もうちょい敬ってもんをだな」
「別に同期で歳も同じなんだからいいでしょ。ロベルトさんなら上司で年上で大人だし、敬いも持てるけど……」
「え、俺オッサンぽいかな?」
年上で大人、という言葉に引っかかる。
「もう。気にしてるですか? 大丈夫、ロベルトさんは若いですよ!」
そういう言い方をされると余計に不安になる。いや、それは捻くれすぎか。素直に受け取ろう。
「ところで二人とも、ズボンってズボンて言うよな?」
「パンツっすね」
「パンツですね」
ああああ!
〜〜
上着はアウター、ズボンはパンツ、中の服はインナー……ハッ。こんな事をしている場合ではない。魔王だ魔王。
幸いオークの情報と騎士団の調査で、魔王の右腕と言われる者の居場所を掴んだ。今度はこちらから仕掛けていく。
ただその為には戦力が足りない。クフェア隊最強隊員のアッシュを呼び寄せる。
そして、現在最強のメンバーで備える事になる。