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憧れの姉

作者: 雪野湯

 私の家は古くから伝わる日本舞踊の名家。

 その名家には三人の娘がいた。

 姉と私と妹……。



 姉はとても美しく、舞踊の才があり、みんなから期待されている。

 そんな姉は私にとっても憧れであり、誇りでもあった。

 今日も私は扉の隙間から姉の舞踊を見つめている。


 隙間から見る姉の舞いは万華鏡のように変化し、私の瞳を魅了する。

 瞳に宿る舞姿(まいすがた)は私には届かないもの。それでも、瞳に映る美しさを欲した。

 私も美しくなりたい。みんなに自分を見てもらいたい。

 

 その想いが心から指先へ伝わり、そっと扉を開く。

 私は、隙間から姉を見るのをやめた。

 そんな私を見て、姉は優しく微笑む。

 その微笑みさえも、私にとっては手に入れ難いもの。


 そうであっても、少しでも姉に近づきたいと思い、私は憧れの姉の真似をするようになっていた。

 

 姉のように美しくありたい。咲き乱れる花のような舞いを踊ってみたい。

 私は姉に憧れ、近づき、そばにありたくて舞踊に傾倒する。

 その甲斐あってか、周囲から認められるようになっていった。

 これは執念と呼ぶものだろうか……私は姉を目指し、姉そのものになりたい。


 だけど、姉がいる限り、私は姉にはなれない。

 舞台に立つことも、舞うことも許されない。

 私がどれだけ努力を重ねようと、姉こそ姉であり、決して私では届かない存在……。



 ある日のこと、姉が亡くなった。

 事故死だった。 

 私は見ていた。高台から足を滑らせ落ちてしまった姉の姿を。

 そう、私は見ていた。みんなもそれを信じた。だから、事故死……。


 姉がいなくなった。

 姉がいない……あの舞台に姉は居ない。

 

 私は姉が立っていた舞台に立ち、舞いを踊る。

 今日からは、私が姉なのだ。



 私は姉のように舞う。

 淑やかでありつつも大人の色香を内包し、皆の心を桃源郷へと(いざな)う。

 そう、私は姉になったのだ。


 私は舞いを踊る。

 その途中、ふと、何者かの視線を感じた。

 ちらりと視線を感じた方向に目を向ける。


 そこには、扉の隙間から私を見つめる妹がいた。

 妹の瞳には、万華鏡のように変化を繰り返す私の姿が映っている。

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