東方未踏領域攻略開始
街の人達は俺達の事を歓迎してくれた。ハルディオスの街を黒い魔道鎧から救ったこと、そして友好関係にあったドワーフを救助したこと。
それらを踏まえてのことだろうけど、それでも出発のための物資を全て無償で提供してくれたのは非常にありがたい。
普通に準備したらあと1日は出発が遅れていたはずだ、この街の人たちだって中央との交易や旧オルディニスとの交易が途絶えてかなり疲弊しているはずなのに……そう考えたら少し涙が出てきてしまった。
そして道中、俺たちはドワーフからとんでもない話を聞くことになった。その内容だが、史実ではドワーフやエルフは人間に失望して北東や北西に隠れ住んだと伝わっている。
だが、彼らの話では人間を疎んだり恨んだりは一切していないのだという、理由を聞いてみると──彼らは400年前の障気からの大脱出の際、中央には逃げずに北から東へそのまま逃げたのだと言う。その時にオリハルコンと呼ばれる幻の鉱石を発見したため、その場で地下にコミュニティを形成し、ひたすら道具を作ることに没頭していたらしい。
それから約400年……先日聞いた話の通り、突如侵略者が現れて大半が捕虜となってしまった。僅か数機の魔道鎧とそれを率いるスキンヘッドの大男……それらは非常に強く、未踏領域で生きるドワーフ達でさえも赤子の手を捻るように敗北した。恐らくはそのスキンヘッドの大男がオズマの父親なのだろう……。
未だに俺の中で若干の迷いはあるものの、貴重な物資をくれた街の人や戦後の協力を約束してくれたドワーフたちのためにも、越えなければならない壁……倒さなくてはならない敵だと思うことにしている。
ただ、俺の中には疑問な点がいくつもある。その中で一番不思議なのはハルディオスを落とさなかった点だ。
鉱石が目的だと言うのなら、未踏領域に隣接するこの街を落とさないと運搬の面においてかなり遠回りになるからだ。
まぁ、こればっかりは会ってみなくちゃわからない。
そうして俺達はドワーフの案内で敵の少ないルートを進んでいった。
「てやあっ!」
「Gaaaaaaaaa!!」
ティアが星屑の細剣で飛竜を両断した。彼女は飛ぶ必要がない、剣を振るだけで”翠月刃”を飛ばして竜の眷族を地面に落とすことができるからだ。
「お兄ちゃん、見てた!? もう10回のうち8回は当たるようになったよ!」
「ああ、これで遠近において隙無く戦えるな!」
「うん!」
星屑シリーズの武器は強力で、俺のDeM IIに届きうる攻撃力を備えている。試しに市販の武器で俺が斬った時、斬れるには斬れたがとても斬りにくく、3振りで剣が折れてしまう程、耐久力に問題があった。星屑シリーズ……恐るべしだ!
ちなみに俺もここでDeM IIの新機能を使っている。広範囲に軽強化を施す”付与領域”、これにより全員の能力を常に引き上げることができている。
紋章術さえ使わなければ魔力が尽きることはないので、休憩や寝てる間ですら展開しているほどだ。
レベルも気付けば140を超えている。油断しなければ危うい場面すら訪れない、それ故に順調に要塞拠点へ進むことができた。
そして岩だらけの道を抜けて開けた場所に着いたとき、雪奈が声をあげた。
「兄さん、あの割れた卵のような建物……元はドームだったように見えるのですが……」
「俺たちの世界にあるドームのど真ん中に隕石を落としたらこんな感じになりそうだな。あれで間違いないか?」
俺がドワーフに尋ねると彼らは大槌を握りしめながら頷いた。たった数人に落とされたことが、余程悔しかったんだろう……。
「じゃあ、行くぞ!」
”光学迷彩”を全員で被り、岩から岩へ移動しながら隠密行動を取る。理由は魔道鎧が上空を警備しているからだ。聞いていた人数とは違って、警備に人員を割けるほどに増員されている。
こうして俺達は時間をかけつつも、要塞拠点へ忍び込むことができた。元の世界でステルス系のゲームをするのは得意だったが、生身で実際にやってみると、えげつないほどにストレスが溜まる。
──内心、もう2度とやりたくないと俺は思った。




