ハルディオスにて
俺達は謎の兵器がハルディオスに向かうのを目撃した。
この世界で飛行技術は何故か発展していないので、どう考えてもルギスが発明した物の産物だろう。
「ハルディオスは確か、オルディニスの呼び掛けには答えない方針を取っていたはずだ」
「ええ、にもかかわらずハルディオスにアレが向かうとすると、何らかの武力行使の可能性があります!」
雪奈は星屑の刀を握っていつでも抜刀態勢をとれるように警戒を始めた。
それに倣って、他のメンツもそれぞれの構えを取りつつハルディオスへ向けて進んでいった。
☆☆☆
街に入り、大広場に向かうと、パルデンスで戦った機動兵器が魔道銃を乱射していた。
噴水は壊れて水を絶えず吐き出し、店先に並んだ品物は燃えて使い物にならなくなっている。
──このままじゃマズイと、俺達はすぐに止めに入った。
オズマは一発地面に向けて"パワースマッシュ・極"を放って上空に飛び、そして続けざまに横方向へ放ち、パワースマッシュによる衝撃波を生み出してそれを推力とした。
「うおおおおおりゃああああ! "パワースマッシュ・極"っ!!」
『くっ! なんだこの男は! "魔術障壁展開"!』
拡声器のような声が敵の機体から聞こえてきた。
すると、魔力で生成された半透明な壁が発生してオズマの大剣を防いだ。
上段から振り下ろされた大剣が魔術障壁に触れて、バリバリと音を立てている。オズマは敵を上から押さえ込むような位置取りだが、落下することも出来ずに拮抗状態のままだ。
あのままじゃ、障壁解除に銃口を向けられたら終わりだ。だが、オズマはこちらのフォローを制止した。
「俺のことは心配するな! 見てろよ? パワースマッシュはなぁ、足からでも撃てるんだよコラァッ!」
両足で空中をひたすら蹴って敵を下へ落とそうとするオズマ。隣で雪奈が「私のパクられた!?」と驚いている。雪奈も似た方法で飛べるようになってるのでパクられたと思ったのだろう。
拮抗状態もややオズマが優勢になり、敵もゆっくりと降下し始めている。
「と、とにかくオズマが隙を作るから、それに対応するぞ」
落ちた瞬間に一斉攻撃を仕掛けるべく準備を始めた。
「行くぞ! 三点バースト式"パワースマッシュ・絶"!!」
恐るべしオズマ、足の裏だけでなく背中からパワースマッシュを放ち始めた。浮こうとする敵、落とそうとするオズマの力がやや上回り、敵の魔力障壁にヒビが入り始めた。
「──あとは任せた!」
バリンッ!
敵の魔術障壁は完全に粉砕されて本体は地面に叩き付けられてしまった。
すかさず俺達は総攻撃を開始する。いかに魔道兵器といえどもスキルである以上はすぐに障壁は展開できない。
地面に剣を突き立てて全員に緑色のバフをかける。今は相手が態勢を整える前に攻撃を仕掛ける必要がある、それゆえに速度を選んだ。
雪奈が縮地で近寄って刀を抜いた。土煙が有ろうと無かろうと見えているらしい。
「──秘奥義・"款冬"」
辺り周辺が薄暗くなって粉雪まで降り始める。それに紛れて魔力粒子で構成された雪奈が四方に現れて、中央の魔道兵器に向けて"忍冬"を放つ。
四方から放たれた氷の斬撃が直撃して氷の彫像が出来上がった。
「これで終わりです」
バリンッ!
本物の雪奈が最後にそれを砕いて一連の攻撃が終わった。
魔道兵器はギギギっと音を立てながらも立ち上がろうとする。
「お、お兄ちゃん!? まだ動いてるんだけど……」
「確かにしぶといな。だけどな、上を見てみろ」
「上?」
上空から一直線に魔道兵器へ向かう流星のようなものが見えた。オズマを回収して再度空へ飛んだライラだった。
「"セイクリッド・ヴァレスティ"!!」
光の魔力を纏った槍をライラが投擲した。膨大な光の槍は所々へこみまくった魔道兵器を呑み込む。
ライラの新たなスキルはエーテルストライクの上位互換、ヴァリキリー系が使うメインスキルだった。
完全に沈黙した魔道兵器に近付くと、コックピットらしき物が勝手に開いた。中にいたのは黒い軍服を着た男、名も無き部隊の一員だった。
拡声器の声から、なんとなくリタではないことはわかってた。多分この魔道兵器は量産型でリタの試作機とは違うのだろう。
リタの試作機は前面にしか障壁を展開できなかったが、この量産機は全方位展開できてる……かなり改良されてることがわかった。
部隊の男を縄で縛ったあと、俺達は怪我人の手当てを行った。ついでに街の人から話しを聞いてみることにする。
「オルディニスのやつらが占拠されてるのは知ってるだろ? 今はテロリストが領主紛いのことをしている。正直なところ戦争なんてやりたくない俺達は賛同要請を拒否してたんだがな、結局従わないからこんな手に出てきやがった……」
そう言って、壊れた屋台の店主は悔しそうに膝を叩いている。
「他にも賛同しなかったところもあるだろ。そこはどうしてるんだ?」
「いや、他は攻撃されてないはずだ。ほら、ここは真北に未踏領域があるだろ? 実は俺達、ちょいちょいそこから鉱石を掘り出してたんだ。多分、奴等はあの兵器の増産のためにここを落としたかったんだろうな」
なるほど、これがワン達名も無き部隊の狙いだったわけか。だが未踏領域での採掘は非常に危険な行為だ。俺達でさえ度重なるアタックで少しずつレベルを上げてようやく踏破できた。
あの兵器を撃退出来なかった街の人達には難しい作業のはずだ。
「レベル100超えの未踏領域で採掘なんて、無謀だろ……」
俺の疑問に対し、店主は「それがな」と続けて語った。
「ドワーフの奴等が未踏領域の麓まで降りてきて俺達の護衛をしてくれるんだ。あいつら強くってよ~、こちとら安心して採掘できるんだ」
「そう言うことか……あのさ、俺達もドワーフに用があってここまで来たんだ。ちょっと口利きしてくれないか?」
「アンタらは俺達を助けてくれたからな、構わないぜ。じゃあ────」
俺は店主の男から次に未踏領域へ行く日時と場所を聞いて、それまで街で待機することになった。




