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ビフレストの門

 若きエルフの長老はテーブルの上で頭を抱えながら語りかける。


「エルフが作りし異界への門、その名も”ビフレストの門”これはユグドラシルの枝を材料として、この世界の外側にここ(グローリア)とは異なる世界を創る御業。そこへ移住すれば、世界縮小も、封印崩壊も、我らにはそれほど驚異にはならないんだ」


 そう語るエルフの若き長老、オラフは内容とは異なる表情を浮かべている。


「なんで、あんたはそんなに辛そうな顔をしてるんだよ」


「私の本音は君達を助けたいんだ……ラティスを連れ戻してくれたからね。だけどそれを決めるには時間が経ちすぎている。もう、遅いんだよ……準備は残すところ精霊樹たるユグドラシル本体を向こうに送るだけだ」


 この世界から切り離された異なる次元であれば、世界崩壊の様々な要因も考える必要はない。


 皆が沈黙し何も言えない中、不意にルナが武装解除してテーブルの上に降り立った。


「エルフの長老オラフ、隠しちゃいけないニャ。それでも逃げられない、違うかニャ?」


 オラフは一瞬だけ驚いたが、自嘲気味に笑ったあと語り始めた。


「そう言えば、タケシには女神フォルトゥナがついていたな。君の女神はその猫なのか……君は本当に、勇者なんだな。そこの女神の言う通り、そこまでしても逃げられない」


「次元が違うのに、か?」


「そうだ。門とて隙間がある、そこからジワリジワリと灰色の障気が侵入してきて、最後には柱であるユグドラシルを汚染されて空間ごと崩壊するだろう」


「バカな!それじゃただの時間稼ぎじゃないか!」


「だが!それでも……それでも1万年は稼げるんだ!──我らは、それだけで充分だと判断したんだ」


 人類、いや、エルフ最後の砦……彼らの納得する1万年は彼らにとっても長い時間なのだろう。門は入り口であり出口、必ず元の世界から紐付けされており、完全な異世界転移は不可能ということだった。


 再びの沈黙を破ったのはラティスだった。


「ユグドラシル、嫌がってる。ラティスはユウシャを支持したい」


「娘の言う通りだ。ユグドラシルが移住を拒否している。私たちの今の問題はそこなんだ。精霊がラティスを外に誘導し、タクマ君達に会わせた……恐らく止めさせるためだろう。期待させて悪いが、いざとなったら無理矢理送るだけだ」


 それにルナが激昂する。


「やっぱりエルフはラノベ通りニャ!今回は悪神はいないニャ!障気の出所を突き止めてその要因を排除するだけがそんなに嫌かニャ!?」


「お言葉だが、あなたが継承された記憶はタクマ君の話から推測するに、アルフレッドの視点のみではないか?」


「うっ……そうニャ」


「400年前に悪神が討伐された夜。新魔王城で戦勝パーティを開いた連合軍は皆が酔い潰れ、すぐにお開きとなった。そして誰もが油断しているなか、存在しないはずの障気が魔王城を包み込んだ。エルフやドワーフ、そして他の種族が汚染されるなか、何故か人間だけが被害が少なかった。なぜだかわかるか?当時の人間の王が、戦後の覇権に目が眩んでわざと他の連合国に報告しなかったからだ!」


 テーブルをダンッ!と叩く音に全員がビクつく。それを見たオラフはゆっくりと謝罪する。


「すまない、今の君達に言うことじゃなかったな。私はまだ300かそこらだが、他のエルフの中には先の大戦を経験したものも多い。それを覚えておいてほしい、話しは以上だ。代わりといってはなんだが、里には好きなだけ滞在して構わない。それくらいはさせてくれ」


 それを最後にオラフは席を立ったあと出ていき、すぐに部下とおもしきエルフの女性が現れて、滞在場所へと案内された。


 他の居住区より少し離れた丘の上に、小さな木造の家が建っていた。


「タクマ様達はここに滞在していただきます。用件があれば丘を下ったすぐのところに住んでいますので、何なりと申し付けください」


 エルフの女性はお辞儀をして去っていった。


「みんな、今日はとりあえず休もう。これからのことは明日の朝、また考えよう」


 全員その場で解散し、俺はソファーに身体を埋めて考えた。ようするに、決定的に人間が信用できない、そう言うことだ。


 不意にソファーで仰向けになっている俺を覗き込む存在がいた。


「ユウシャ、父様も悩んでる」


 ラティスの黄金色の髪が俺の頬をくすぐる。だが彼女は浮かない表情だ。


「ああ、俺も悩んでる」


「ユウシャ、どうしたい?」


「この世界は人間も、それ以外の種族も悲しい思いをしている。それを取り除きたいな」


 ラティスが微笑む。無邪気な少女の顔だ。


「ユウシャ、良いやつ。幸せいっぱい、大好き」


「少しだけ元気でたよ。……みんなの幸せのために、頑張ってみるか!」


 そうだ。諦めずに説得すれば交渉の手立てだって見えてくるはずだ。


「ところでラティス、ここにいていいのか?」


「そうだね、父様心配する。もう帰る」


 ソファから起きてラティスを送ろうと外に出たとき、鐘の音が鳴り響いた。音を聞いた仲間達が合流し、案内してくれたエルフのところに向かった。


「すみません!この音はなんですか?」


「タクマ様……どうやら何者かが侵入したようです」


 エルフの里に鳴り響く鐘の音、それは平穏へと終わりを告げる序曲となった。



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