遭遇戦
朝、この森を出る節目として『ドゥードゥー』と言われる鳥を倒すのを目標に洞窟を旅立った。
ドゥードゥーを探して散策していると、見晴らしの良い広大な草原に出た。
草原を見渡すと……俺達の標的がど真ん中でそれも1匹で立っていた。
「いたな。こちらには気づいてない。俺が火を付与した石をぶち当てるから雪奈はオウルベアのときみたく速攻で決めてくれ」
「ふふ。初めての共同作業ですね。ではこっそりと後ろに回りますので位置についたら始めてください」
共同作業って……そんな冗談言えるなんて、いざってときは女性の方が逞しいのだろう。俺なんて平気そうな顔しているが、先の戦いから少しだけ震えているくらいなんだ。震える右手を左手で抑えて呼吸を整える。
そして雪奈が位置に着いたのを確認して俺は近くの石を拾い、火を付与した。
この世界で初めて主導的に命を奪う、その事を意識すると少しだけ心臓の音が大きく感じた。
これから何度もこういうことをするんだ、いちいち緊張してられない!よしっ!やるぞ!
身体強化も自身に付与して深呼吸をした後、全力で投擲ッ!
高速で進んだ石はドゥードゥーの胴体にボキュッ!という音とともめり込んだ。
「キュイイイイイイイ!?」
「雪奈!今だ!」
羽が若干燃えて飛ぶのに時間がかかったのが運の尽きだった。ドゥードゥーのすぐ後ろの草むらから雪奈が全速で飛び出し、冷たき白刃をもってその首を両断した。
「よっしゃぁぁぁぁぁ!」
「兄さん兄さん。手だしてください!運動部がやってるアレやりましょう!」
パシンッ!っと両手でハイタッチしたあとお互いの拳を付き合わせた。
「よしっ、ここじゃあ見晴らしがよすぎるから洞窟に戻って早速丸焼きにするか」
「はい!楽しみです!」
俺達は再び洞窟に戻ってドゥードゥーをがっつり丸焼きにして洞窟で摂る最後の朝食を楽しんだ。
「それにしても……美味しいですね~~肉汁が溢れます!」
「味付けをほとんどをしてないのに若干塩気があって美味いよな!」
「全部は食べずに今日の脱出用に小分けにしますか」
「そうだな。1回じゃとても食べきれないしな」
「ところで兄さんはレベルは上がりましたか?ドゥードゥー1体倒したあと確認したんですが私は上がってなかったですね……」
「いや?俺も上がってないな……あの説明書のディスり具合が酷かったからさ。印術師が不安で不安で堪らないよ。神様は俺にフライパンに火を付与して料理でもしてろって言ってる気がする」
「生産職も全然ありだと思いますよ。兄さんは元の世界では自動車部品作ってたじゃないですか。それにもしもの時は私が養ってあげますよ♪」
なぜだか雪奈は俺を戦いから遠ざけたがってるように感じる。俺たち二人で組めばより安全だろうに……。
朝食後、俺達は洞窟に向き合ってここ数日の事を思いだし感慨に耽っていた。感謝の気持ちは大事にしないとな。例え洞窟さんであろうとも。
「たった数日しかいなかったのにここを去るのが寂しく感じますね」
「ああ、もう来ることもないだろうからきちんと感謝しなくちゃな」
「数日間、ありがとうございました!!」
一礼して後ろ髪を引かれつつも歩きだした。
洞窟を旅立って2時間ほど歩いているが、途中出てくる敵がほとんど『モフモフ ランク・F』という雑魚ばかりだった。
オウルベアのように向かってくる敵があまりいないのだ。非アクティブなモフモフは……なんか攻撃しづらいのだ。名前の通り毛むくじゃらで、申し訳程度に丸い足があってノロノロと集団で歩いている。これを攻撃するのは動物虐待をしているようでどうにも気が進まない。仕方ないのでひたすらモフモフを無視して進んだ。
正直、アルフレッドの本には大まかな地理しか載ってないため森を脱出するのにどっちに向かえば良いかわからない。なのでただただ歩き続けた。
洞窟を出て2時間も歩き続けた拓真達は徐々に精神的に消耗し始めていた。
「兄さん~いつになったらでられるんでしょう~」
「俺に言われてもわかるわけないだろう」
……ガサガサ
「雪奈!何かそこにいるぞ!」
「兄さん、私の後ろに!」
のんびりとした空気から一変、雪奈が前衛、俺が中衛といった隊列に瞬時に並んで次の事態に備えた。
……ガサガサ
「雪奈、先手で投石する。いくぞ」
「わかりました!」
ドゥードゥーの時と同じように地面の石を手にとって火を付与したあと身体強化を施した。そしてガサガサと音のする草むらに全力投擲した!
ガキンッ!
草むらに潜んでいた存在が石を弾いた後、攻撃体勢に入っていた雪奈を一瞬で昏倒させ、斬りかからんとする俺を吹き飛ばした。
「君達~いきなり人に攻撃を加えてはいけないって冒険者コースで習わなかったのかい?」
い、意識が朦朧とする……。
「わ、悪い。……人とは思わなかったんだ……そっちの子には手を出さないでくれ……頼む!」
「ん?僕は暴漢とかじゃないから安心して良いよ。とりあえずお嬢さんが起きるまで休んでようか」
それを聞いて俺は意識を手放してしまった……。
☆ ☆ ☆
「ン……ここは……。そうだ!雪奈!」
ふにゅん
「アンッ!……兄さん急に起きないで下さい」
一体どうなってる!目が覚めたら妹に膝枕をされて、飛び起きたら顔がアレに当たって……。ヤバい混乱してる……。
「兄さん安心して下さい。落ち着くまでもう少しだけこうしててくださいね」
頭を撫でられながらの膝枕に俺は段々心が安らいでいった。
それから5分ほどした頃
「おおお!起きたかい?」
そう言いながら近づいてくる男は長身に細身で髪は茶髪、そして緑の瞳は優しげで敵意を全く感じない男であった。
「あんたは?」
「ああ、そうだったね。自己紹介する前に二人とも意識を失ったからね。僕の名前はアル、メルセナリオのギルドマスターをしている」
メルセナリオ、この近くを統括する都市国家の名前だったな。軽薄そうに見えるがそれなりの人物だったか。それにしても初めての異世界人か……言葉も通じるし、思ったより普通で安心した。
「アルさん、まずは謝らせてくれ。申し訳ない!」
「ああ、大丈夫大丈夫気にしないで。それよりせっかく知り合ったんだから君達の名前を教えてくれないか?」
「俺は拓真」
「私は雪奈と言います」
「タクマにセツナだね。よろしく~ そう言えば君達に聞きたいことがあったんだ。僕はこの原初の森に行ったっきり帰ってこない知り合いを捜しに来てたんだ。この近辺で長い棒を背負った赤い髪の少年を見なかったかい?名前はノアって言うんだけど……」
「見かけてないな……ん?そう言えば途中でオウルベアに襲われた荷馬車ならあったな」
「本当かい?情報ありがとう!それで、悪いんだが道案内頼めないかい?」
「結構遠いけど良いのか?」
「良いよ良いよ。オウルベアくらいならノア君でも楽勝だろうけど荷馬車が壊れてるなら心配だ。早速頼むよ」
こうして俺達は再びアルさんと森の奥地に向かうのだった。
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園田 拓真 Level 2
ジョブ 印術師 印術をスロットに3つまでセットできる
スキル
付与印術 触れた物体に属性を付与する (毒・火)
補助印術 自身に補助効果を付与する (身体強化・治癒)
紐帯印術 ?
パッシブスキル 剣術 D 印術 B
園田 雪奈 Level 2
ジョブ 剣士
スキル
園田流一之型 雪 氷雪属性の斬撃を高速で放つ抜刀術
パッシブスキル
剣術〈異〉B 刀装備時攻撃力up