第3モノリス
第4研究棟、実験区画へ向かう拓真達は道中で研究員が倒れている事に気付いた。
「おい、大丈夫か!?」
「……うぅ……」
外傷はなく、気絶していただけのようだ。
にしても、誰がこんなことを……あのナインとか言う男はルギスとそれなりに協力関係だろうから多分違う。他に俺達のように潜入してる奴でもいるのか?
考えに耽る拓真の隣でシリウスが何かに気付いた。
「どうやら私達以外の侵入者は隠密行動が苦手らしい。手当たり次第に気絶させてるみたいだ。それに、建物の至るところに擦ったような傷ができている。恐らく突進系のジョブの可能性が高い」
突進系と聞いてパッと思い付くのは槍術師。脚力を活かした一撃離脱が売りのジョブだ。だが、正体のわからない存在に、これ以上時間を使うわけにはいかない。
「他に誰が来てようが俺達は行かなくちゃならない。急ごう!」
目的のために拓真達は先を急いだ。
☆☆☆
第4研究棟は何故か他の研究棟から大幅に離れた位置に建てられてるようだ。途中からずっと渡り廊下を直線でずっと進んでいるからだ。
しばらく走っていると、渡り廊下の窓から高速で飛翔するホウキ星のような光が見えた。それは俺達を一気に追い抜いて目的の研究棟へ突っ込んでいった。
ドゴォンッ!
「あれがさっきの正体……?」
シリウスが頷き、そして言った。
「私の知る限り、あれは……いや、よそう。彼女がここにいるはずないしな」
シリウス、拓真、ティアの3名はなんとなく誰か理解した。そう、背中に光の翼を宿し、彗星の如く突き進むその姿を最近よく目にしていたからだ。
今は進むしかない、行けばはっきりするだろうから……拓真達はそれ以上考えることを止めて目的の場所まで向かった。
扉を開け放つと、中は静謐と言う言葉が似合う雰囲気に包まれており、研究施設だと言うのにまるで遺跡のようだった。
部屋の中央には羊羹を縦に置いたような黒い物体がある。そしてそれを囲むように螺旋階段が上へと続いている。
ティアは黒い物体を食い入るように見ている。
「お兄ちゃん……あれ、封印だ」
「あれが?」
背後に立っていたシリウスが口を開く。
「ティアちゃんの言うとおりあれは第3モノリス、北の魔族領域を封印する4つの遺物の1つだ。一般的に封印と言えばこれを意味する」
黒い物体に触れてみるがアニメの主人公ように何かの記憶が流れたりはしなかった。そこでいきなり黒いコートが武装解除され、ルナが現れた。
「むむむ!ルナの見立てではこのモノリスに供給されてる魔力を誰かが横取りしてるニャ!」
「こ、この猫は何だ!」
ああ、そうか。シリウスは初対面だったか。ティアが徐に抱き抱えて言った。
「えへへ、ルナちゃんです!お兄ちゃんの生体魔道具なんですよ~!」
「ティアちゃん……ルナは一応、神様ニャ。君の上司みたいなものニャ。敬えニャ!」
「え~~っ!そんなこと言うと、ご飯あげないよ?ルナちゃんは雪奈お姉ちゃんにエサ貰いたいの?」
「それは嫌ニャ~~~!ごめんニャさい!」
ルナはそう言って再び装備形態へと戻った。ちなみに、装備のままでは喋れないらしい。
「あの、タクマ君?色々聞いてはいけない事を聞いた気がするのだが?」
「その、説明もできないが……聞かなかった事にしてくれると助かる」
「黒い髪、黒い瞳、神子、それに神……全部を事実とすれば尖兵が北の結界を突破する量が増えたのも頷ける。ま、誰も信じないだろうけど、聞かなかった事にするよ。今の私達は"戦友"みたいなものだろ?」
「マジで助かるよ」
「それよりも、ナインと言う男は螺旋階段の上にいるかもしれない」
「ああ、行くか!」
拓真達は螺旋階段の頂上を目指し始めた。
一行が階段を登り終えると、拓真に向かって何か物体が飛んできた。直前に人だと気付いたので受け止めてみる。
飛んできたのは、この場にいる人間、いやこの都市国家の人間なら誰もが知る人物だった。
赤毛のサイドテール、整った顔立ち、学園の制服を着ており、胸部装甲はわりと平坦。
彼女の名は───ライラ=エードルンド。
「タクマ君?何でここに!?」
正直、何でここに?と言いたいのは俺とティアとシリウスと……敵さんくらいだろう。
「ここは危険だ。いくらライラでも学生が来てはいけないところだ」
「私には、やらなくちゃいけないことがあるの」
父親の件だろう。
「仇討ちか?」
「よく知ってるんだね」
「ああ、別件で来たんだが、奴自身が話してたからな。討ちたいのか?」
「仇……。ううん、そのつもりはないよ。さっき見つけた時、死んでたし。あの人、エクスポーションを使わずに逝ったみたい」
「エクスポーション?」
シリウスが前に出て補足する。
「彼は研究で怪我をした時の為にいつでも飲める位置にポーションを配置してるんだ。何故使わなかったのだろう?」
その問いにライラが答える。
「彼は敗北に弱いから、多分折れちゃったんだと思う。プライドの高い人だったからね」
「ルギスの事よく知ってるな」
「お母さんに黙って調べてたから」
「だから放課後よく姿を消してたんだな」
ライラは頷き、そして奥を指差す。
「私が来たのには他に理由がある。むしろこっちがメイン!友達を助けたいの!」
「友達?」
「私の友達……タクマ君も知ってる子。忍者服の人とここに入るのが見えたから、色々考えて強行突破してみたの」
ライラが指差した薄暗い闇、その向こうからナインが現れた。
「その子、君らの知り合い?いきなり襲いかからないように言ってくれよ。弾いちゃったじゃん」
「友達が胡散臭いアンタと一緒に歩いてたら心配になるだろ?ましてや親の仇かもしれない奴がいる場所だぜ?」
「ははっ!違いない!……ところで、その友達はアレに乗ってる子かな?」
そう言ってナインは親指で後ろを指差す。そこにあったのは人の形をした機械だった。
「あれは……人型機動兵器、か?」
拓真の言葉にティアが反応する。
「あれを知ってるの?」
「ああ、知ってる。実物は再現されなかったがな。物語によくでる存在だ」
ナインに聞こえないようにティアが近くに来て話す。
『お兄ちゃんの世界の魔道具?』
『いや、デザインフォルムは全く違うが多分歴代の勇者がこの世界に遺した小説を参考にしているかもな』
ティアと話しつつもナインへの警戒を緩めない拓真達。ナインは苦無を2本手に取ってステップを踏み始める。
「タクマ君、恐らくアレが封印から魔力を拝借してる可能性が高い、止めないと!」
「ああ、そうだな!」
ナインはニタリと笑い、拓真へ攻撃を仕掛ける。拓真も正面からナインに相対する。
初めはエリアルステップで近付き、一太刀。ナインはそれを半身だけサイドステップし避ける。すぐにシリウスがナイン後方にファイアウォールを展開して逃げ道を塞ぐ。
すかさずライラがナインへエーテルストライクを放つがパリィされてしまう。
「なっ!」
「君、中等部最強なんだろうけど、あまり大人を舐めるな!」
必勝を確信したライラはエーテルストライクを防がれ動揺し、ナインの強打を脇腹に受けて壁に突っ込んだ。
吹き飛んだライラの治療にティアが向かい、拓真は再度攻勢に出る。
シリウスはファイアウォールを維持しながらフレイムランスを3発放つ。魔術師のスキル"二重魔術"というやつだ。放ったフレイムランスの影に拓真は隠れる。
1つ目を避けられる。拓真が隠れてるのは3つ目。
2つ目のフレイムランスは"水遁・水流壁"で防がれる。
そして3つ目は"水遁・水甲弾"で相殺されるが、術が消えると同時に飛び込むように斬りかかる。
「お見通し!」
ナインが拓真に向けて苦無を投げる。拓真は体をライフルの弾丸のように回転させてそれを避ける。そこで拓真はわざと攻撃に転じずに防御の態勢を取る。
「今ので攻めないなんて、君は素人っすか!」
ナインが苦無を振り下ろし、拓真の剣に触れる。恐らく、ここから苦無による超絶技巧でも披露するつもりだったのだろう。だが──。
カンッ!
ドゴォンッ!
「"反撃剣"……お前は欲張り過ぎだ。素人か?」
爆風をもろに受けたナインはそのままファイアウォールとバックドラフトに挟まれた形になる。ナインは奇跡的に生きており、服はボロボロで口当ては外れて顔が晒されている。
「……ハァハァ……死にそうだ。こりゃ、あの黒髪の嬢ちゃんと同じくらい厄介だな」
「お前、雪奈に何かしたのか!?」
「ん?……ああ、なるほど。繋がった!どこかで見たことあると思ったら、君はテンが変身した対象だ!」
拓真は剣を構えて紋章術の準備を始める。大技を察したナインは手をブンブンと振り始める。
「そんな怖い顔しないでも大丈夫!逆に返り討ちになりかけたからね。それに、もう君らと戦うつもりは無いよ?だって──準備はできたからね」
ナインは袖から白い玉を取り出して地面に投げる。すると、炸裂音と共に煙が大量に発生し、辺りを包み込んだ。
拓真が初級風魔術・暴風で吹き飛ばすとナインは機動兵器の肩に乗っており、機動兵器は魔力による翼を展開させて浮遊し始めた。
「オモイダシタンダケド……タクマ君、俺っちと君は前に会ってる。ほら、一度は協力した仲だよ?」
拓真、ティア、シリウス、それぞれが得意魔術で攻撃をしかけるが魔術障壁に阻まれてしまう。その間、拓真はナインの言葉について考えた。
俺とナインが前に会っている?確かに、あの顔どこかで……ッ!?
「お前、あの時の!」
「わかったかアンちゃん?」
この男は、拓真が中央都市国家で投獄されたときに同じ独房にいた盗賊だ。脱出後すぐに別れたからライトな関係と割りきってたが、ここで会うとは予想出来なかった。
すでに魔術が届かない高度に達し、機動兵器は天井を突き破って外に出る。そして加速段階に入った辺りでナインが拓真へ最後の言葉を贈る。
「助けてもらった礼をしてなかったな。俺っちはこれからエードルンド邸を襲撃する。阻止できないとは思うが、これが俺っちから贈れるせめてもの礼だ。まぁ頑張りな!」
ナインと機動兵器は空を駆けていった。ライラの話しが本当なら機動兵器に搭乗しているのはその友達だ。俺はその友達に剣を向けれるのか?
思案する拓真にシリウスが話しかけた。
「タクマ君、あれを追うのか?」
「ああ、そのつもりだ」
「秘策があるって顔だね。君の健闘をここで祈らせて貰うよ。気絶してるとは言え、介抱が必要な人だっていると思うからね」
「そうか、ここで別れか。少しの間だったけどありがとな。色々教えてもらえて勉強になったぜ」
「あの2人はどうするつもりだ?」
「ライラが目を覚ましても少しの間は動けないだろうから、ティアを付けておく」
「わかった。タクマ君、いや戦友……達者でな」
「ああ、じゃあな。戦友」
拓真はティアに残るように伝え、割れた天井の上まで登り、そしてエードルンド邸へと駆けていった。




