エードルンド魔道研究所
エードルンド魔道研究所、魔術師の都市パルデンスにおける最高峰の技術力を誇る研究施設である。
拓真達はブラッド種に襲われていた魔術師を助けたあと、研究所まで案内してもらっていた。
「お兄ちゃん、この建物……嫌な予感がする」
「この距離でティアの"魔力探知"に引っ掛かる程の何かがあるってわけか」
巨大な門の前に辿り着いた時、ティアは何かに気付いたらしく怯え始めた。
「ティア、門の端に何かを擦った跡がある……これはブラッド種のやつか?」
「う、うん。さっきのと同じ魔物の魔力を感じる。ここで間違いないよ」
「あの門番、通してくれないだろうな……」
門の前には当然のごとく門番が鎮座している。この都市らしい魔術師然とした門番だが、ローブの刺繍に金が施されている事から大通りを走ってた奴らより格が違う事がわかる。
「君の言うとおり、あの門番は通してくれない。マルグレット様でも無理だ」
「マルグレットさんはエードルンド家だろ?あの人でも無理なのか?」
「マルグレット様を"さん"で呼ぶとは……どうやらそれなりの人間のようだな」
「大層なものじゃない、ただの居候だ。それより何故あの人でもダメなんだ?」
「パトリック所長が亡くなってから研究所と学園の権利をあっさり手放したんだ。学園には影響力があるようだが、研究所が領主の手に渡ってからは副所長が実権を握ってる」
「打つ手無しか……」
魔術師の男がティアを見てから浮かない表情で提案をする。
「彼女を使えば……或いは戦うことなく入れるかもしれない」
「おい!俺がそんな手を使うと思うのか!?」
拓真が叫ぶとティアがしーっと人差し指を立てて注意した。
「お兄ちゃん、多分それしか方法は無いと思う」
「いや、だけど……」
「お兄ちゃんが守ってくれるって信じてるから、お願い!」
ティアの上目遣いに拓真は折れるしかなかった。中の戦力がわからない以上、正直他に手がないのも事実だ。
それに今いる地点は門から見えない塀の部分、次にブラッド種が門から出てきたらここで交戦することになる。そうなると敵がワラワラ出て来て面倒な状況になってしまう。つまり時間すら押してる事態であった。
「もちろん提案した私も同行するよ。元所員の私なら多少有利だろうからね」
「…………わかった。作戦はどうする?」
「ではこう言うのはどうだろう」
・魔術師の男が再雇用の手土産にティアを門番に見せる(拓真は護衛の傭兵役)
・中に入ってブラッド種を捕獲している部屋を見付けて駆除する
「シンプルだな。出る時はどうするんだ?」
「私はここで火に関する研究をしていたんだ。しかも窓際族だったから部屋も端の方だったんだよ。当然、可燃物マシマシだから研究所の壁を爆破してそこから出る、でどうかな?」
拓真とティアは提案に頷いた。そして魔術師の男は手を出してくる。所謂、"握手"というやつだ。
「私はシリウス、さっきも見た通り炎の魔術師さ。よろしく」
「俺は拓真、印術師だ」
「えーっと、ティアです。神子をやってます」
それぞれ握手を交わして門番のところに向かった。
「止まれ!ここは現在極秘の実験を行っているから誰も通すなと言われてる。わかったら帰れ!」
拓真は思う。何故極秘なのにそれを言うのかと、門番とは古今東西、守るしか能がないのか?
「ルギス所長に取り次いで欲しい案件があるんですよ。ほら、この娘を見てください。研究が大いに捗ると思いまして」
「ふんっ!シリウス、お前はこの間啖呵切って辞めたばかりだろ?よくもおめおめと……ん?蒼い瞳の神子?……確かに珍しいな。ちょっと待ってろ」
シリウスの後ろで拓真はティアの手を強く握る。"俺がついてるから"そんな想いにティアも握り返す事で応える。そして門番が戻ってくる。
「シリウス、そっちの男は護衛なんだな?」
「ええ、そうですよ。もちろん同行しても良いですよね?」
「ああ、構わん。それより、所長室の場所は忘れてないよな?」
「もちろんですとも、門番、頑張って下さいね」
こうしてなんとか研究所に入ることが出来た拓真一行。所長室に向かわず、研究棟実験室に向かった。
実験室に着いた拓真とティアは驚いた。拓真の中では理科室を想像していたのだが、部屋がとても大きく、そして幾つもの鉱石や釜、巨大な試験管が並んでいた。
「タクマ君、これを見てくれ」
シリウスに言われて試験管を覗くと、そこにはブラッドオーガが入っていた。中は液体で満たされており、眠っているようだった。
「やはりこれは違法だ。魔物の研究は許されない禁忌だ!まさかとは思ったが、私が辞めてからこんな事までしていたなんて……」
「う、動き出したりしないのか?」
「大丈夫だ、中は強力な魔術障壁で割れないように保護されているし、スイッチ1つで専用の毒を流せるようになっている。……ッ!タクマ君!隣の試験管が空になっているぞ!」
言われて視線を向けると、3つある内の2つの試験管は空になっており、試験管の底には微量の赤い結晶がこびりついていた。
「お兄ちゃん、これって……」
「ああ、1体はエードルンド邸に向かってもう1体は俺達が交戦したやつだろうな」
そしてシリウスが毒を投入するスイッチを押そうとした時、廊下から声が聞こえ始めた。
「2人とも、取り敢えず隠れよう!」
「わかった!」「うん!」
某ゲームの様にロッカーへと隠れた拓真一行。シリウスは1人で、そして拓真は何故かティアとロッカーに入っていた。
部屋全体が涼しく、ロッカーの中では互いの体温が温かく感じる程だ。ティアは体験入学が終了したにも関わらず制服を着ている。それが逆に背徳感を激増させる要因となっている。
雪奈にやや劣るが、充分巨の領域に達する2つの果実が拓真の身体で形を規則的に変えている。息はすでにリンクしており、次に起こる行動はただ距離を詰めるだけだった。
「おにい……ちゃ……ン……」
背中に回された手に力が込められる。
そして距離がゼロになろうかとした時、部屋で声が聞こえ始めた。
『聞いたか?あの石、遂に完成したんだってよ』
『ああ、今外で起きてるのはそれの影響なんだろ?』
『そうそう、んでもってこの都市の反抗勢力に洗脳したブラッド種をけしかけるなんて、ルギス副所長もぶっ飛んでるな!しかも、噂ではパトリック前所長はルギス副所長に殺されたらしいじゃねえか』
『バカ!今は"所長"だろ?それに滅多な事いうなよ!お前も消されるぞ?』
『そうだったな。悪い悪い』
なんだと!?ライラの親父さんはルギスに殺されたのか?しかも、ブラッド種をけしかけたのもルギス……腐ってやがる!!
拓真は血が出そうな程の握り拳を作り、今すぐにでも飛び出したい気分に駆られた。そんな拓真の激情を抑え込むかのようにティアは拓真を抱き締めて、耳元で諭す。
「お兄ちゃん、今は……ね?お願い」
「わりぃ、助かった」
「うん、お兄ちゃん偉い偉い」
ティアの柔和な声に拓真も冷静さを取り戻す。
『そう言えば、シリウスの野郎が戻って来たんだってよ!』
『領主様にルギス所長の事、直談判した奴だろ?バカだよな~領主様がルギス所長の後ろ楯とも知らずに……』
隣のロッカーの雰囲気が変わったのを感じ取った拓真は、シリウスの無念と悔しさを察した。
そして研究員達は再び部屋を出ていった。
ガチャン
「シリウス……」
「あ~聞かれちゃいましたね。まぁ、そう言う事です……」
ボサボサな髪をボリボリと掻くその男の表情は悲壮感が漂っていた。それを見た拓真は語る。
「俺さ、他にやることが出来た。スイッチ、あれを押せばいいんだろ?俺がやっとくから、アンタは脱出しなよ」
拓真はつかつかと操作盤まで歩き、シリウスが押そうとしてたスイッチを押した。薄い緑色だった液体は赤くなり、ブラッドオーガは少し苦しんだあと大きな息を吐いて霧散し、魔石へと変わっていった。
「やること?」
「さっきの聞いただろ?何かが完成した結果、外に大量の尖兵が出現した……俺はそれを壊す用が出来ちまった」
研究員の語る"石"とやらが完成した結果、あれが発生しているのなら拓真はそれを止める必要がある。だが、シリウスとの臨時パーティはあくまでも"ブラッドオーガ駆除"まで、それ故にこれ以上は巻き込めないと拓真は言った。
「……私にも手伝わせてくれ。ルギスを許せないのは私も同じなのだから。それに、ルギスは元ギルドマスター候補だ。戦力は少しでも多い方がいい」
「マジか、研究者だから戦えないとばかり思ってたが、今回も苦戦しそうだな……」
拓真とティア、そしてシリウスは新たな決意を以てルギスのいる所長室に向かうのだった。




