強化クエスト その2
俺は場の雰囲気が変わってる事に気が付いた。人がいた……それも屋外訓練場の観覧席を埋め尽くすほどの人数だ。
そしてその中から声が聞こえてきた。
「頑張れ~!」
唖然とする俺達を他所に、続いて応援の声が聞こえてくる。それはまるで伝染病のように広がっていく。
「セクハラ野郎なんか倒しちまえ!」「来年も来られなくしろ~!」
「兄さん勝ってください!」「お兄ちゃん頑張れ~!」
あまり期待されたことのない俺は応援の言葉に胸を打たれる。これだけの声援を前に今勝たなくてどうする!
「え、ワシ……悪者だったの?」
「自業自得だろ。それに、ますますアンタに一矢報いる理由ができてしまったからな。覚悟しろよ?」
その言葉に応える様に生体魔道具《ルナ式ロングコート『神』》から声が聞こえてきた。
「タクマ!今は神人格だけど、私の存在意義らしく復讐代行をするのかニャ?血が滾るニャ!」
答えるように俺は相棒であるコートをポンポンと叩いた。そして膨大な魔力が収束するのを感じた俺はロルフの方へと視線を向ける。
「なるほど、では大技で悪役らしく決めるかの”熾天之剣”!!」
再び周囲に展開された炎の剣が1つに凝縮され、長大な炎の剣へと変化を遂げた。その魔術は最初に見たものよりも一回り大きく感じた。そしてそれはまだまだ膨張を続けている。
俺は再度自身のジョブについて思考を繰り返し、1つの答えを導きだした。
印術師は自身の在り方を重ねるジョブ……印とはその存在がどういうものかを表すモノ。なるほど、俺自身が在り方を小さくしていた訳か……。だったら、こうすれば良いんだろ!
俺は手を前にかざして闘気を中空に伸ばし、線を描いていく。続いてその線を魔功で溶かした”炎弾”を辿らせていく。それを見た生徒の1人が呟いた。
「あれは……剣?」
2本の剣が交差するようにそれは描かれた。ロルフも不思議にそれを見つめていた。
「何じゃ?ワシはお絵描きの為に魔功を伝授した訳じゃないぞ!」
叱責を飛ばすロルフを無視して俺は語る。
「俺はさ……絵が少しだけ得意だったんだ。もしかすると、印術師ってのは俺にとってはラッキーだったかもしれない。ほら、見てみろよ。上手いだろ?」
完成したそれを見た生徒の1人がポツリと呟く。
「これは……紋章?」
自作ジョブ、そして自作奥義が完成した瞬間だった。
眼前の紋章は一際赤く輝いた後、拓真の中に吸い込まれていった。そして完成したスキルの名を口にする。
「”身体強化『剛』”……力強さの赤、そして力の象徴である剣を紋章にした新たなスキルだ。これならアンタのそれを破る自信がある」
「ほほう、ワシも丁度完成したところじゃ。ならば!大先輩として、採点してやるわいッ!!」
ロルフの放った巨大な剣が眼前に迫ってくる。これを迎え撃つために剣を正眼で構え、そしてぶつける───自作奥義を。
拮抗する熾天之剣と拓真。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!”自作奥義・反撃剣『竜狩』”!!!」
剣の周囲を闘気と魔功が螺旋の如く渦巻き、炎の剣を分解し、絡めとり、竜巻へと変換してロルフへと放った。
ロルフは咄嗟に”業火の城”で迎え撃つが、即席で作られた城はロルフ+拓真の魔力の前に吹き飛び、ロルフはスタジアムの保護障壁を突き破って壁に激突した。
辺りに静寂が訪れ、拓真自身は魔力切れでバタンと倒れた。ティアを抱えた雪奈が縮地で現れ、拓真を抱き抱える頃には静寂が破れる事となった。遅れて到着した男性講師も興奮が収まらないようで叫びながら近付いてきた。
「やったああああああああ!っといかんいかん、”タクマ君”は最優先で医務室を使えるようにしておいたから、後は任せて行きなさい」
雪奈とティアに運ばれる中、拓真は天へとガッツポーズをして訓練場は大歓声に包まれるのだった。
「先生、ロルフ先生はどうしましょう?」
「放っておけ、今日で任期も終わりだし、もう他人も同然だろ。……来年からは印術師、いや紋章術師殿に来てもらいたいところだ。」
「あはは、そうですね!」
場に残されたのは、瓦礫の中で地面に升を書く老人だけだった。




