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強化クエスト その1

 西の方角を治める大都市『パルデンス』、ここに来た当初は冒険者ランクBになって『封印の点検』と言う名のクエストを受けるつもりだった。


 そもそもこの世界に喚ばれた理由がわからなかったから、一番怪しい封印の確認をしたかったのだ。

 なのに気付いたら、後継者不足に焦るギルマスと共に女の花園で面付き合わせて訓練をしている。


 こんな苦行の中で唯一の救いは午後の女子生徒達との訓練だ。初日は俺をロルフの仲間かもと敬遠されてたが、3日目くらいから手を振ってくれるようになった。


 今では微笑みかけるだけで黄色い声があがるから少しだけにやけてしまう。唐突に神と人格が交代するルナの話しによれば、雪奈が俺の良いところを布教している影響なのだとか……ま、雪奈がそんな事するわけ無いだろうし、俺は信じてないがな。



 ドゴォンッ!!


「こりゃっ!何を回想に浸っておる!」


 俺はロルフの一撃を受けて思考の海から引き戻された。


「いや、アンタだって気持ちはわかるだろ?」


「そうじゃな、ワシだってむさ苦しい男よりも女体と訓練したいわい。にしても……お主、先程から集中力が落ちとるな?」


「アンタの魔術を耐えきれ、だっけか?加減してくれてるのはわかるけど、重いし、鋭いしでこうも抗えなかったらやる気も落ちるぞ……」


 例えば、ロルフがファイヤボールを放つとする。それに対して俺は有効属性である水刃あたりで相殺しようとするが、双方が触れた瞬間に俺の魔術が霧散するからどうしようもない。


 もちろん『魔功』を活用して水刃を針状にしたりドリル状にしたが結果は変わらなかった。

 さらに知恵を絞って土魔術で石壁を出し、それに水属性を付与し、泥壁で対抗しても効果がなかった。


 ロルフと対峙したサテュロスと言う魔族はロルフの作り出した無数の炎の剣を10分間耐えきった為、俺もそれを目安に頑張る必要があるのだとか……。


 北で生き残るにはそれぐらいの力が必要なのはわかる。だが、火炎放射器相手に水鉄砲で対抗するようなものだぞ?


「あいわかった!やる気を出させてやろう!午前中に耐えきれなければ──これを公開する!」


 ロルフが持っている紙のようなものに注目する。それは『写真』だった。いつの時代の勇者かわからないが、カメラをこの世界で再現したのだろう。


 写っていたのは”俺とティアがキスをしているシーン”だった。朝、雪奈が忙しくて起こし来る事が出来ない時にティアが1度だけ来た。その時に軽くのつもりでキスをしたのだが、まさか撮られていたとは……。


「──少しはやる気になったかの?」


 俺とティアの想い出がこんな奴に汚される事も我慢ならないが、ティアが俺にだけ見せてくれる顔を他の奴に見せたくない!


 俺はほとんど柄の部分しかない元機械剣を握り締めて魔力を流す。ナーシャにもらった指輪の効果でみどりの刀身が姿を現した。


「ああ、アンタは悪ふざけが過ぎた……。耐えるだけじゃ気が済まねえッ!一撃いれてやる!」


 "自作スキル・エリアルステップ"


 闘気で靴を包み、風属性を付与して高速移動を行う。雪奈の縮地に憧れて作った自作スキルだ!


 ロルフの"炎剣連舞"を避け、胴に一太刀入れる。だが、真っ二つになったはずのロルフは炎となって消えた。そして少し離れた位置から声が聞こえた。


「甘いのぉ~"自作スキル・燃え盛る炎の人形(フレイムドール)"じゃ。お主が自作スキルとか調子に乗っ取るからワシも作ってやったわ!お主達の世界では『影分身』と言っとるじゃろ?さあて、驚いてる暇はないぞ?今度は大技じゃ、受けてみいッ!"熾天之剣ヴァーミリオンブレイド!!」


 複数の炎の剣が1つとなり、炎による重圧を伴って迫ってくる。どう見ても手加減ではない。いや、これでも手加減してるのだろう。


 頬を汗が伝う中、耳元で声が聞こえてきた。


「やぁタクマ!お困りかニャ?……ふむふむ、相手も『システム外スキル』を使ってるね」


 システム外スキル……闘気や魔功の事か。しかし、お互いに対等な戦いならレベル差も含めて勝ち目は絶望的、どうすれば──。


「実はあのロルフ、才能はそれほど高くない男ニャ──」


「良いから黙ってろ!今はそんな話しを聞いてる場合じゃない!」


 話し掛けてくるのは黒のロングコート、今の状況で奴の昔話を聞いてる暇はない。それでも生体魔道具《神ルナ》は続ける。


「まぁ、いいから聞くニャ!ロルフの使える魔術は土魔術が初級まで、炎魔術が中級までしか使えないニャ。ここからは予想だけど、あれは魔功でファイヤボールを極限まで極めてるニャ」


 つまり、あれらすべてが”ただのファイアボール”だって言うのか?そして俺が驚愕してる間にも巨大な炎の剣は迫り、もう考える猶予はなかった。


 やむ得ず俺は最終手段であるルナの備蓄魔力で魔力障壁を展開、巨大な炎の剣を背後に流すように受けた。


 バリバリバリバリッ!


「ぎゃああああああっ!痛いニャ~~~!」


 バリンッ!


 くっ、緊急用魔力障壁が割れるなんて。ルナと共に戦ってきてこんな事は起きなかった。背後から吹き付ける熱風が想定外過ぎる威力を物語っていた。


 ルナの残存魔力は半分以下、もう展開はできない。


「痛かったニャ……。もう痛いのは嫌だから単刀直入に言うニャ。タクマのライバルジョブである『付与術師エンチャンター』と『印術師』との違いを見つけるニャ。闘気、魔功、それらを合わせて違いを見つければ活路は拓けるはずニャ!」


 この世界に来てすぐにアルフレッドの『説明書』でジョブの詳細を俺は見た。特徴的だったから今でも覚えている。


 ・付与術師エンチャンター、世界の理をホンの少しだけ仲間や武具に貸し与えるジョブ


 ・印術師、印を用いて自身に在り方を重ねるジョブ


 貸し与えるジョブと重ねるジョブ……この違いは果たして。


 考えてる間にも攻勢は続き、少しずつ追い詰められていく。先程の大技を使わないのはやはりこれが訓練の一貫故だろう。



 俺が息を切らし、膝をついてると、周囲が信じられない光景に変わってる事に気が付いた。

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