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エードルンド魔道女学院中等部 1

「えーっと、ロルフ臨時講師の補助をすることになりましたタクマです。よろしくお願いします」


 簡単に自己紹介をし、パチパチと控え目な拍手を受けながら周囲を見渡すと、俺は絶句してしまった。生徒のほとんどがなぜか嫌悪の視線でロルフを見ているからだ。


 そんな中、こちらに視線を向けている存在が3つ。その視線の主のことはよく知っていた。雪奈、ティア、ライラだ。雪奈は少しだけ恥ずかしそうに俯いている。当然だろう、20代で中等部の制服を着て溶け込んでいるのだから……きっと何かを吹き込まれて無理矢理に仮入学をさせられているんだろう。外見はまだ10代と言われても他人なら気付かないレベルなので、そこまで気にしなくても良いと俺は思う。


 ティアは普通に雪奈の隣に座っている。拓真はそれだけで安堵した。迫害の懸念があったが、この魔道都市国家は迫害に意識を割くより魔術的戦術を考察した方がいいと言う考えの人間が多いため、杞憂に終わっている。


 そんなティアだが、ライラが俺に小さく手を振ってるのを見て雪奈に耳打ちをしている。後で二人から追及されるかもしれないので言い訳を考えておかなければいけないな……。


「さて、ワシらは戦術訓練担当じゃから時間まで校内を案内してやるわい」


 こうして座学担当の講師と入れ替わり、俺はロルフの案内を受けることにした。ただの案内にスキップでもしそうな程にロルフが上機嫌なのが伝わってくる……それに反比例して俺は不安になったので先程の視線について聞いてみた。


「なぁ……あんた、前にもここに来てるだろ?あの視線尋常じゃなかったぞ?」


「毎年来とるよ?その度に少しだけやんちゃしただけじゃ」


「やんちゃって何をしたんだよ」


「それは後程わかるはずじゃよ。っほっほっほ」


「……はぁ。俺を巻き込むなよ?」


「安心せい、きっと”有意義な時間”な時間になるだろうから覚悟しておくことじゃ」


 案内される中で元の世界と違ったのは、やはりこの世界特有の魔道に関する部屋だった。錬金術に関する部屋や魔術訓練場などは興味深かったが、最後に案内された部屋は物が大量に置かれているだけで、魔術的な要素を感じなかった。


「ここは物置じゃ」


「だと思った。ここを見せる意味あったか?」


「良いものを見せてやるからこっちに来てみ?」


 ロルフに呼ばれ、物置部屋の”何の変哲もない壁”まで誘導された。


「ここ、見てみ?」


「ん?なんだよ、何があるんだよ」


 壁には穴が空いていて、中を見たときには緑と肌色の景色が広がっていた。こ、これは!……二つの丸みを帯びた物体を緑のフリルのついた布で包んでいる。そう、隣は女子更衣室だったのだ……。

 長い黒髪、二つの大きな物体、そして左腕のホクロ……見覚えがある。これは雪奈だ! 戦闘用の服に着替える途中なのだろう、次はスカートに手を掛けるところだった。


 これ以上はまずいと顔を離して冷静になると、次第に怒りの感情が込み上げてきた。


「おい、ロルフ!お前、俺の妹を覗こうなんていい度胸だなッ!!」


 順番待ちをしているロルフの後頭部を掴んで身体強化全力で壁に叩きつけた。

 しかし、さすがはパルデンス最強……壁に当たる寸前で魔術障壁を展開し、緩和しやがった。


「何をするッ!ワシは一応上司だと言うことを忘れておるな?」


「うるせえ!少しは尊敬されることでもして見せろ!」


「だから良いものが見れる絶好のスポットに案内してやったじゃろ?」


 ドタドタッ


「お主が騒ぐから気づかれたじゃろ!無礼を働いた罰じゃ、袋叩きにでもあうがいい!!」


 ロルフはいきなりジャンプして天井に張り付いた。そして天井に張り付いたロルフは俺を見てざまぁという顔をしている。


「へっ!舐めるなよ、戦闘ではいつもハンデ抱えてるがな。こういう場面では俺の応用力が活きるんだよッ!」


 水属性と光属性の印を闘気で包んで圧縮合成し、自身に付与する。


”自作スキル・光学迷彩インビジブルシール


 ガラガラッ


 正直ギリギリだった。付与が完全に終わったと同時に扉が開く……。入ってきたのは武装した雪奈と数人の女性徒だった。


「またあのジジイね!まだ近くにいるはず、二人だけ残って他は近くの教室から捜索して!」


 雪奈と残ったメンバーが室内の捜索を始めた。俺の光学迷彩インビジブルシールは急な移動をすると剥がれるから慎重にぶつからない位置に移動する。

 俺のスキルを見たロルフは信じられないものを見るような目で俺を見ている。ふっふっふ、お前の隠密の甘さを思い知らせてやるよ。

 俺はゆっくりとしゃがんで地面に落ちてた小石を手にとって火を付与したあと、デコピンでロルフにぶち当てた。


 ヒュンッ! バシッ! カランカラン……。


「今の音なに?」


 全員がロルフの真下まで移動する。耐えてもバレるぞ?そらもう一発だ!


 ヒュンッ! バシュッ!!


 っち!魔術障壁で防ぎやがった!なら、これでどうだッ!! 今度は2連続で小石を飛ばした。


 ヒュンッ! バシュッ! ヒュンッ! バシッ!!


 思った通り1発目は防いだが時間差で飛んできた2発目はもろに受けていた。ロルフは顔が青ざめている、そしてもろに受けた小石が女性徒の上に落下してしまった……。


 パラパラ


「ん?上から小石が……ッ!? みんな、いたわッ!上よ!集中攻撃!!」


 袋叩きにあったロルフは何重にもバインド魔術と封印魔術を受けてどこかに連れ去られてしまった。そして全員が立ち去って行く中、なぜか雪奈が残っていた。


「?……スンスン……兄さんの匂いがする……」


 ゆっくりとこちらに向かってくる、徐々に壁際にまで追い詰められた俺はしゃがんで突き出される顔を避けた。雪奈の長い髪が鼻に当たり、胸が目の前で揺れている。絶体絶命かと思われた状況でガラガラと扉が開いた。入ってきたのはティアだった。


「セツナ……お姉ちゃん、次の授業に行かないんですか?」


「ティアちゃん、お姉ちゃんって呼んでくれてありがとう!ここらへんに兄さんの匂いが漂ってた気がしたんですが……偶然かな?」


 ティアはそれを聞いて辺りを見回したあと、じーっとこちらを見てくる。見えてないはずだよな?


「セツナお姉ちゃん、行こっか?」


「そうだね。遅れたらいけないし」


 そう言って雪奈が出ていくと、ティアはこちらに向けてウィンクして雪奈の後をついていった。ああ、そう言えばティアは魔力探知を持っていたな……。本家の魔力探知には劣るが方向くらいはわかったのだろうな。見逃してくれたティアに後でお菓子でも持っていくとするか。


 こうして拓真は何とか袋叩きを回避するのであった。

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