幕間 雪奈の心 2
ナーシャさんに兄さんの居場所を聞いた私のお話し。
まず最初にハイデの街に辿り着きました。ここはパルデンスに行くのに絶対通る街なので回り道をよくする兄さんなら、もしかするといるかもしれない。そんな期待を持って宿屋付近を捜索していると、女の子の声が聞こえてきました。
「お兄ちゃん、手放すなら今だよ?」
手放す……話の流れがわからないですが、複雑な環境なんだな……。などと考えていると、私が一番聞きたかった声が聞こえるじゃないですか!
私は建物の角から声の聞こえる方向を覗き込みました。
「俺な。独りで寂しかったんだ。お前が居てくれて少しだけ救われたんだ、ならお前をこんな場所で離すわけないだろう?ティアを解放するときは、きちんとティアの居場所を作ってからだ」
我が兄が、銀髪が綺麗な蒼い瞳の少女の頭に手を置いて、優しく語りかけているではありませんか!
その光景を見たとき、私の胸は張り裂けそうなほど痛くなりました。……胸は私の方が大きい、じゃなくてッ!流石に子供ではないのでこの感情のことはよくわかっています。
嫉妬、というものです。となればやはり……兄さんに惹かれ始めてるのかもしれません。ただ、兄を取られたくない、そう言う感情から来ている可能性も捨てきれないので断定はできません。
兄として好きなのか、男性として好きなのか、まだわからないですが……後者であれば私はどうしたらいいでしょうか……。
私はポケットに入っている薬を握り締めていた。
これは……ノア君がくれた薬。確か兄妹姉弟で子供を作るときにしか作用しない薬……。リスクを通常妊娠レベルまで引き下げる効果だったよね?これを使えば……。
ハッ!な、何を?今何を考えていたのでしょうか!?
ただ、兄さん以外とそう言う関係になるのは想像ができない。向こうの世界と違ってこちらは割りと寛容だから答えを出すのに邪魔は入らないはず、だからその時は兄さんにも覚悟を決めてもらおう!うん!
「なんだいこれは!」
しまった!嫉妬のあまり壁を凍らせてしまった!通りがかった女性と兄さんが走ってくる音が聞こえるので私は縮地を使って逃げました。
☆☆☆
こうして雪奈のストーカーが始まったのだが、このまま尾行をしていてもいずれはバレてしまう。もちろんバレたいという気持ちもあるが、あのティアという子と楽しそうに話す兄さんを見ると名乗りづらくなり、ズルズルと日数だけが過ぎていった。
もしバレるとしたら安全な環境でバレるべきだろう。そう考えた私は近くで機会を伺うために変装をすることにしました。まず、騎士団を抜けるときに貰った退職金を使って特注の甲冑を作ってもらい、作戦を練った。
私の作戦はこうだ。
謎の甲冑剣士として兄さんに近づく
↓
仲良くなって信頼を勝ち取り、パーティに入れてもらう
↓
兄さんがティアちゃんから離れて一人になったところを狙って名乗る
兄さんの今のレベルはわからないけど、恐らく30前後だと推測する。連れのティアちゃんのレベリングをしているところをよく見かけるので、徒歩でパルデンスを目指すようだ。道中の平原の推奨レベルは30ですからね、せめて25くらいは必要でしょう。
そして時は来た!クエストボードに『パルデンスまでの護衛募集』が貼り出されていた。ギルドマスターのロルフという人も護衛すると記載されてるので楽な仕事になるはずです。
兄さんなら絶対に食いつくはず、と思った私はすぐにその依頼を受注しました。まぁ、急ぐ必要も無いんですけどね……。パルデンス地方の冒険者ギルドは閑散としていて日中にもかかわらず人がほとんどいなくて、ギルドマスターが助っ人をするほどなのですから。
依頼を受けて何日か待機してると、私以外にも受けた人がいるという報告を受けました。心臓をバクバクさせながらギルドマスターに連れられて応接室に入ると……ああ、受けてくれたのですね。兄さん。と歓喜のあまり抱きつきたかったのですが、兄さんの隣にいたティアちゃんのせいで萎えてしまいました。
兄さんがじーっと私の方をみて考え事をしている。ドキドキ……もしかしてバレちゃいました?あ、会っただけでバレるなんて───愛、なのでしょうか?
「ニャー」
ガリガリ
久しぶりにあったルナが私の甲冑を引っ掻いている。迂闊でした、一応猫だから私ってバレてるのでしょう。冷や汗をかいていると兄さんがルナを抱き上げて私に謝ってきた。
───本当に謝りたいのは私なのに……。
そして次の日護衛が始まりました。正直オズマとかいう強姦共犯者とは一緒にいたくないので私は後方の兄さんが乗る荷馬車に乗せてもらいました。
……はぁ。喋れないというのは辛いですね。手を伸ばせば届く距離に兄さんがいるのになかなかチャンスが訪れない……。でも私は諦めません!!いつかきっと一人になるときがあるはずです!
異世界組は気付いてないかもしれませんが、料理の味付けは兄さんの好みに仕上げてます。強姦共犯者のオズマが途中いちゃもんつけてきたので兄さんの顔を立てて量だけ戻してあげました。ガチムチタンクのオズマさんは頭まで筋肉で出来てそうなので肉は入れませんでした。ふふ……感謝してくださいね?
そして順調に護衛が進んでいきましたが、突如兄さんの使ってるエネミーディテクターに反応が出てしまいました。斥候に行った兄さんの話では原初の森の境界にいた魔族が待っているらしいのです。
戦力の要のロルフも現在100体くらいのブラッド種と交戦中と連絡が入りました。困窮しているこの状況でライラとメイドが急に飛び出したのでさらに状況は悪くなるばかり……。
そこで兄さんの提案で兄さんがライラを、私たちはロルフの援護をすることに……。あなたはまたそうやって一人危険なことをするのですね。
兄さんの背中が徐々に遠くなっていく……追いたい、追いたくて仕方がない。
仕方なくロルフの援護に向かうことにしました。
到着するとロルフと魔族による魔術の撃ち合いが始まっていました。
ロルフの戦法は圧巻の一言、下級魔術・炎弾を数十個自身の周りに展開させたあと、雨あられの如く魔族に浴びせてました。魔族は闇の結界で耐えてますが誰がどう見ても時間の問題です。魔族は恨めしそうにロルフを見ている……前にアルと戦って勝てなかったのになんで無謀にも挑むんでしょうか正直疑問です……。
「なんじゃ?お主ら、動くなと言うたじゃろ……。まあいい、スノウに頼みがある。今からでもタクマを追え、お主がこの中で一番速いはずじゃ」
「おいおい、甲冑着てて速いわけないだろ?」
「いやいや、ワシの目は誤魔化せんぞ。その中の肢体……ぬふふふふふ。いかんいかん、話がずれそうじゃった。とにかくスノウで決定じゃ、ほらはよいけい!!」
やった!兄さんと二人っきりのチャンス!ロルフありがとうございます!
私は丁寧にお礼して全速で兄さんのいる方向に駆けていきます。正直甲冑で縮地を連発すると吐きそうになりますが兄さんのためです!
邪魔な木をスパスパと斬り倒しながら豪快に進んでいく、そして遂に辿り着いた。
ガキン
ライラが兄さんを死角から狙っていたので刀で弾いて兄さんの横に降り立ちます。どうです?褒めていいですよ?あ、兄さん驚いてる。かわいい!
兄さんから提案された作戦を展開していきます。私がメドーナとかいうメイド擬きの相手をして兄さんがライラの攻撃を受け流す、そしてライラが私を狙った瞬間に上手く軌道を反らして兄さんの方に向ける……縮地で吐きそうなのと魔力不足で雪月花の雪を一回放てればいいというレベルですが、やってみせます!
───私と兄さんの久しぶりの共闘なのですからッ!!!
結果、勝利しましたがメドーナは私に語りかけてきました。
「お前たちは北の現状を知らないから我らの無謀とも言える作戦を理解できない……。そのまま油断していつか喉元を引き裂かれるがいい……さ……」
魔族が黒い霧となって消えていく、最期の言葉に一抹の不安を覚えながらも兄さんの方を見る。
え?兄さん?にい……さんが……倒れて……ッ!
「にいさああぁぁぁぁぁん!!!」
私はロルフたちが合流するまで氷で兄さんの患部を止血して待っていました。叫んだときは気が動転しましたがよく見るとそこまで深くはなかったです。話によると、倒れたのは魔力疲れとのこと……魔力自体は有り余るほど残ってるけど、魔力を使うと体力も減るのでそれを考慮せずにエネミーディテクターを使い続けたのは良くなかったそうです。
そして護衛を再開し、無事にエードルンド家についた私達は一応兄さんのパーティなのでそのまま保護される形で屋敷に滞在しました。マルグレットさんの器の大きさに貴族は決してブルックのようなのばかりでないことがよくわかりました。
ドクン……ドクン……
兄さんがお風呂にいます。今しかチャンスがないのでこれから誤解を解きに参ります。
───覚悟してくださいね。兄さん。




