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出会い

 中央都市国家を旅だって10日、拓真はハイデという街で休息を取っていた。

 ハイデの街は西方に位置する都市国家パルデンスへの中継地点として扱われる旅の要所である。

 南方のメルセナリオとは比べ物にならない程に、西方の地は魔道に傾倒している。そのためか、宙を浮くクリスタルや火のでるコンロに似た魔道具等が広く浸透しているのが見てとれた。


 物珍しさに拓真は街角のカフェにあるテラスから道を通る人たちを眺めていた。


 どこもかしこもエメラルド色で目が痛いな。にしても、交通の要所らしく人通りが凄いな。途切れる間もないとはこのことだな。


 拓真が見渡していると、向かいの一角に鉄格子で出来た檻が大量に並んでるのに気が付いた。


 ん?檻のなかに人……?


 よく見ると競りの様なものが行われている。拓真はカフェを出て興味本意で近付いていく。


「すみません。お客様、競りがたった今終わりました。またの機会にお越しください」


「いや、俺は興味があって来ただけだ。何を売ってたんだ?」


「おお、そうでしたか!ここでは『奴隷』を売買させていただいております」


 奴隷……異世界定番だな。というかブルックの流した奴隷も、もしかするとここにいるかもしれない。


「ブルックとか言う貴族から流れた奴隷はいないか?」


「あれは違法奴隷であります!我々は犯罪者、もしくは先住民などを捕獲して売りさばいておりますゆえ、至って健全な商売であります。きちんと国の認可もありますよ」


 そう言って奴隷商はカードの様なものを掲げてくる。


 だとしたら買う意味もないか……。

 拓真はここに来るまでに小さな討伐クエストを少しずつこなして貯金してたため、ある程度の資金は持ち合わせていた。そして、ブルックの流した違法奴隷がそう数少ないこと知っているため、買って解放すると言う自己満足を行うつもりであった。


 立ち去ろうとしたとき、隅っこの檻で何かが動く気配を感じた。


「おい、一人余ってるがコイツはなんだ?」


「え?えーっと、この奴隷は『不幸の月』と言われてる奴隷でして……」


「不幸の月?なんだそれ?」


 拓真がそう言うと、奴隷商は淡々と説明を始めた。


「400年前の悪神討伐後に、反旗を翻した魔族の事は知っているでしょう?その魔族に与したのが神子だったのです。それ以来、神子の一族は世界に追われて隠れ住んでおりました。そこを先住民として捕獲されてしまったのでしょう……」


「それは不幸とは関係ないだろ?」


「いえいえ、他にも神子の末裔が奴隷になる話しを仲間からいくつか聞きましたが、何人かはおおよそ一ヶ月に何者かに襲撃されて命を落としております。奴隷商の間で交代ずつ受け持てば襲撃が無い事がわかったので、今は私が受け持っております。みんなこれのことは存じているようで、買い手がみつかりませんよ……」


 中にいる奴隷を見ると、長い銀髪で蒼い瞳の少女だった。

 ん?銀髪?……どこかで見たことがあるような……。ダメだ思い出せん。


「もしかして──お買いになりますか?通常の奴隷が10万Gですが、この奴隷は1万Gでお売りします。どうですか?」


 1万……人の命を金で買うのはいい気分しないが……。


 ここ数日間、俺は思っているより孤独に弱いことを思い知らされた。思えば、この世界では雪奈が常に隣にいた。しかし、もうその雪奈も中央都市国家に残っている。

 どうしたものかと思案に耽っていると、檻の中の少女と目が合った。その蒼い瞳はとても澄んでいて、よどんだ心を洗い流してくれるかのような優しい瞳をしていた。

 ───そして俺は寂しさのために買ってしまった


「奴隷商、この少女が欲しい」


「ありがとうございます!年齢は18歳、ジョブは月の神子、レベルは20でございます。それでは、存分に扱ってやってください」


 買った俺も俺だが、勘に障る制度だな。

 目の前に神子の少女が現れる。精神的トラウマでもあるのか怯えていた。


「……はぁ。お前、名前は?」


「……ティア……です」


「ティア、今日から俺がお前の主人だ。よろしくな」


 拓真が手を差し出すが、ビクッっと震えて中々握ってくれない。仕方なく拓真から強引に握手をしてそのまま宿に向かった。



  ☆      ☆      ☆



 宿にて若い男女が向かい合って座っている。


「まずはティア、方針だけ教えておく。俺には目的があって、それが達成されたらお前を解放する。戦闘も色事もしなくていいけど……その、添い寝だけはしてほしい……」


「……添い寝、だけですか?」


 ティアは困惑していた。今まで誰も買い手がいなかったた為、実務経験は皆無だが奴隷としての在り方は教育されていたからだ。

 だが()()()()()()()()()()()内容だったために、それが彼女の緊張を解す形となった。


「俺は意外に孤独に弱くてな、この間までパーティ組んでた人が抜けちゃってさ。夜に隣に誰もいないのが寒く感じるんだ」


 少しずつだがティアは彼を理解し始めた。ティア自身も家族と引き離され、不幸の烙印を押され、誰も自身を理解してくれない寂しさを感じていたため拓真の気持ちがわかるのだ。


「わかりました。今日はもう遅いですし、早速どう……ですか?」


「ああ、そうだな。でも俺が寝付いたら自分のベッドに戻っていいからな?」


「はい、ベッドに参りましょう」


 雪奈以外と床を共にしたのは元の世界を含めても、彼女が初めてだった。

 お互いに毛布の中で向かい合う。窓から差し込む月光が銀髪を一層映えさせた。

 綺麗だ……。拓真は思わずそう呟くと、ティアはボッと顔面を真っ赤にさせて『ありがとうございます』と返して微笑んだ。


  ☆      ☆      ☆


 チュンチュンと小鳥の声が聞こえ、朝日に目が刺激を受けて意識を覚醒させた。

 ……え? まず、ムニュンとした感触がした。そしてアンッと言う声が頭の方で聞こえてきた。

 ……ティア、雪奈より大きいな。

 すると、拓真の頭を抱き抱えるように寝ていたティアも目が覚めたようだ。


「ご主人様の嘘つきさん。そう言うのはナシだって言ったじゃないですか」


「ゴメン!俺、そう言うつもりじゃ……俺、何かした?」


 寝てる間、なにもしてないよな?そもそもやり方わかんねえし……。


「ふふ、可愛いですね。安心して下さい。何にもしてませんから」


「なぁ、ティア。雰囲気が少し違うくないか?」


「そう……ですね。今まで私の容姿をみんなが蔑んでいました。でもあなた様は綺麗だと言ってくださった……落ちるにはじゅうぶんな理由だと思いますが?」


「でも俺は」


……チュッ


 いい切る前に頬にキスをされた。拓真が頬に手を添え、唖然としてると口にロックオンされたのでそれはさすがに防いだ。


「……名前、教えて下さい」


「あ、ああ。拓真だ」


「ご主人様、私は一応奴隷ですので名前を気安く呼ぶことはできません。どうかお許しください」


「いや、いいけど……そのご主人様もやめてくれないか?どうにもむず痒い」


「名前とご主人様がダメ、となるとなんとお呼びすれば?」


 拓真の蔵書には確かに妹ものが多いが、実はほとんどが歳の離れた妹ばかりだった。歳の近い妹にクールに『兄さん』と呼ばれ続けた反作用もあったのだろう。

 秘めていた感情が発露してしまった。



「じゃ、じゃあ……『お兄ちゃん』って呼んでくれないか?」

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