ダンジョン攻略 後編 雪奈サイド
side 雪奈
私は兄さんの事をルークに話した。彼は約束してくれた……決して悪いようにはしないと……。
だけど、心の中にはとんでもないことをしたんじゃないかと……そう思う自分がいる。
「いいかい?これから君はフォルトゥナ騎士団の客分扱いだ。雪奈君と呼ばせてもらうよ?一般人は騎士団に同行する権限がないから仕方ない処置だ、わかるね?」
「わかってます。代わりにあなたは可能な限り弁護してくださる……そうでしょう?」
「ああ、約束する!」
目的の館は8階層に存在していた。館の随所には魔物避けの魔石がセットされている。
「ブルック本人はいないのにどうしてまだここに送られてるんですか?」
「ごめん、それは私にもわからない……救出してから話しを聞くしかないだろう」
その理由を無視してはいけない気がしたが、この時の雪奈はハワード親子を助ける事を優先してしまった。
館に到着し、遠くから庭の状況を確認する。
館には数名の警備がいた。どれも騎士の風貌だが、漂う空気はとても正規の騎士には見えない。
酒を飲む者、カードで遊ぶ者、かなりだらけているのだ。
「雪奈君、君は裏門から進入してくれ。私は真正面で騎士を炙り出す」
「わかりました。救出は任せてください!」
ルークの作戦はシンプルで稚拙に見えるが、とても被害者に配慮しているものだった。
ルーク本人が戦闘を行うともしもの際、被害者に犠牲が出てしまうからだ。それ故に正面からルークが挑発し、統制のとれていない騎士は当然誘いに乗る事となる。
そして作戦は決行された。
「やぁ、君達。私はフォルトゥナ騎士団の副団長のルークという者だが、この施設は何かな?責任者を呼んでくれ」
そう言うと、突然周囲から拘束魔術が発生し、ルークをがんじがらめにした。
「これは反逆行為と見て良いのかな?じゃあこちらも仕掛けさせてもらうよ」
ルークは拘束魔術を”スキル・イルミナス”という光の剣で薙ぎ払った。そのまま止まることなく立ちはだかった騎士二名を斬り伏せる。
ルークは作戦通り館には入らず、正面の庭で仁王立ちしたまま叫ぶ。
「さあ、かかってこい!ここで私を殺さねばお前たちは罪に問われるぞ!」
☆ ☆ ☆
雪奈はルークが戦ってる間に裏門から中に入った。
1階は騎士たちが豪遊してたのか、食べ物が散乱していた。2階は青臭い臭いがあちらこちらで発生している。恐らく味見をしていたのだろう……。
雪奈は1階に戻ったあと、地下に続く扉を開けた。地下は全て一つの広大な部屋で、鉄格子が大量にセットされていた。
「た、助けてくれ……」「……ぅぅ……」「いやあ!……やめて!」
中はひどい有り様だった。女は何かに怯えるように発狂して叫び、男は虚ろな目で誰もいないところに助けを求めている。中には痩せ細った子供までいる有り様。
……酷い。早く助けなきゃ!
「待っててください!すぐに助けます!」
だが、鉄格子を鍵で開けても誰も出る気配がない。恐らく洗脳に近いことが行われていたのだろう。
……このままじゃルークさんのところに行かなかった騎士が来るかもしれませんね。仕方ありません、少し強引でも運び出します。
「すみません。運び出すのを手伝ってください!」
雪奈に続いて侵入をした護衛の騎士に頼んだ。そして魔術に長けた魔導騎士が睡眠魔術で眠らせて一ヶ所に集めていく。
集めた犠牲者をもう一人の魔導騎士が転移結晶で転移させる。
そして転移を待っている人の中にサチがいるのを見つけた。
「サチちゃん!私だよ!雪奈だよ!」
「おねえ……ちゃん?うう……ひっく……お父さんが……私を守って……」
「サチちゃん!ごめんね!私のせいで……ごめんね……」
雪奈とサチは泣きながら抱き合っていた。そして落ち着いた頃にハワードさんの最期をサチが語った。
「お姉ちゃんは悪くないよ?悪いのはブルックって人……そうお父さんが言ってたの。お父さんはサチが叩かれようとしたときに騎士様に逆らって殺されたの……だからお姉ちゃんは悪くない、悪くないの」
サチは悔しそうに俯きながら雪奈と自身に言い聞かせ、ゆっくりと転移場所に移動した。
雪奈が顔を上げるとサチはサッと振り向いて手を振って言った。
「お姉ちゃん、私頑張る!……だからお姉ちゃんも頑張って!」
雪奈は涙で濡れる顔を笑顔に変えて手を振り返し、サチを見送った。
サチちゃん強いね。……私、そんなに強くなれるかな。
☆ ☆ ☆
事後処理を終えたあと、ルークと雪奈は最下層の扉の前で待っていた。
それは雪奈との約束を守るため、そしてルーク自身も拓真を正当な罪科で救うためだ。
「雪奈君、わかってると思うけど……彼は抵抗するはず。絶対に死なせはしないけど、多少の怪我くらいは覚悟してほしい」
雪奈は俯くしかできなかった。
わからない……私は一体なにがしたいの?兄さんを助けるために兄さんを傷付ける……本当に正しいの?
ここに来て、現実味を帯びていく状況にようやく自分がしていることに気づき始め、そして自身の心がわからなくなっていた。




