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武器改造とダンジョン攻略準備

 ブラッドオーガを討伐したあと、俺たちは気絶した女性を宿屋に運んで自室で看病している。雪奈にはクエスト失敗の報告と、ブラッドオーガの討伐証明である魔石を換金しに行ってもらった。

 クエスト失敗の理由はオーガ10体の討伐を失敗したためだ。気絶した女性がどうやら先に倒してしまったみたいなのだ。

 だからと言ってこの女性が悪いわけではない。少し奥に進めばまだオーガがいたかもしれない、それをしなかったのは女性をそのままにしてクエストを続行するほど落ちぶれていないからだ。


「……ぅ……ン……ここは?」


 女性が目を覚ましたようだ。


「ああ、ここは俺と連れが宿泊している宿だ」


「貴方が助けて下さったんですか?……ありがとうございます。私はアナスタシア = グレシャムと申します」


「えーっと、アナスタシアさんはあっこで何を?」


「ナーシャとお呼びください!親しい方はそう呼びます!」


 そう言ってアナスタシアが手を握ってきた。プラチナブロンドの美人に近づかれると……ちょっとドキンとしてしまう。


「じゃ、じゃあ……ナーシャ。どうしてあそこに?」


「はい!私の家は武家の一族です。18歳に試練としてダンジョン攻略しないといけないので、修行として戦っておりました」


「オーガを一人で10体も討伐するなんてナーシャは強いんだな。俺でも徒党を組まれると厳しいかもしれない」


 俺がそう言うとナーシャが口許に手を当てて涙ぐんでいた。


「ちょ、どうしたんだ?俺、なにか言ったか?」


「グスン……私……今まで褒められたことなくて……ぅぅ…ありがとうございまずぅぅぅぅぅ……」


「ナーシャ!?泣かれると困るんだが……そ、そうだ。それだけ強いってことは日頃から頑張ってるんだよな?そんなナーシャに何かご褒美をあげないとな?何がいい?」


 ナーシャは泣き顔を上げ、数秒経ってニッコリとした顔で言った。


「じゃ、じゃあ……頭を撫でてください!」


「あ?ああ、そんなことでいいなら……」


 ナーシャの頭を撫でるとポーッとした顔でこちらを見上げてきた。口が半開きになって近付いてくる……。


「ま、待った!俺、ちょっと今はそう言うのは……」


 お互いの顔の間に手を割り込ませて0距離になるのを防ぐ。

 俺は元の世界の魔法使い候補生《童貞》だからな。ヘタレるのは仕方ない。


「フフ……仕方ありませんね。次があったら強引に奪いますからね?」


「……はぁ。あんたといると体力使うな。それよりも、ナーシャは試練だっけ?クリアできそうか?」


「3日後の誕生日にクリアしないといけないんですが……ソロで行くにはレベルが少し足りませんね。そこで……よろしければ手伝ってくれませんか?」


 さっきの続きなのか、ナーシャが手を握ったまま顔を近付けてくる。俺は圧倒されて数秒見つめ合う形になるが……背後から仰々しい気配がする……。


「兄さん……何をしているんですか?」


 雪奈……帰って来てたのか……。

 ナーシャが空気を読まずに雪奈に話しかける。


「あの……こちらの方は?」


「俺も名乗ってなかったな。俺は拓真、こっちが妹の雪奈だ。雪奈、こちらはアナスタシアさんだ」


「それよりも、手を握ったまま話す必要ありますか?」


 ハッと俺達は飛び退いた。お互い顔が少し赤くなってしまった。


「……はぁ。それで、何か話しでもあるんですか?」


「ナーシャがダンジョン攻略をするって言ってるんだが、ソロだとレベルが足りないようなんだ。パーティならなんとかできそうだが、雪奈の意見も聞きたい」


「ナーシャって……アナスタシアさんの愛称ですよね?何で愛称で呼んでるんですか?私にはそっちの方が気になります!」


 雪奈よ……頼むから話しを進ませてくれ……。


「わ、私からお願いしたのです!命の恩人ですし……その、お顔も好みですし!雪奈さんも愛称で呼んでいいですよ?」


 こ、好み!そ、それって……つまり好きってことか?俺、モテ期到来か……?


「兄さんッ!お世辞に決まってるでしょ!デレデレしないで下さいッ!」


「わかったッ!わかったから!もうこの話しは終わり!……結局、行くのか行かないのかどっちだ?」


「行きます。どのみち兄さんのランク上げに最も効率がいいのがダンジョンですし。兄さんは行きたい方に気持ちが傾いてるようですしねッ!」


 あ、はい。そうです。正直助けたいです。


「ありがとうございます!セツナさん、タクマさん!では3日後にこちらに迎えに来ますね!」


 ナーシャは去り際に小さく俺に手を振って帰っていった。シーンという擬音が聞こえそうなほど静かになり、雪奈の顔を見れない時間が1分ほど続いた。

 沈黙を破ったのは雪奈だった。


「一緒に……いてくれるんですよね?」


 ナーシャを好きなって俺が雪奈を置いてきぼりにするとか思ってるのだろう。俺は雪奈の頭に手を置いて安心させるように笑顔で囁く。


「当たり前だ。俺は雪奈の兄……だろ?」


「安心しました。兄さん……ン……」


 雪奈が俺を正面から抱擁する。前のような親愛ではなく、お互いの存在を補完する行為として行われる。

 俺は雪奈の背中に手を回して安心させるようにトントンっと軽く撫でるように叩く。

 やがてお互いにそっと離れ、少し照れながらも雪奈が言った。


「兄さん、おめでとうございます。依頼は失敗しましたが、ブラッドオーガの討伐証明でDランクに一気に上がりましたよ」


「ありがとう。そう言えば、大剣を改造しようと思うんだが……アイデアがあるって言ってたよな?ついてきてくれないか?」


「はい!喜んで!」


 宿屋の向かいにある武器屋に向かうと、中にはテンプレとも思えるムキムキハゲ親父がカウンターに立っていた。


「ハワードさん!?」


「雪奈、この人の事を知ってるのか?」


「おいおい、ハワードは俺の弟だ。嬢ちゃん、弟の事……知ってるのか?」


 悲しげな武器屋のオヤジに雪奈は俯きながらも謝罪する。


「ごめんなさい……弟さんは私のせいで捕まりました……本当にごめんなさい!」


「嬢ちゃん、俺はある程度の事は聞いてる。ブルックの野郎の仕業だってな。だから気にするな。メルセナリオの宿屋のマスターはかなり貴族とパイプを持ってるからな。今色々手を回して頑張ってるらしい……だから安心しな。……さて!辛気臭い話しは終わりだ!今日は用事があって来たんだろ?」


「あり……がとう…ございます……グスン。……兄さんの大剣の改造を相談に来ました」


 それから雪奈とハゲ親父は俺を置いてきぼりにして打ち合わせを始めた。

 戻ってきた親父の話しによると、明日の朝には完了するようだ。


 武器屋を後にして俺は大剣がどんな仕上がりになるか楽しみに寝るのであった……。

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