異空間
拓真とモルドは異空間で対峙していた。
「意趣返しか?」
「そんなところだ。ここまで弱った我はもう剛を抑えきれん。滅びたあと、憎しみの感情で暴れまわる剛の相手をしてもらわんとな」
「なぁ、もうすぐ消えるんなら教えてくれ、なんで混沌に耐性のある勇者を乗っ取れた?」
「お前、確か剛の記憶をある程度持ってるんだったな?」
「ああ、大事なところだけな」
「くひひひひ、ならわかるだろ? 我はただ、種を蒔いただけのこと。封印と言ってもグローリア世界への干渉ができにくくなるだけで、お前達の世界へはある程度干渉できるんだな……これが」
そこまで言われてあることに気付いた。剛がコンビニに行く前の1週間、何故かいきなり剛は苛められ始めた。よくあることだと見過ごしていたが、まさかコイツ!!!
「あの1週間から始まっていたのか!」
「ようやく気付いたか。心を弱らせて、種を植え付けて、そして女神の元へ送る。女神が連れてきそうな勇者候補なんて簡単に目星は付けれるからな。何も知らない女神は魂の奥深くに根付いた我に気付かずに、そのまま転移させやがったキヒヒヒハヒヒヒ!」
「勇者の技が使えるのも、お前の仕業か?」
「当たり前だろ、ほれ! アルフレッドの記憶におかしな点はなかったか?」
言われて思い返すと、ある一点、おかしなところがあった。この世界の人間が死ぬのを何度も見た。なのにアルフレッドにあって他の人間にないものがあった。
「天使……か?」
「おおー! お前、頭が良いな! あの時に降りてきた天使、実は我の分身だったのだ。死ねば女神の加護は無くなる……つまり死んだあとすぐに捕獲すれば我に取り込めるってわけだ!」
怒りのあまり、俺はDeM IIを振ろうとするが、体が重く感じた。
「もう時間がないか、最後に教えといてやる。ここはグローリアとは別の次元に存在している。だからお前のバフは一時的に弱体化されるのさ。じゃあな、クソ人間共!」
モルドはそう言うと、ばたりと倒れ込んでしまった。そしてピクピクと痙攣したあと、普通に立ち上がり、剣を持って襲ってきた。
「う、うう! うああああああああ!!」
奇声をあげながらブンブンと剣を振り回してくる。それを重い体で捌きながらなんとか後退する。
「剛、やめろ! やめるんだ!」
──ガンガン、ガンッ!
時折、「どうして」とか「なんで」とか入り交じっている。
「剛……お前……」
ただただ、感情のままに振り下ろされる稚拙な剣技。そこには確かに感情が乗っていて、悔しいやら悲しいやら深い負の感情が表出していた。
そして拓真の耳にある言葉が届いた。
『──死にたい』と。
「剛、お前の気持ちはわかった。実はお前の仇はもう倒してるんだ……お前にやってやれることなんてもうこれしかないって、俺は思う」
剣を腰だめに構えて抜刀の体勢に入る。バフが弱体化していても、染み付いた剣技は覚えてる。
剛が大振りの為に上段で構えた瞬間、拓真は駆け抜けた。剛の身体は動きが止まり、拓真は剣を振り抜いた体勢で止まっていた。
──ドサッ!
剛は倒れた。その顔はとても安らかで、穏やかでもあった。
「じゃあな……先輩」
粒子化する剛を背にして拓真は歩きだした。
てか、ここどんだけ暗いんだよ。そろそろ太陽拝みたいぜコラ!
歩けど歩けど真っ暗な世界。ステータスは消え去ったけど【紐帯印術】だけは残っていて、それが発光する方向に向けてひたすら歩いていた。
俺と雪奈を繋ぐスキル、それはまるで縁結びのような感じだ。きっとこの先に行けば雪奈に会えるかもしれない。
希望を胸に1時間ほど歩いただろうか。
唐突に、真っ白な刃が目の前に現れた。何もない空間に刃が生えていたのだ。
「これ、どこかで見たぞ?」
その刃は徐々に下へと下がっていって、空間に裂け目を作り出した。そしてその裂け目から指が生えたあと、裂け目を広げ始めた。
人が通れるほど開いた裂け目から黒髪の女性が現れる。陶器のような白い肌、そして整った顔がこちらを向いた時、涙が溢れそうになった。
「兄さんっ!!!」
──ガバッ!
俺の胸に、愛しい人が飛び込んできた。
☆☆☆
俺達はエルフの里に滞在していた。
「雪奈お姉ちゃん、凄いね。私にはできないや」
ティアが呆れたようにして言った。
「そうですか? ここに来たら兄さんがいるような気がしたんですよ。取り敢えず邪魔な次元はぶった切りましたが」
雪奈が物騒なことを言っている。
「しかし驚いたよな。いきなりビフレストの門にいるなんて、言い出すんだから」
オズマが感心していた。
「オズマさん、セツナさんは"こっちにいますー"って走り出しただけですよ? 地名までは言ってません」
と、ライラが訂正していた。
俺が誘拐されたあと、半日ほど雪奈は錯乱して何故か俺の匂いに気付いたらしい。そこから1週間かけて疾走してエルフの里にたどり着き、ビフレストの門にいることを突き止めた。
エルフの族長オラフに言ってビフレストの門を開けてもらい、1番脆そうな次元に刀を突っ込んで俺を見つけ出したとのこと。
『1次元程度なら斬れますよ?』
という言葉に、一同は驚愕したらしい。
「ま、何だかんだで全部丸く収まったよな。みんな、本当にお疲れさん!」
「「「おおーーー!!!」」」
本当は新魔王城でパーティを開催してるらしいのだが、俺達はエルフの里でひっそりと打ち上げを行っていた。




