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結晶の中の神子

 シャイターンから謎の魔術をかけられたティア、死に際の奴は一体何をしたんだ?


 その疑問にはサテュロスが答えてくれた。


「勇者タクマ、さっきは危なかったな」


「ああ、油断していた。実際のところ、アイツは何をしたんだ?」


「シャイターンは魔眼のスペシャリストだ。魔族の中でも突出した身体ポテンシャルと、様々な魔眼を用いた戦術は当時最強の一角と謳われるほどの強さを有していた。先程神子が受けたのは恐らく【魅力の魔眼】だろう。女である以上はその術から逃れる(すべ)は無いはずなんだが……」


 サテュロスが顎に手を当てて思案していると、ティアが申し訳なさそうに手を上げた。


「多分だけど……それって1人にしか効果が無いんだと思うの。私ってほら、100人以上の神子とリンクしてるからさ」


 なるほど、それだけの数に分割されたらさすがに効果はなかったわけか。月の石(ムーンドロップ)が無かったら、俺も詰んでいたかもしれない。


 ☆☆☆


 俺達は奥にある結晶の間へと足を進めた。


「おいタクマ……これどうするんだ? 壊すのか?」


「俺の闘気で干渉できないか、やってみる」


 前に出てそっと結晶に触れる。


 ──パキパキ。


 触れた瞬間、次々とヒビが入っていく。


「待て待て! 俺まだなにもしてないぞ!?」


 ガラスが割れるような音が鳴り響いたあと、結晶は崩壊した。中にいたフィリアらしき神子はそのまま拓真の胸に倒れ込んだ。


「おっと──みんな、この子まだ生きてるぞ」


 銀髪の少女はゆっくりと目を開けた。標準の神子と同じ赤い瞳をしている。


「あ──ここ、は……?」


 伸ばされた手は拓真の髪に触れてそのまま頬に移る。そして(まぶた)はどんどん開かれていく。


「わ、私は!?」


 拓真の胸を押し退けて頭を抱え始めた。俺も含めて後ろのメンバーに動揺が走る。


「あの……私はティアって言います。あなたはフィリア、で合ってる、かな?」


 恐る恐ると言った具合にティアが質問すると、フィリアはティアを見てコクリと頷いた。こうしてみると、まさに姉妹のようだ。


 ここはティアに任せるべきだと判断した。


「ティア、あなたは目が青いのですね」


「あ、うん。なんでか知らないけど、世界樹から生まれた時からそうだったよ」


「きっとそれは、あなたが色々なものをフォルトゥナから託されたからだと思うの」


「託された?」


 フィリアが俺の方を向いたあと、少し微笑んだ。


「だって、フォルトゥナはあなたと同じ綺麗な青い瞳をしてますもの」


「女神様と会ったんですか?」


「ええ、昔は人々の前に託宣を授けて下さいましたから。それに、フォルトゥナは結晶の中で眠ってる時も、私に力を与えました。夢に干渉する力を──ね」


 その言葉を受けて、俺の武装が強制解除された。ルナが話したいことがある合図だ。


「タクマはルナと出会う前に夢を見たと言ってたニャ。恐らくこの神子が原因ニャ」


「フィリア、それは本当なのか? 何故俺に剛の夢を見せた?」


 フィリアは胸に手を当てて悲しそうに答えた。


「先程言ったとおり、フォルトゥナからあなた様の誘導を頼まれていたのです。何があったか、断片的な記憶を送り込んで世界に疑問を抱かせる……そう言う役割を担ってました。もっとも、途中から勇者様の夢に干渉できなくなりましたが」


「希望であるタクマを失うわけにはいかないから、フィルターをかけていたんだニャ」


「そうですか」そう言ったフィリアは立ち上がり、俺の前に立った。


「お聞きしたいことがあります」


「……な、何?」


「目が覚める度に倒されて眠らされる。そんな繰り返しを幾万と繰り返した場合、あなたはどうしますか?」


 言葉の意味を考えてみる。恐らくそれは、終末の獣である悪神モルドのことだろう。封印から解放される度に倒され、再び封印されるのだから。


「俺なら……次へ繋がる一手を打つ、かな」


「ええ、それが正解です。フォルトゥナが弱る時を今か今かと待って、それは実行されました。恐らく、障気の大量発生すら何かの布石に過ぎないかと」


「まさか……シャイターンの裏切りもその布石だったりするのか?」


 俺の質問にフォルトゥナは頷いた。


「それだけではありません。シャイターンが倒された今、真の脅威が封印の間に降臨するはずです」


「真の脅威?」


「はい、それは神にのみ使用を許された対界魔術【月落とし】。救世の旅を終えた神子を媒介にもう1つの月を作り、世界へ落とす魔術。この魔術で壊された世界は強制的にリセットされてしまうのです」


「リセット?」


「ええ、勇者がもし反逆を行った際にフォルトゥナが用意していた最終手段です。それを逆手に取られてしまいました」


「待てよ、悪神はいないんだろ? シャイターンがそれに取って代わってただけなんだろ?」


「いえ、これが真実です」


 そう言って、フィリアは魔方陣を展開した。意識はすぐに暗転し、映像が流れてくる。


 黒い髪の男が泣きながら自分の胸に剣を突き刺している。シャイターンから聞いた通りの状況なら、この人は剛だ。


 剛の身体は力無く倒れ、何故かすぐに立ち上がった。そして剣を引き抜いたかと思ったら傷口から灰色の障気が漏れ始めた。


 剛は旧魔王城へ視線を向けた。聞こえてくるのはシャイターンとフィリアの交わる音、それを冷たい表情で笑い始めた。


『くく、やっと絶望したか。(とど)めが色恋とは……人間はいつまでも矮小な生き物だな』


 剛の体で、剛ではない何かが喋っている。


『さて、月落としまでの僅かな時間、我は眠るとしよう。この胸の傷から漏れる障気が、フォルトゥナの力を弱らせるその時まで──』


 剛だった何かは、高笑いを上げながら遺跡のような場所に歩き始めた。ゆっくりな歩みに反して、剛の体からは障気がドンドン漏れ始めていた。


 そこで俺達は我に返った。


「ってことは、シャイターンは魔術の要であるアンタを守る番人に過ぎないってわけか」


「ええ、ですので私を殺してください。そうすれば計画は──」


 と、ここまで言いかけて場の空気が一気に重くなった。ワンやシャイターンと対峙したときの比じゃない重圧。


 そして背後で悲鳴が上がる。


「お兄ちゃん、助けて!」


 声のする方を見ると、歪んだ空間からベヒーモスのような腕が現れてティアの胴体を掴んでいた。


「くそっ! やられた! 待ってろティアッ!!」


 "エリアルステップ"で一気に加速して近付く。


 ──ガンッ!


 腕を落とそうと振り下ろした剣は、そのまま空を斬って地面に刺さった。


 神子と聞いた時に警戒しておくべきだった! 救世の旅を終えた神子、それは結局のところレベルの高い神子であれば良いわけで、モルドにとってはフィリアだろうがティアだろうがレベルが高ければ関係無かったということだ。


「クッソォォォォォォォォォォォッ!!!」


 頭の中が真っ暗になり、俺は地面を殴りながら叫んでいた……。

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