旧魔王城とかつての知将
森を抜けて旧魔王城に辿り着く。近くに来てわかったことがある。
遠くから見ていた紫色の、いかにも"魔王の城"という感じの様相はどうやら演出だったらしい。
中が見えるわけではないが、やや透明度のある石を用いてるようだ。
つまり、紫色の正体は先程通過した森の毒素だったわけだ。
ぼけーっと眺めていても仕方ないので、中に入ることにした。
大きな扉の前に立ち、ぐいっと押し込んでみる……ダメだ、全く開かない。勿論、身体強化の印はフル稼働している。それでもビクともしないのだ。
後ろに控えていたサテュロスが拓真の肩を掴む。任せろという合図だ。
「勇者タクマ、人間じゃあこれは開けられない。魔王、もしくは魔王に認められた者に贈られる印章が無ければ開かない。こればかりは印術師でもどうにもならないぞ?」
サテュロスは悪戯好きな子供のように笑みを浮かべた。少しだけ印において自身が前に立ってることに優越感を感じたようだ。
少しイラついたので頑張ってみることにする。
扉の前で印章を使おうとするサテュロスの肩を掴み返す。サテュロスは驚いた表情で振り返る。
「まぁ待て、印術師の真骨頂を見せてやる」
手先から闘気を流す──効果なし。
どちらかというと、届いてない感じだ。次元の壁が何層にも存在していて、あまりにも遠すぎる。
サテュロスの言っていた通り、印章で認めさせる方が手っ取り早い。サテュロスは無理だと思っているようだが、それは違う。
俺は知っている、認めさせるという点において印術師は他のジョブを大きく上回れるということを──。
「付与術師と印術師の違いって知ってるか?」
唐突な問いにサテュロスは答えた。
「付与術師はパーティに強化を施せる。印術師は自分に印を定着させて強化させる。パーティか、個人かの違いだと思うが……」
拓真は首を振り、代わりに雪奈が正解を口にした。
「付与術師は仲間に強化を重ねてるだけで、印術師は世界に対して"このステータスを上げますからね!"っと無理矢理認めさせているのです。ちなみにですが、兄さんの紋章術は闘気と魔功で小さな印をさらに巨大化させて世界に対し、より強く認めさせる奥義なんです」
雪奈のドヤ顔をサテュロスは無視して、拓真の答えを待つ……。
「正解、だから魔王パズズの魔力を真似て扉に"俺は魔王だ!"っと認めさせれば──」
──ガコンッ! ガラガラガラ……。
扉は容易く開き、開けた本人と雪奈以外はただただ驚くばかりだった。
まぁ、みんなで弱い弱いと苛めてたら、そりゃあ自信なんてなくなるわな。自信の無い奴が世界に認めさせるなんて無理なわけだし。
「さて、開いたわけだが──さすがに玉座の間ってわけじゃないみたいだな」
「新魔王城は勇者を歓待するための城だ。用途が違う」と、サテュロスは答え、一行は中へ入っていく。
内部はクリスタルで出来ていた。暗過ぎず、されど明る過ぎないレベルの明度。
幻想的な光景に一行は周囲を見渡していた。
「ここは歴史的に価値があるとして長年保護されていた。私も入るのは初めてなのだ」
サテュロスの話しによれば、ここが使われたのは歴史上1回のみ。初代勇者が魔王を倒す際にここで戦ったのだという。
……初代様って、魔王を倒した上で悪神も倒したんだよな? ってことは普通の勇者達よりも、ボスが多かったわけか。
拓真がそんな考えを巡らせていると、黒いコートが僅かに震え始めた。立ち止まる拓真に雪奈が声をかけた。
「兄さん、どうかしましたか?」
「いや、ルナがいきなり動いたんだ。おい、ルナ! 何か問題でも起きたのか?」
拓真の問い掛けにルナは思念を飛ばすことで答えた。
『今、フォルトゥナが……死んだニャ……』
「まさか! じゃあ結界は!?」
『持って1ヶ月ってところニャ……。これで人類は撤退出来なくなったニャ』
ルナのもたらした情報は衝撃的なものであり、背水の陣という精神的な圧迫感がより一層強くなった。
『結界に存在力を使ってる時点でこうなることはわかっていたことニャ……。会ったことも喋ったこともない神だったけど、それでも早く解決したらギリギリ救えると思っていたのニャ』
肌から感じるコートの感触、濡れているわけではないがどこか涙を堪えてるような感じがした。
☆☆☆
クリスタルで出来た通路をサテュロスの案内で進んでいく。道中の敵は無し、拓真の闘気レーダーにすら引っ掛からなかった。
周辺が魔の森に囲まれてるというのに、この城の中は非常に澄んだ空気だ。普通の街でも極微量の障気を感じるのに、ここには微塵も存在しない。
恐らく、扉だけでなく城全体を次元断層で覆ってるのかもしれない。それ故に、外界から隔絶された空間になっている。
一行は大きな広間に辿り着いた。
レッドカーペット、円柱型の柱、天井から下がる赤い旗、壁や地面の材質が違うだけでパズズの玉座の間に酷似している。
となればレッドカーペットの先には当然いるべきやつがいるわけで、予想通り玉座に魔族らしき人物が座っている。
ここは歴史的建造物だと聞いた、俺達の世界で言うところの"世界遺産"ってやつだ。
だったら警備員っぽく話しかけてみようじゃないか。近付いて声をかけてみる。
「おい、閉館時間はとうに過ぎてるぞ?」
冗談を言ってる場合ではないが、正直こうでもしなくちゃやってられない。だって、この魔族の武威はパズズのそれを大きく超えているのだから──。
進めば進むほどに感じる……相対した時の圧力、それはまるでワンと対峙した時の感覚に近い。
不意に、空気中の闘気を掻き分けて何かが接近してきた。ほぼ反射的に後ろへバックステップをする。
──ドガンッ!
自身が居たところを確認すると、何故かクレーターが出来ていた。
「ほぅ、無属性の魔弾を避けるとは、勘がいいな」
窓から月明かりが射し込み、玉座に座る魔族の姿が露になる。
灰色の肌、端正な顔立ち、蝙蝠のような翼、灰色の髪……そして血のような赤い瞳は俺ではない何かを見たあと、一瞬だけ光った。
「危ない!」
サテュロスが雪奈達の前に飛び出して両手を前に突き出し、薄紫の結界を展開する。
──バリンッ!
サテュロスの結界は一瞬にして破壊されてしまった。
「魔族と人間の同盟はまだ続いていたか、我が裏切ったことで、とうに崩壊したと思っていたのだがな……」
そう語る魔族は未だ玉座に座ったまま不気味な笑みでこちらを見ている。
サテュロスが注意を促す。
「そこに座している男は先代のサテュロスだ。魔眼から放たれる魔弾に気を付けろ」
拓真は言われて記憶を辿り──そして思い出す。
「お前……国際会議の日に、剛の部屋に挨拶しにきた魔族か」
その言葉を受けて、先代のサテュロスはその不遜な態度に変化を見せた。
「あの場には勇者と月の神子しかいなかったはず。何故お前が────なるほど、そういうことか」
先代のサテュロスは手をかざして次元の裏から剣を取り出し、拓真へそれを向けた。
「400年間、常に抵抗され続けていたが……お前を殺せばそれも終わりのようだ。お前も、誘われて来たのだろう。我を倒せば色々と教えてやらんでもないぞ?」
と、次の瞬間──拓真の足元が爆発する。煙から飛び出してDeM IIを抜く。
「少しもらっちまったが、大丈夫だ。みんな、とりあえずコイツを倒したら色々教えてもらえるらしいから──もう一踏ん張り頑張っていこうぜ」
全員が頷き、散開する。
色々と気に入らないところがある。だからまずは教えてやらないとな──俺達の世界のマナーってやつを!




