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北方都市国家クレプス

 俺達は解放軍の野営地でサテュロスと軍義を行っていた。


 サテュロスの右には緑色の肌をした魔族が立っている。俺達が着席を促しても立場を弁えるため、そう言って拒否してきた。


 まぁ、座る座らないで揉めるのも面倒なので本人の意思を尊重してこのまま話をすることにした。


「それで、クレプスからの使者って話だけど、まずはこちらから質問していいか?」


「黒髪……つまりあなたが勇者ですか。わかりました。答えられる範囲なら何でも答えましょう」


 さて、何を質問するべきか。仲間達へ視線を向けると、雪奈が挙手したので雪奈に発言してもらうこととした。


「まず、北方都市国家クレプスの都市としての機能は働いてるのでしょうか?」


「いいえ。出店や冒険者ギルドどころか、人もいません。民は全員王宮の地下シェルターで保護され、地上へは汚染に耐性のある者が食糧や水を求めて出る程度。数は少ないですが、城下町にはブラッド種や尖兵が闊歩しております」


「そうですか、わかりました。では──あなたをこちらへ寄越した人物とは、誰ですか?」


「魔王パズズ様です。結界が部分解除された原因が人族であるなら、その者の真意を問うように言われて来た次第です」


「兄さん、どうします?」


 雪奈が俺に判断を委ねてきた。取り敢えず会うしかないだろう。どのみちクレプスは最優先解放対象なのだから。


「使者の人、あんたに話しても結局二度手間になるだろ? 直接魔王のところへ案内してくれないか?」


「いや、しかし……あなた方が敵である可能性も払拭できていない。その判断を私は委ねられている、ある程度話してくれなければ門を開けるわけにはいかないのです」


 400年も籠城生活をしてきただけあって、かなり慎重な対応だな。俺、こういうの好きじゃないんだよ。上司が別の部署に伝言を頼んで、その部署と話がつかず、結局上司が直接出向くという……会社あるある。


 "チッ! お前、そんなこともできんのか!"


 そんな事を言われたっけな、思い出すとムカついてくる。


「──兄さん、兄さん!」


 雪奈に肩を揺らされてハッと我に返った。


「すまん、昔の事を思い出してた」


「良かった……。てっきり、あの使者の方から精神的な攻撃を受けたのかと」


 おおう、雪奈さん。柄に手を掛けるの止めようね! 使者を殺すのはどの世界でもアウトだからね!


「こほん! 好き嫌い言っててもしゃーない。実は俺達は────」


 俺達がこの地の解放に来たことや、人間界で起きた出来事をざっと説明した。勿論、その証人としてサテュロスにも色々と発言してもらった。


「私どもの土地を解放していただいてるとは露知らず、大変失礼いたしました」


 使者の魔族は深く腰を曲げて謝罪をして、ナーシャの到着を待ったあとクレプスへと案内をしてもらった。


 ☆☆☆


 北方都市国家クレプス──魔族の首都であり、救世の旅において勇者が最後に滞在するラスダン前の村的なポジションの都市。


 王宮の大きさだけなら世界の中心だったルクスよりも大きいかもしれない。いや、連合がここに200年毎に集まるのだからむしろ当たり前かもしれない。


 歴代勇者はここで最後の準備をして"封印の間"へと挑んでいた。そして勝利した暁には、ここで盛大な戦勝パーティを開いていたのだという。


 おまけに、ここまで北上したらさすがに雪が降ってきた。冷々とした城塞を歩くのもかなりキツく感じるレベルだ。


 案内をしていた使者が巨大な扉の前で立ち止まった。


「人間の王宮と違ってエントランスがそのまま玉座の間となっております。先に話をつけて来ますので、少々お待ち下さい」


 使者が扉に手をつけると、地面に魔方陣が現れてそのまま消えてしまった。いわゆる、転送魔術ってやつなんだろう。


 ──くいくい。


 ティアが俺の袖を引っ張ってきた。


「お兄ちゃん、向こうに見える城……なんだか不気味な感じがする」


 ティアが指差す遥か先には"THE魔王城"と言った感じの大きな城があった。雪と灰色の空気で細かいところは見えないが、誰が見ても不気味な様相を醸し出している。


 ──ブゥン。


 何かの起動音が聞こえたと思ったら、いつの間にか使者が隣に立っていた。


「あれは旧魔王城、400年前に大量発生した障気の発生元です」


「うおっ! ビビらせんなよ!」


「これは失礼しました。では、これから扉を開きますのでお入り下さい」


 ──ガコン、ガラガラガラ……。


 重厚感ある扉が開いた。内部はそこそこ豪華で、円柱が左右に並んでいて旗のような物が下がっている。


 そして長大なレッドカーペットの先には巨大な玉座があり、そこに黒い甲冑が肘を立てて座っていた。


「タクマさん、私……怖いんですが」


 ここに来てナーシャが怯え始めた。俺の手を取ってガタガタ震えながら歩いている。


「ナーシャさん、兄さんは私とティアちゃんのモノなんです。今だけですからね!」


 使者は早く進んでくれみたいな目でこちらを見ている。仕方ないか、ナーシャの体を闘気で覆って……少し暖かい空気に変換する。


「──あっ」


「これで大丈夫か? あの甲冑から放たれる武威は凄まじいからな。レベル差がありすぎるナーシャにはキツイはずだ。仕方ないさ」


「ありがとうございます。なんだか、タクマさんに抱かれてる感じがします」


 そういう発言止めてくれよー。2つの冷たい視線が痛いからさ。こうなったら、オズマ以外全員包んでやる。


 俺から闘気が放出されてオズマ以外全員を包み込んだ。


「ふむ、これは中々だ」

 と、サテュロスが絶賛。


「タクマさん、私、私っ!」

 と、ライラが熱っぽい感じに。


「ぐっ! 一万年と二千年の合体とはこれなのか!」と、使者がわけわからんことを。


「お兄ちゃん、じゅんときちゃうっ!」

 と、ティアが内股気味に。


「兄さん、今夜……マルーラ使いますね」


「ダメだ!!!!」


 結局、このままではマズイことになりそうだったので、全員の闘気を限りなく薄くして長い長いレッドカーペットを歩くことにした。


 ☆☆☆


 マルーラ……物語序盤、赤髪の少年ノアからもらった秘薬。兄と妹、姉と弟でのみ使用可能なリスク低減剤。兄妹、姉弟における遺伝子的リスクを一般人レベルまで低下させる夢の薬。購入には、貴族の豪邸と同じくらいの金額が必須。


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