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急襲

 玉座の間に空いた大きな穴から中庭に飛び移る。ワンは大の字で暗くなりつつある夜空を見上げている。


 俺の姿が視界に入ったのかワンは少しだけ笑った。


「ふっ、どうした? 殺さないのか?」


「あんた、こんなことして何になるんだよ。仮にロルフ達がここに来なくても、ルクスを落としたら南と西はここを攻める大義名分を得る……どっちにしたって破滅の道しか無いじゃないか」


「タクマ殿、人間の心というものはそう簡単なものではないのだよ。まぁ、それを君にわからせるために王宮の門前に幹部(ナンバーズ)を配置したんだが、マスターが来るのは誤算だった」


「そうだよ。さっきも言ったけど、人間はそう捨てたもんじゃない。正しいことをしていればこうやっていつか実を結ぶことだってあるんだ。それに、あんたにはまだリタがいたじゃないか。復讐を忘れろとは言わないが、親として生きても良かったんじゃないか?」


 ワンは少し咳き込んだあと俺を見据えて言った。


「この世界に帰還してからというもの、復讐を忘れそうなほど楽しい日々だった。君の言う通り、親として天寿を全うするのもありだと思ったこともあった。マルグレット様にも拾っていただいて、おまけにリタを学院にまで入れてもらえた……感謝してもしきれないくらいだ」


「──ならなんで!?」


「ふっ、今だから言うがな……これは復讐ではない。”救済の手助け”なのだ」


「──手助け?」


「私は君にはできないことを行った。腫瘍(グリオーマ)を摘出し、勇者が世界を再生しやすいように、な」


「そうか! あんたまさかっ!?」


 ワンは世界のために中央を攻撃して貴族特区ルートで攻め、そして王を討ち取った。腐った貴族の大半を殺して王を倒した後、俺たちに倒される……だからこそワン達は可能な限り一般人を巻き込まない戦術を取っていたのか。


 あまりにも極端で、あまりにも不器用な生き方。


「リタは、どうするんだよ……あんたしか肉親はいないんだろ?」


「ちゃんと巻き込まないようにこの作戦には連れてきてはいない。東のどこかで泣いてるかもしれない、どうか保護してやってくれないか?」


「あんた、親としてマジで勝手過ぎるよ!」


 しかも、俺が断れないのをわかってて言ってやがる。なんで部隊に引き入れたのか、なんで最後まで責任を持たないのか、聞きたいことが色々とあるのに、文句も色々言いたいのに、無情にもワンの呼吸は弱くなりつつある。


 ティアもここに降りてからすぐに治療を施してはいるが全然回復の気配がない。紋章術は先程使ったからもう一度使うにはまだまだ時間がかかる。


 穴の空いた器に水を注ぐように生命力が抜けていく……。


「……わかったよ。リタのことは任せてくれ」


「はは、さすが未来の勇者。……本当に、ありがとう」


 俺の言葉を聞いてワンはゆっくりと目を閉じた。


 ☆☆☆


 名も無き部隊(ネームレス)の兵士達はすぐに投降して思ったよりも早く事態は終息した。俺たちは玉座の間の瓦礫の撤去や怪我人の救助を率先して始める。


 雪奈が少し焦った表情で近付いてきた。


「兄さん、ライラちゃんがまだ戻らないんですが」


「騎士の話じゃライラはナインに勝利してこっちに向かったって言ってたよな?」


「はい、私たちと違ってライラちゃんはある程度飛べるから早く合流することはあっても、遅くなることはないはずなんですが……」


 と、その時──壁を補修していたオズマが大きな声を上げた。


「タクマ! 何かこっちに向かってくるぞ!」


 壁から外を覗き見ると、2つの光がこっちに向かってくるのがわかった。しかも闘気を通してこちらに殺意が向いてるのを感じた俺はすぐに指示を出した。


「全員っ! 散開しろっ!」


 ティアを雪奈が抱えるように飛び退き、オズマはヘッドスライディングで避ける。


「ターーーーーークーーーーーマーーーーさーーーーんっ!!!!」


 女の声が聞こえる、狙いは俺かっ!


「くそっ! ”石壁”×4!」


 魔術で4重の壁を作って襲撃者に備える。だが、それも虚しく灰色の炎で一瞬にして全て薙ぎ払われてしまった。


「──やっと見付けた!」


「兄さんっ!?」


 猛スピードの飛び蹴りを剣で防御したが、俺はそのまま城外まで一気に吹き飛ばされてしまう。それどころか襲撃者は空中で俺に追い付いてすぐに抱きしめてくる。手を伸ばす雪奈が徐々に小さくなっていく。


「お前、放せ!」


「ああ~~~、ようやくお父さんに認めさせることができる。私だって戦えるんだって、あなたを倒せば置いて行かれないの!」


 抱きしめたかと思ったら回し蹴りで広大な草原の真ん中に蹴り落されてしまった。激突の瞬間に”初級風魔術・暴風”で衝撃を軽減させてそのままタンタンっと綺麗に着地する。


 さっき抱きしめられたときに顔は見た。その顔は知り合いの顔だが、俺の知ってる姿とかけ離れていた。正確にいうなら”大人になっていた”というべきか。


「こんにちは、タクマさん」


「お前、リタ……なのか? いや、それにしてはあまりにも──」


「ふふ”成長した”でしょ? あなたに勝ちたくて”生まれ変わった”の」


 ボディラインがわかる程にピッチリとした灰色のローブ、そして灰色の髪、散布した闘気から伝わるリタの生命情報には、尖兵と以前のリタが混じっていた。


「早くお父さんのところに行きたいの、だから──始めましょうよ」


 俺の混乱を無視してリタは妖艶な表情で戦いを求めていた。

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