玉座の間にて
俺達はロルフやマルグレットさんの助太刀で無事に王宮へと入ることが出来た。
城内では今もフォルトゥナ騎士団と名も無き部隊が戦っている。
俺達はその中を獅子奮迅の勢いで突き進んでいく。なるべく死者を出さないように、向かってくる敵は初級魔術・暴風で壁に叩き付けて気絶させている。
まだこちらが味方だと知らないフォルトゥナ騎士団も相手にしないといけないのが、なんとも心苦しいところだ。
気絶する騎士達を見てオズマが話しかけてきた。
「タクマよぉ、後で反逆者とか言われても知らねぇぞ?」
「ああ、それが1番心配だよな……。この世界、というよりは、どの世界の貴族もノブレスオブリージュを掲げる割りに下衆が多いからな。また監獄行きは勘弁して欲しいところだ」
「そう言えば、タクマはここに投獄されたって言ってたな。どうやって脱走したんだ?」
「何故か捕まってたナインと協力して脱獄した……と言えば驚くか?」
「いや、驚くところはそこじゃねぇ。ナイン程の人間が単独で逃げられない事の方が驚きだ。ここの監獄ってそんなに堅牢なのかよ」
「捕まってた理由は知らないが、魔術封じの手枷をされたから、どうにもならなかったんじゃないか?」
「なるほどなぁ、そして次に会ったら敵同士ってか? 因果ってすげぇよな」
あれは単純に魔術を封じるだけでなく、魔力出力も制限されてしまうからナインと言えども困り果てていたのだろう。
そして、いよいよ俺達は玉座の間に辿り着いた。
外は夕暮れ、茜色の光が差し込む中、3人の男が玉座の方を向いていた。一見すると無防備だが、奇襲を仕掛けても通用しないと思わせるオーラが漂っている。
いや、玉座の間に入った段階で気付いているのだろう。それでもなお、奴等は戦闘体勢に入りもしない。
俺、雪奈、ティア、オズマがジリジリと距離を詰めていく。
「タクマ殿、思ったよりは早かったですな」
初老の男、世界に不正を暴露し、そしてこの中央を襲撃した張本人。それがゆっくりと振り返る。
「お前達を止めに来た」
「ふむ、すまないが……君達の目的はすでに失われている」
「おい、それはどういう──」
俺が言い終わる前に、ワンはある物をこちらへ向けてきた。それは髪が付いた肉の塊……いや、何者かの首だった。
あまりの残虐な行為に、吐き気を催してしまう。
「それは……誰の首だ?」
「災害壁の縮小に便乗して西攻めを指示した張本人、我等の行動の理由、世界最大の国家の主、あれだけの影響力がありながらまだまだあなた様の悪名は轟いていないようだ……陛下」
俺はあの首が国王かわからない、だから咄嗟に確認の為にオズマを見た。オズマはそれが本物であることを肯定するように無言で頷く。
確かにここの王は不正や汚職の原因とも言える存在。司教トーマスの横暴を見て見ぬふりをしたり、パルデンスの発展に焦って西を攻めたりして世界を混迷に陥れている。
だが、それでも王を殺されたら世界が多大なダメージを負うのは明白だ。穢れてはいるが、王として世界を回していることに変わりはない。
ワンは王の首を台座に置いて指を鳴らす。すると、台座ごと王の首は氷に覆われてしまった。
「人生とは予想もつかないことがよく起きる。本当なら君は仲間を失って絶望しながらここに辿り着くはずだった。なのにライラ様を除いてほぼ全員ここに来ている」
「生憎、ライラも生きてるよ。ナインを止めるために俺達を先に行かせたんだ」
「門前にあれだけのナンバーズを配置して無傷でここに来たというのか。簡単にいく相手ではなかったはずだが……」
「この世界も捨てたもんじゃないぞ? ロルフやマルグレットさんが援軍として駆け付けてくれたんだ」
「だが北の問題は西だけでは解決しない。人類全体が協力しなければ──」
ワンがそう言いかけた瞬間、両サイドに立っていたトゥーとスリーが吹き飛んだ。
「南と東を忘れてもらっては困るな」
「拙者、救っていただいた恩義に報いるのみ!」
茶髪に一般剣士のような男、そして黒髪チョンマゲの和服を着た男が割って入ってきた。
「アル、なんでここに……」
「西のお爺ちゃんだって来てただろ? 南と東が来ないわけにはいかないだろ?」
「じゃあ、この人が東のギルドマスター?」
「そそ、監禁されていた彼を救い出してたから少し遅れたんだ」
東のオルディニス方面は名も無き部隊に占拠された際にギルドマスターが捕らえられた。
とっくに殺されたと思っていたから少し安心する。彼は確か領主とギルドマスターを兼任していた気がするからだ。
「さて、君は魔法剣士かな? どんな突破の仕方をしたのか、非常に興味があるなぁ」
アルは素手で壁に穴を空けて黒衣の細剣使いを闘気で吹き飛ばした。
「じゃ、頑張ってね!」
ニコやかに片手を振って穴から外へ飛び出すアル、俺達は唖然とする他なかった。
「…………行くか?」
「…………うむ」
ショウゴと大槌を持った黒衣の男は、連れションでもするかのように俺達が来た道を出ていく。
結局、どちらがスリーでどちらがトゥーなのか分からないままだ。
「くくく……君という存在が人間にこうも希望を与えるとは思わなかった」
「投降してはくれないみたいだな」
ワンは真っ黒な大剣を片手で構えた。
「君が来なければ貴族を皆殺しにするつもりだった。私は君という希望が憎い……何故あの時、君がいなかったのか。最近はそればかり考える」
ワンが高速で駆けてくる。DeM IIの新機能である付与聖域で全員に"風の加速"を付与して俺以外は散開。
黒の大剣を正面から受け止める。
──ガンッ!
「パルデンスに来た頃の君ではこの一撃を受けられなかった」
「アンタ、執事の癖に……めっちゃ重い攻撃じゃねえかッ!」
鍔迫り合いの状態、俺は爪先の辺りに闘気で土属性付与する。
地面が盛り上がり、石で出来た槍が出現する。ワンはバックステップでそれを難なく避ける。
「──急な妹にご注意を。"雪月花"!」
縮地で背後に回った雪奈が雪月花を見舞う。
「セツナ殿、あなたが来ると思っていた」
「──えっ!?」
1段目、雪の段階で止められてしまう、それもガントレットで。そして間髪入れずに雪奈は回し蹴りを腹部に受ける。
──バキッ!
「きゃあっ!」
石柱に背中を打ち付けてるが、なんとか雪奈は立ち上がった。
ワンが雪奈に追撃を加えようとしていた為、1番近いオズマがカバーに入った。
「"パワースマッシュ・極"!」
ワンはそれを受けようとしてすぐに止め、ギリギリで避けてオズマに手をかざす。
「波動滅風!」
「ぐぉぉぉぉっ!」
オズマの腹に螺旋のような模様が浮かび上がらせながら、身体をくの字に曲げつつ吹き飛んでいく。オズマは背後にパワースマッシュを放って勢いを相殺した。
ワンは黒の大剣を構えて話し始めた。
「印術師は確かに最弱だ。だが、それは一般的なジョブの中での話し。遥か太古に数人しかいなかったジョブはランキングには記載されていない」
「つまりアンタは実質、印術師より下だったわけか」
「知ってるとは思うが、私のジョブは"放蕩者"──いわゆる遊び人というやつだ。スキルも魔術も覚えない、レベルの上がる速度だけが取り柄の弱ジョブだ」
ワンが話してる間にオズマはポーション、雪奈はティアに月桂で回復を受けている。
「だがアンタはさっき、スキルや魔術を使ってたじゃないか」
「私は1度、向こうの世界に行っている。そこで第二のジョブを獲得して至る者になった。スキルや魔術が使える理由、わかってくれたかな?」
「レベルの上がりが早くてスキルや魔術も使える……チートかよ」
「はは、ちなみに教えておこう。私の本当のレベルは300にギリギリ届かない位だよ。こっちに戻ってきた時にステータスが開けなくなったので、正確な数値はわからないがね」
俺達は100を超えたばかりなのにコイツはすでに300近い、その事実が重くのし掛かってくる。
「さぁ、再開しようか。君達人類の希望を私に見せてくれ! そして願わくば、私を失望させないでくれ!」
俺達は一瞬も油断できないと理解して各々武器を構えた。




