罠と出発
ベッドからバッと起き上がると、左右から手を握られていたことに気付く。当然ながら雪奈とティアだ、最後の記憶を辿るとダグラスを助けた辺りで倒れた気がする。
多分みんなで宿屋に運んでずっと彼女達は看病してくれたのだろう。回復系は繊細な技術が必要だからより多く魔力を消費する。
次に自作奥義で回復系を使う時は全快で使うべきだという、いい教訓になった。
疲れて寝ている2人の頭を撫でながら、起きる直前の事を思い出す。
あの光景は確かに夢だ……しかも今回は誰の視点とか全くわからない程ノイズが酷かった。
裏切っただの、平穏だのと言っていたが、その中で唯一わかったのは視界の端にティアの同族がいたと言うことくらいだ。
なんにしても、情報が少なすぎる──。
と、思案に耽っていると雪奈が目を覚ました。
「あ、兄さん。起きたんですね、心配しましたよ……」
「人を助けようとして自分が倒れるなんて、無様だな」
「そんなことないですよ。助けられるなら助けるって普通の人には中々難しいと思います。特にこの世界の人は勧善懲悪に対してあまりにも従順過ぎますから……」
善いことを勧め悪を懲らしめる、これは正しいがそれでもそれに至った経緯を見ていない気がする。
勿論、根っからの悪は倒すべきだが、俺から見て大丈夫そうな敵からは事情を聞くべきだと思うんだ。
「ん……お兄ちゃん?」
ここでティアが目を覚ました。
「ティアにも心配かけたな……俺はもうすっかり元気だぜ」
「うん……ホントに……お兄ちゃんが無事で良かった……」
ティアの頬に手を添えて優しく撫でる。すると、雪奈が咳払いをし始めた。
「コホン! 兄さんそろそろ良いですか? 兄さんが起きたらダグラスさんのところに行くように言われてるんです」
「何かあるんだな……わかった、すぐに行こうか」
俺達は部屋を出てダグラスがいるという場所に向かった。道中の景色を見て俺は驚く、空には飛竜が円を描きながら飛んでいたり、ドワーフ達がカンカン武器を作ったりとファンタジー要素満載だったからだ。
ドワーフ達の要塞拠点を案内されながら例のシリンダーが安置された部屋に辿り着く。
「ここじゃ、ワシらは外で待っておるから何かあったら呼んでくれ」
そう言ってドワーフはドアの横に待機した。俺は案内をしてくれたドワーフに礼を言いつつ中に入る。
部屋の中央には一台のベッドが置かれており、そのベッドにはダグラスが、そして傍らにはオズマが立っていた。
「お、勇者のご登場だな」
「シリンダーに入ってなくてもいいんだな」
「戦闘は暫くは無理だが、こうして寝たきりの分には問題ないらしい。おっと、礼を言い忘れてたな、タクマありがとな」
「アンタは根っからの悪だとは思えなかったんでね。救えるなら救いたかったんだよ、まぁオズマの親ってのも少しは加点ポイントだったけどな」
「異邦人らしい考え方だな。まぁそれは置いといて、お前さん達はオルディニスに向かうんだろ?」
「アンタには悪いが、ワンを倒さなくちゃいけないからな」
「裏切るわけにはいかないが、助けてもらった恩がある。どれ、少しだけ情報を教えるとするか」
ダグラスはベッドから起き上がった。
「まず、この世界で俺達に対抗できそうな戦力はどのくらいいると思う?」
その質問にライラが手を上げて答えた。
「Sランク冒険者達と4人のギルドマスター、あとはフォルトゥナ騎士団です」
「少し違うな、フォルトゥナ騎士団だけでは俺達は止められない。プラスで他とセットしてようやく五分五分ってところだ。そして中央はフォルトゥナ騎士団しか防衛していない、にもかかわらず戦況は一進一退だ……何故だと思う?」
その質問には雪奈が答えた。
「あなたは希望がどうのこうの言ってましたよね……あれってもしかして、兄さんのことですか? もしそうなら──」
「ビンゴーーーー!! そうさ、そこのライラちゃんに弁当を届けに行ったのがこの間まで執事だった我等がワンさんってことだ。ワンさんはタクマが見せた周囲を味方につける能力と、不遇ジョブなのに逆転したその力こそ勇者だと確信して脅威認定した」
「つまり、俺という不確定要素をここに誘きだすのが目的ってわけか? だが、何故俺達がここに来ると思った?」
「あ~、お前らベヒーモスの魔石を大量に売っただろ? あれでエルフに会いに行ったって思ったんだ。そして、周囲を味方にしちまう勇者気質なお前さんなら、エルフの次は確実にここに来るだろうと予測したんだよ」
ベヒーモスはエルフがいる北西の未踏領域でドロップする。ティアを使って荒稼ぎしたツケがまさかここで来るとは思いもしなかった。
そしてそれを知ってるということは、世界各地に名も無き部隊の構成員が点在しているということだ。
しかも俺達はここで足止めをくらっている。俺達が中央に加勢しないために……。
「今頃、大規模攻勢が始まってる頃合いだろ。Sランク冒険者も、ギルドマスターも、自国を守るので手一杯……中央は近いうちに落とされる。タクマ、早くここを出た方が良いんじゃないか?」
話せるのはここまで、ダグラスは暗にそう言っている。
「アンタに言われなかったら間に合わなかった……話してくれたこと感謝する」
「敵に感謝するとか、バカだなお前さんは」
出発の準備をするべく部屋を出ようとすると、ダグラスが声をかけてきた。
「クソボウズ! ──生きろよ?」
それは親から子への言葉、それに対しオズマは──。
「……テメエを墓前に連れていくまで死ねねぇよ。じゃあな──オヤジ」
こうして俺達はその日のうちに旅立った。目的地は中央都市国家ルクス、アルもロルフも動けないというのなら──俺が行くしかないだろ?




