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3.魔力計測は危険がいっぱい

 自分のこととはいえ、とんでもない評価に春子は少し現実逃避していた。一国を滅ぼせるほど、って一体どんな兵器だ。

 そんな彼女の様子にファルディンは首を傾げる。


「自覚がないようですが、魔力量は測ったことないですか?」

「多分……?」

「春子さんの魔力量、最近までずっと増えてるみたいだったから、測るタイミングがなくって。申請も、魔力量測ったらしようと思ってたんだけど……」

「本来なら、申請は異邦人を保護したらすぐに行う義務があるのですけどね」


 なにやらモゴモゴと言い訳をしているネジュを、ファルディンは片眉を上げて見据えていた。そして少し考え込んだ後小さくため息を吐き、どこからか細長い透明なガラス棒のようなものを取り出し、テーブルの上に置いた。


「折角ですから、測ってみましょうか。簡易計測器しかありませんが、目安にはなるでしょう」

「この棒が簡易計測器ですか?」

「ええ。こうやって、下の白い部分を握って少し待てば……、このように」


 そう言ってファルディンが見せてくれた簡易計測器は、持ち手以外の部分は淡い紅色に染まっていた。


「色で大体の目安を示しているんです。透明なままであればほぼ魔力がないということで、白なら200程度、青は400程度、緑は600程度、黄色は800程度、赤なら1000程度といった形ですね。色合いや濃淡で詳細の検討を付けるのですが、正確な数値は神殿で調べる必要があります」

「ファルディンさんは淡い紅色だから、1000近いってことですか?」

「正確には900程度ですね。1000近い場合は真赤に染まりますね」

「へ~……。ネジュさんは?」


 多分ファルディンの魔力量も凄いのだろうが、正直いまいちピンと来ない。そこで比較対象としてネジュに話を向けるが、凄く必死に首を横に振っていた。


「ネジュさん?」

「僕のことより、春子さんが調べなよ」

「えぇぇ。折角なら、ネジュさんのも比較として知りたいなぁ」

「うぅぅぅぅぅ……」


 じーっとネジュの青灰色の瞳を見つめると、凄く嫌々ながらも計測器に手を伸ばす。そして何やらプルプル震える程力を込めて握った。


「ネジュ殿、そんなに力を入れなくても……」

「ネジュさん、大丈夫!?」

「っはぁ! ……うぅ、やっぱりこの程度…………」


 ネジュお得意の陰気な空気を大量に発生させながら差し出した計測器は、淡い水色だった。先程の話からすると、恐らく300もないくらいだろうか。

 とはいえ、ファルディン曰く一般の市民であれば200あれば多い方らしい。比較対象がエリートである神殿騎士なのだから落ち込む必要もないはずだ。

 そう思ってネジュを見れば、テーブルに突っ伏して何やらブツブツと呟いている。


「ぅぅぅぅぅ……。やっぱり僕なんて、所詮、落ちこぼれだから……。やっぱり僕は三流なんだ…………」

「ネ、ネジュさ~ん?」

「ぅぅぅぅぅ……」


 魔力量だけでなく自分自身全てを卑下し始めたネジュは、春子の声も聞こえていないようだ。軽く揺さぶってみても、現実には戻って来ない。

 ファルディンを見上げると、彼も困った様に眉を下げて肩を竦めた。そしてそっとネジュの手から計測器を取ると、春子に差し出す。


「では、ハルコ嬢。どうぞ測ってみてください」

「あ、はい。ありがとうございます」

「ぅぅぅぅぅ……」


 ただ唸るだけの置物となったネジュを華麗に放置したファルディンに驚きながらも、春子は計測器を受け取る。そしてファルディンにも見えるようにテーブルの上で計測器を握る。

 特に力を入れたり、魔力を流したりといったことは何もしていない。本当に、ただ握っただけだった。


 しかし、計測器は今までとは違い、急激に色を変えていく。


「っハルコ嬢、手を離して!」

「えっ、……っきゃ!」

「春子さん!!」


 バァァンッ! という音と共に、春子の手の中の計測器が弾け飛ぶ。

 

 春子は、反射的に目を閉じて顔を背けるくらいしかできなかった。衝撃を受け、床に倒れこんだ気がした。

 テーブルの上のカップが割れたり、椅子が倒れるような音が響く。

 そしてしばらくして、そっと耳元で聞きなれた心配そうな声が掛けれる。


「春子さん、怪我はない?」

「ネジュさん……?」


 固く閉じていた目を開けば、至近距離で青灰色の瞳が見える。どうやら、いつの間にかネジュに抱え込まれていたようだ。

 あまりの近さと、抱え込まれると思ったよりも大きなネジュの体に少しドギマギしながら、慌てて顔を横に振る。


「だ、大丈夫! どこも怪我なんてっ、痛っ……」

「あ、指……。ちょっと、貸して」

「ネジュさん、大したことじゃ……」

「いいから」


 慌てて起き上がろうと床に手をついた時、落ちていたカップの破片で指を少し切ってしまった。何故か爆発した計測器では怪我がなかったのに、ドジをした。

 そう思っているのに、床に座り込んだネジュに抱えられたまま、怪我をした右手を取られた。そしてネジュの大きな掌に包まれ、小さな声で何かを唱えられる。

 ほわりと温かい力が流れ込んでくると、血が出ていた傷が薄っすらとした傷跡程度まで治っていた。


「わ、治った……!」

「うん。三流だけど、一応僕も魔術師だから」


 へにょりと眉を下げたネジュは傷跡をするりと撫でる。


「ごめんね、このくらいの傷も綺麗に治せなくて。数日したら、多分傷跡も無くなると思うけど……」

「ありがとう! 指先の傷って結構痛いから、治して貰えて嬉しい」


 また自己嫌悪の気配を見せたネジュに、あえて明るく笑って見せる。

 あのくらいの傷なら放っておいても、きっと直ぐに治っただろう。でも、わざわざネジュが治してくれたのだ。そこに感謝以外の感情を抱くわけはないし、ネジュにも卑下して欲しくない。


 そう思っていつもより距離の近い頭を撫でれば、ネジュはぱっと目元を赤く染める。そして今の体勢に気付いたのか、あわあわと春子から手を離した。


「あ、わ、ぇえと。その、春子さんが、大怪我しなくて、よかった」

「うん。ネジュさんも怪我がなさそうだね?」

「あ、うん。大丈夫」


 そんな会話をしながら立ち上がれば、テーブルの反対側でファルディンが呆れたような目でこちらを見ていた。どうやらずっと見られていたらしい。

 微妙な気まずさに目線を反らしていると、小さくため息を吐かれた。


「お二人とも、大した怪我はなさそうですね」

「あ、えぇと、ファルディンさんも。ご無事そうで良かったです」

「あ、わ、ぁあ……」


 完全に挙動不審なネジュに、ファルディンは冷ややかな碧い瞳を向けている。そして小さく息を吐くと、テーブルの上に視線を向けた。


「一応、爆発する直前に計測器を結界で覆ったのですが、爆発の勢いが凄くて破られましたね。計測器が粉々です」

「うわ……」


 テーブルの上には、白い持ち手部分だけになった計測器が落ちていた。他のガラス棒のような部分は、細かい破片が落ちているだけで、跡形もない。


「計測器が爆発するなんて、今まで聞いたこともありません。一体どれ程の魔力量なんですか……」

「あははは……」


 どこか疲れた様子のファルディンにそう問われ、春子は笑うしかなかった。

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