自由
なんか納得行かないのでそのうち修正します…
いま、ゲイル様は、なんと仰ったか
用済み?
いや、しかしさっきの神官はまだ魔王と交戦中だと…
新しい情報が入っていないから?
でもここは最前線にほど近い。
そんなことがあるのだろうか。
「ゲイル様、用済みとは…」
意味がわからないと、ふと顔を上げると
ゲイル様は手のひらに爪が食い込むほどに強く手を握りしめていた。
指先が真っ白になっているのがやけに印象深かった。
「教会はカルヴァン君の死亡を発表した。」
窓からは昼の陽光が差し込んでいて、上掛けをかけていると汗ばむくらいの陽気だった。
ひりひりとまた喉の乾きを感じる。
カルヴァンが、死んだ?
魔王城へ日々歩を進めゴールも見えてきた春の日に、この旅が終わったらみんなとお別れなのだろうかと考え込んでいた私の肩をぽんと叩いて、夏になったらみんなで海にでも行こうと言っていたのに。
闘いが終わった後を誰よりも楽しみにしていたあの人が亡くなった?
「嘘…」
なにかの悪い冗談だと言ってほしかった。
普段ゲイル様は嘘もつかなければ冗談も言わない真面目なお人柄だとわかっていても、驚かせたかっただけなんだとそう笑いながら告げるさまを想像してしまうくらいに信じられなかった。どこかからにやにやと悪い顔をしたアスターやディリィが飛び出してきて私のきょとんとした顔を見て笑い転げる。
後からバツが悪そうに止められなくてごめん、と扉から顔だけを出したカルヴァンが謝ってくる。
そうなることを待ち望んだ。
信じたくなかった。
でもきっと、違うのだろう。
「信じたくない気持ちはわかるさ、アリス。しかし彼は魔王城で魔王に敗れた。アスター君もディリィ嬢も」
「じゃあ、なぜ」
みんな逝ってしまったというのなら何故。
なぜ私はここで寝ていたのでしょうか。
なんで私だけ生きているのでしょうか。
言葉が出なくて、きっと私は見捨てられた幼子のような顔でゲイル様を見つめた。
ゲイル様は依然困ったような顔のまま私の頬を撫でる。
「なぜ、生き残ってしまったのかなど言わないでくれ。私は君だけでも生き残ってくれたと聞いて嬉しかったのだよ。」
この方は私を慰めようとするときにいつも頬を撫で、まるで愛娘に触れるかのようにそっと髪を梳かす。
君は彼らに救われたのだよ、とゲイル様は続ける。
「カルヴァン君もディリィ嬢もアスター君も君を妹のように可愛がっていたからね。死地に連れて行くのは忍びなかったのだろう。魔王城に赴く前に意識を失った君を預けていったのだそうだよ。」
3人の優しさだったのだとわかっている。
だが、それよりも私の心は仲間はずれにされた、とそんないじけた思いでいっぱいになっていた。
なぜ連れて行ってくれなかったのか。
仲間じゃなかったのだろう。
わたしは、まだ、役立たずで、
わたしは
「アリス!」
ゲイル様の悲痛な声を聞いて、一気に思考の海から引き上げられる。
「彼らは、君を仲間だと思っていたとも。彼らの心情を語ることはできないが誰から見てもお互いを慈しみあう仲間だった。」
だから君も後を追うだなんて考えないでくれ。
皆、君に死なないでほしかったのだから
とゲイル様に泣きそうな顔で懇願され、ぎゅっと白くなるまで握られた手を見て、急に現実に引き戻されたような気がした。
なんで共に死なせてくれなかったのか。
そんな想いを押し流すように3人との想い出が頭の中で走馬灯のように流れだす。
「あ…ゲイル、様。わたっ、私ッ…カル…ディリィ、アスタァ…」
思い出されるのは楽しかった思い出ばかりなのに涙が止まらなくて
3人とまた笑いあえる日はもう二度と来ないのだと思うと悲しくて仕方なかった。
ようやく夏の陽気の訪れが見え始めたのに楽しみだと笑った人には、あの3人にはもう会えないのだ。
背をさすってくれるゲイル様の優しさに甘えて目が腫れるほど泣き続けた。
✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾✾
窓から差し込む光が橙を帯びてきて日の入を知る。
その頃になってようやく涙が収まりはじめ、大量に水分を失ったことにより頭がくらくらしてきた。
「嗚呼、アリス。今は存分に泣くといい。だが長い間眠っていたのだからお腹も空いたことだろう。私は出ていくから後で何か食べるものを持ってこさせよう。」
私はしゃくりあげながらも、ふと疑問に思ったことをゲイル様に問う。
「ゲイル様、私はどれくらい、眠っていたのでしょうか。」
昨日や一昨日のことではないのだろう。
教会にも死亡が伝わるくらいだ。
1週間ほど昏睡していたのかもしれない。
「君が運ばれてきたのは大体2ヶ月前だったかな。」
2ヶ月、?
意識を失ったとしてそんなに寝ていられるものなのだろうか。
いやそもそも何故…
と混乱する私の耳には「赦してくれ、アリス…」とゲイル様が呟いた懺悔は聞こえなかった。