7、一人の少女のために。(ルーク視点)
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俺は、ルーク・アルフォスタ 。今は18歳である。
俺は高い魔力持ちで、宮廷魔法学校ではNo.1、2を争う実力だった。
だが、ちょうど2年前。俺は、身に覚えのない罪を着せられることになる。学校長の暗殺だ。
そんなことするはずがない。だって学校長は俺の恩人なんだから。
でも、俺の話に耳を傾ける奴はいなかった。
逃げた。とりあえず逃げた。あっちは、俺がやった証拠など持ってないとは思うが、こっちだって、やってないという証拠は持ってない。
とうとう追っ手に追い詰められ、もう限界だった俺は、最後の望みで転移魔法を使った。
なんとか出来たものの、転移先までは定められず、どこか知らない場所へ落ちた。
ここは、庭…??
力尽きた俺はそこで意識を手放した。
目が覚めたら、俺はベットで寝ていた。
ふと横を見ると、銀髪で赤い瞳の少女が、ベットの脇の椅子に腰を下ろし、本を読んでいる。
その姿は、とても、とても綺麗だった。
思わず、見惚れてしまうほどに。
———これが、俺とリリアンヌお嬢様の出会いである。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「リ、、リリアンヌ、お嬢様・・・?」
そして今、
あの時、俺を助けてくれたリリアンヌお嬢様が、目の前にいる。
最初に出会ったとき以来、会うことはなかったため、少し大人びた感じはするが、彼女の髪と瞳が、リリアンヌお嬢様であると語っていた。
どうしてこうなったのか。
俺はあれから、ここで働かせてもらっており、今日は本館の夜間警備をしていた。そしたら、別館の方から、突然、光が発されたのだ。なんだ?と思いつつ、すぐにそこへ向かった——
それで、この状況である。
意味が分からない。
「ルーク…??」
お嬢様が、眉間に皺を寄せて、俺の顔を覗き込む。
そこで、ハッと我に返った俺は、お嬢様に刃を向けていることに気づく。
「も、申し訳ありません…!まさか、お嬢様だとは思わずっ!!」
すぐに剣を鞘にしまい、跪く。
「いえ、こちらこそごめんなさい…。こんな時間に怪しいことしてる方が悪いもの。」
彼女と話すのは2年ぶりである。こんな再会になるなんて。
「それよりルーク、久しぶりね!2年ぶりくらいかしら…??」
「・・・お、覚えていてくださったのですか…」
俺のことなんて、もう忘れられてるのだと思っていた。
「当たり前じゃない!あれから、貴方に会いたい、ってお父様にお願いしても、もうここにはいない、って言われてたから、心配してたのよ。元気そうで良かったわ。ここで働いていたのね。」
・・・俺もそうだった。リリアンヌお嬢様は病気で、特定の人としか会うことが出来ないから、会わせる訳にはいかない、と。
でも、今の彼女は、全く病気を患っているようには見えなかった。
…だって、木登りしてたんだぞ・・・。
「ねぇ、そういえばルークって魔法が使えるのよね??」
「えぇ、そうですが…。それが、どう…」
「リリィさま!!!!!」
俺が話し終わる前に、頭上から女の声が聞こえてきた。
顔を上げて見ると、メアリーと呼ばれているお嬢様付きの侍女が、窓から身を乗り出して叫んでいる。
「リリィ様!!こんな時間に外で何してるんですか!!!?早く戻って来なさい!!!」
うわぁ、怒ってる…。最後、命令文になってるし。
お嬢様は、やれやれ…とか言いながら、立とうとする——
「いっ…!?」
彼女が右足を抑える。
「お嬢様?大丈夫ですか…??」
「えぇ、さっき木から落ちたときに、足首を痛めてしまったみたいで・・・。木に登って戻るのはムリそうね…。」
お嬢様なんだから、木に登るのは、足がどうとか無しにやめた方がいいんじゃね…
そんな言葉は口には出さず、俺はスッとお嬢様をお姫様抱っこする。
そして、
「転移魔法」
そう唱えると、お嬢様を抱えた俺は、彼女の部屋に一瞬で移動する。
「転移魔法…??」
お嬢様が呟く。
「えぇ、転移魔法なんて、滅多に使わないのですが、今は緊急時ですから。」
お嬢様にカッコいいところを見せたかったとか、そんなんではない。決してない。。。
そっと彼女をソファへ下ろす。
「さぁ、リリィ様!洗いざらい話していただきますよ!!?」
ようやく、この騒動の真実が分かるらしい。
すると、お嬢様の口からは、信じがたい言葉が発される。
「・・・ま、魔法の練習をしていました!!!!」
「・・・・・・・・はっ??」
魔法の練習・・・??
お嬢様は貴族なはずだ。使えるはずがない。
なのに、今お嬢様は、魔法の練習と言った。
メアリーはというと、「リリィ様ならやりかねないと思ってはいましたけど…」とか何とか言っている。
もう訳がわからない。
俺が混乱していると、お嬢様は、俺に真剣な眼差しを向けて、こう言った。
「ルーク。驚くとは思うけど、今から私が話すことを、真剣に聞いてちょうだい。」
「…はい。」
お嬢様は、ふぅ、と一息つくと、彼女自身ことについて語り始めた。
お嬢様が本当は孤児であること。
本当は病気ではないこと。
アリスお嬢様が産まれたことがきっかけに、家族から除け者にされていること。
家出の為の資金を調達するために、町で働くことにしたこと。
魔法に興味を持ち、試しにやってみたら出来てしまったこと。
確かに驚いた。
でも、お嬢様が孤児だとか、そうじゃないとか、俺にとってはどうでもいいことだった。
俺は、どちらかというと、彼女の魔法に興味を持った。
詳しく聞いてみると、彼女は水と風魔法を使えたらしい。(何にも知らずに魔法が使えるなんて信じられないが、それは一旦置いておこう。)
俺が1番気になっている、あの光はどうしたのか、と聞いたら、あれは彼女が出した魔法ではないという。
でも、そんなはずはない。だって、俺が庭に着いて、探知魔法をかけたとき、1人の反応しかしなかったのだ。
ということは、無意識に出した魔法という事になる。そんなの、おとぎ話に出てくるような精霊の加護でしか聞いたことがない。
彼女には、まだ何か秘められたことがある気がする・・・。
そんなことを考えていると、お嬢様が口を開く。
「ねぇ、ルーク。貴方が良ければ、私に魔法を教えて欲しいの。お願いできないかしら?」
・・・俺は一瞬返答に困った。
俺の主人は、お嬢様の父であるフォーカス様だ。そして彼には、別館に近づくな、お嬢様に会ってはいけない、と言われている。おそらく、魔法が使える奴をお嬢様に近づけたくないのだろう。
俺は、彼のおかげでここにいられるのだ。お嬢様と接触していることがバレたら、契約違反になる。もしかしたら、ここに居られなくなるかもしれない。
——でも
「任せてください。俺、魔法は得意な方なんです。」
あの時、俺を助けてくれたのは、リリアンヌ、彼女なのである。
彼女は、魔法が使える俺ではなく、ただのなんでもない人としての俺を助けてくれた。
2年前、俺は彼女に質問した。どうして見ず知らずの人を助けて、しかも自分の部屋で看病までしているのか、怪しいと思わないのか、と。
すると彼女は言った。
「なんとなくだけどね、貴方のことは信じてもいい気がしたのよ。だってほら、貴方の瞳がそう言ってるわ。ふふ、とっても綺麗なロイヤルブルーなのね。」
お互い全く知らない仲なのに、信じてもいいとか、瞳が言ってるとか、ほんと意味わかんない。
でも、この言葉にどれだけ救われたか。
誰からも信じてもらえなかったこの俺を、彼女は信じてもいいと、そう言ってくれた。
俺は、ロイヤルブルーの瞳を真っ直ぐ彼女に向ける。
「これからよろしくお願いしますね。」
あのとき、俺は決めたのだ。
自分の魔法は、自身の強さを誇示するためでも、敵を倒すためでも、世界を平和にするためでもなく、
今、目の前にいる1人の少女のために使おう、と。
もう、彼女から目を離したりしない。
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