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第7話

「っぷ」

「待ったぞ。さぁ、取引を始めようじゃないか」


朝食をとりあえず食べ終えると、アイスランド人―ミリン・ゲイブソンさんは身を乗り出してきました


「公女殿下の居場所を知っていると言ったな?」

「正確には知る事ができるというところですが…僕が持ち掛けたいのは、殿下の居場所を教える代わりに、ミリンさんにはこの部屋を拠点としてほしいのです」

「拠点だと?」

「はい」


僕はとにかく物語に足を突っ込もうと思いました

ですが、主体的に活動はできません。能力も武器もありませんからね

モブキャラがモブキャラらしく動くにはこうやって搦め手を使うしかないと思ったのです


「良い部屋ですよ、ここは。6階で島の大体は見渡せますし、屋上に行けばもっと見渡せる」

「…………」

「それに、この部屋にあるものは好きに使ってくださって構いません。あぁ、だけど、財布とか冷蔵庫、おやつコーナーはダメですよ。すっごい大事なものですので」


少し冗談めいて場を和ませようとしましたが、ミリンさんは表情を変えません


「どうでしょう。ミリンさん、悪い話では無いと思うのですが」

「あぁ、その通りだ。悪い話じゃない。だが、聞きたいことがある。何故俺に協力する?」


至極、もっともな疑問でした

僕はむしろ、よくもこのマンションを傷つけやがってと言って追い出しても構わない立場なのです


「いや、それだけじゃない。もし公女殿下に戻ってもらいたいというのなら、俺個人ではなく警備の連中に言うべきだ。お前もそこらへんは考え付いているはずだ」

「…………」

「だが、それをせず、俺個人に取引を持ち掛けている。妙だな。何か裏がある」


冷や汗が、止まりません

成人男性のすごみってこんなに怖いんだ。どうしよう

口の中がねばついてきます。緊張している証拠です


「え、映画で……」

「うん?」

「スパイものの映画とかよく見てて、それで面白そうだなぁって……」


嘘ではない、と、言いたい、です

こんな出まかせを信じてくれるのかは疑問ですが、まさか「ここは物語の世界なので」という訳にもいきません

むしろ、よくこの言葉を考え付いたなぁと自分を褒めたくなります


「はぁ」


ミリンさんはため息を吐きました


「そうだな、悪い条件じゃないよな」

「それじゃ!」

「ノってやる。ただし、こっちからもいくつか決めておきたい事がある」


ミリンさんは以下の条件を持ち出してきました


・命の保障はできない

・やばくなったら僕を見捨てる

・やるからには全面的に協力する


こちらに不利な条件ばかりですが、持ちかけるとはそういうこと

疑問も反論も無く了承しました


「あぁ、それじゃ、改めまして。僕、茂武栄男っていいます」

「ミリン・ゲイブソンだ」


握手を交わすと高揚感が止まりませんでした

物語の世界だ! この事件で、絶対に食らいついてやる!







「それでは、僕は学校に行ってきますので」

「留守番しといた方が良いか?」

「いえいえ、ご自由にしてください。ですが、今日ちょっと友神くんを尾行して家探しますので、帰りは遅くなりますね」

「よし、分かった。まぁ、俺もあんまり外に出られない身だ。買い物以外はここで大人しくしとくよ」


通学路はいつもより人が多いように見えます

そう言えば、今日は日直代行を受けていませんでした

何度も見た光景なのですが、新鮮さを覚えます


「「……………」」

「(いたいた)」


というより、今日僕は授業を受けません。既に先生方には連絡しているので、ご安心を。

まぁ、モブキャラですからぶっちゃけ登校してもしなくても良いんだろうなぁとは思いますが

目の前を歩く二人組は非常に険悪なムードです

友神喜一と、イリーナ・リフォロヴァ

予想はつきます。大方、公女殿下を家に連れてきて二人だけの時間が減ったとか、ヒロイン特有の不機嫌でしょう


『次は、イルヴァンド第二学園前。イルヴァンド第二学園前で、ございます』


どっと車内が蠢きます

満員電車というほどではありませんが、この車両に乗っているほとんどの学生がここで降りるのです


「イリーナ、こっち」

「あっ……」

「は?」


思わず、零してしまいました

いや、おかしいでしょ

惹かれる要素無いでしょ。ただ人ごみから離れないように手をつないだだけじゃん


「急がないと…」


僕も降りる事にしました

途中で先生やクラスメイトに合わないよう顔をマスクで覆います。大丈夫だとは思いますが、休んでいるという事ですので、念のため

さて、同じ神城島の学徒とは言っても、僕が歴史学科なのに対して彼はパワードスーツ研究の為の生徒。校舎のセキュリティは圧倒的に上で、僕の技術力でこれを突破する事はできません。ならば、どうするかと言うと


「ふむ、あそこが良いな」


少し、小高い山がちょうど良いと思いました

わざわざ研究所内だか校舎内だかに入る理由などないのです。あそこの山頂部分なら駅に程近いですし、このパワードスーツ研究学校を多少見渡せるでしょう。

山中は思いのほか道が整備されていました。この体形にとって、その情報はあまり意味をなさないのですが

山頂は、少し開かれていました。思った通りです。ここからなら見渡せる

カバンの中から、望遠鏡を取り出しました。大きめのやつ、星とか見れるアレ

いささか盗撮じみていますが、仕方がありません

望遠鏡をのぞき込むと、運動場での実習がちょうど始まっていました


「はえー、あんな動きするんだ…」


パワードスーツのカクカクとした俊敏な動きに目を追うばかりでした

しかし、パワードスーツというのもバツが悪い。何か名称があるはずだ

そう思って携帯端末で調べると、なるほど、この世界においてパワードスーツというものは「高度戦術機」略して「高戦機」と呼ばれているようです。それぞれには機体名がある

あの時「牛頭馬頭」と言っていたのは機体名だったのでしょうか


「しかし、変なスーツだなぁ」


適応用のスーツだとか、そんなあたりでしょう

どうしてボディラインがくっきりと見えるようなスーツなんでしょうか

思春期の時分として、これほど目のやり場に困るものはありません


「よし、それじゃカメラをこうして……」


まさか今から数時間ずっと望遠鏡で除く程………暇ではありますが、そればかりもしていられません

せっかく、滅多に来ない土地に来たのです

色々と探索しなければ

そう思い、カメラの設置を確認すると僕は山を下りました


第二学園周辺の街はなるほど、高戦機に関連した企業や広告で満ち溢れています

高戦機

色々と調べて見るとどうやら使用するには適合率というものが必要だそうで、最低でも60%が無いと動かせないそうです

特に、特別機体となると100%でないと動かせないとか


「どんな感覚なんだろ」


ボヤいて見ても分かりません

店に入ろうにもやはり、所詮は歴史学徒です

入店して「何をお探しですか?」なんて聞かれた日には挙動不審にならざるを得ません

あまり目立つような事はしたくないのです。キャラとしても、ミリンさんとの事情にしても

少し歩くと、ある店に『適合率検査機あり! ご購入の方に無料サービス!』というチラシが貼ってありました


「(これなら僕でもいけそうだ)」


そう思い入店すると、どうやら一般人向けに高戦機そのものや、整備器具を売っているお店でした

僕と似たような体形の人はいませんが、一般人という点では共通しているようです


「いらっしゃいませ! 何かお探しでしょうか?」


店員さんに声を掛けられました


「はい、適合率検査機というのをしたくて、それとどんな部品があるのかなって…」

「あ! それでしたら、今から検査できますよ」

「買わなくてもですか?」

「あぁ…はい、実はサービスとして導入したんですが、使われる方が少なくて……。それで使いたい人には使わせるようにってなってます」

「そうだったんですか、それじゃお願いできますでしょうか?」

「はい、こちらへどうぞ!」


良かった。高戦機に詳しくも無いのに、変な品を買わずに済みそうだ


「それでは、こちらに深く腰掛けてくださーい!」

「これが……」


検査機は大きな装置でした

卵型の本体が脚に支えられています

てっきり、血圧計のようなものかと思ってましたが、予想以上に本格的って感じです


「こちらのギアを頭に着けて…それでベルトをして……はい! それでは検査しまーす! 少し揺れますが気持ち悪くなったらすぐにお申し出ください!」

「……分かりました。お願いします」


少し、機械に見とれているとあれこれと準備が進んでいました


「では、検査を開始します!」


ギアを通した視界は、少しぼやけていました

店員さんまではそれなりにはっきりと見えるのですが、それより先の店内は完全にぼやけています


「映像を変えます。映像内の指示にしたがって反応してください」

「はい」


指示は『グローブをはめて、敵を殴ってください』というものでした

敵とは何だろう…?と思い、呆けていると画面の左端から急に高戦機が現れました


「う、うわ! こ、こう!?」


右、左と殴ると高戦機は爆破のエフェクトと共に消え去りました


「はい! 検査は終わりです」

「…ふぅ、ありがとうございます」


ギアとグローブを外すと店員さんから紙を渡されました


「適合率は…43.2%?」

「あー、まぁ、普通という一般の方ですとそんなものですね」


不快感よりも、知的好奇心が満たされていました

なるほど40%ぐらいが一般人のレベルなのかと


「すみません、実は僕、高戦機については殆ど知らないのですが、いくつか教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい、わかる範囲であれば」

「ありがとうございます。この43.2%でも動かせるのは動かせるのでしょうか…?」

「動かせるのは動かせますよ。ただ、安全装置として適合率60%以下の方は動かないようになってます」


適正の例えではないと前置きされた上で、店員さんは次のように答えられました

60~70が自動車に乗っている感覚、70~90が自転車に乗っている感覚、90~100がほとんど生身で行動している感覚

との事です

つまり40%というのは、むしろ取り扱う上で非常に危険な数値なのでしょう


「特別機体だと100%レベルじゃないと動かせないと聞きますが」

「特別機体とかなるともう国家機密の次元ですからねぇ…まぁ、そもそも軍事目的以外での使用は想定されていないので何ともですが」

「適合率というのは、やはり組み合わせで変わるのですか? 同じ機種でも、Aの機体だと50だけど、Bの機体なら70といったように」

「そうです。ですが、やっぱり数は限られていますし、第二学園でも取り合いになってる始末と聞きますがね」

「なるほど…そうだ。ちょっと変な事聞くんですけど、都市伝説のような噂のような…話ってありますかね? 調べる上でそういうの気を付けたくて」

「そうですねー。高戦機自体が最近のものですから、都市伝説というよりトンデモ陰謀論のような話になりますけど、色々ありますよ。『世界中の国で適合率100%になる人体実験を行っている』とか『テロリストにまで特別機体が行き渡ってる』とか。本当ならもう発表されてるようなもんですけど」

「そうですか…いえ、ありがとうございました。ところで少し、気になったのですがレーダーっていうのはどういう…」

「レーダーですと、売り場でご説明いたしますね、こちらへどうぞ!」


セールストークに引っかかったような気もしますが、情報量と思って良しとしましょう

チラシ通り、買わないと検査を受けられなかったわけですし

そのまま僕はレーダー売り場へと通され、訳も分からぬままに初心者だからという理由でジャンク品を押し売りされました

まぁ、既製品のレーダーを買っても使う訳でも使える訳でもないし、豚に真珠と心中で言い訳して買う事にしました。


「あ、すみません」

「い、いえ、こちらこそ」


店を出ると、友神喜一くんとイリーナさんが目の前にいました

思わずぶつかりそうになったので、間一髪避けましたが、異様に目を見開いたせいか視線が合ってしまいました

そそくさと通りも街も抜け出します。いえ、そんな事をする必要はないのですが『念のため』

しかし、おかしな話だ。まだ授業中の筈だ

まして第二学園は非常に厳格なカリキュラムと聞きました。なぜ、あそこで……

そうだ! 厳格なカリキュラムというのはあくまで物語上の設定なんだ。だから、ああやって授業中でもお構いなしに外へ出る事ができたのでしょう。何らかの理由付けはあるのだと思いますが……

いや、それは今考えても仕方がないでしょう

やるべき事を、初志貫徹しようと、僕はまたあの小高い山へと入りました


誤字脱字などがあれば、ご一報ください。

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