第4話
「捕まってしまいましたな」
「野郎…よくも僕のパフェを」
反異能かいほーなんちゃらとかいう連中は僕たちを他所に拡声器やSNSでこの事態を宣伝しているようです
こんなサークル活動以下の連中なんて歴史に何を残せるわけでも無いと思っているので覚えたいとも思いません
「流石は歴史愛好家ですね」
「イデオロギー達成させたくてテロリズム起こすのに民間施設を狙うだなんて馬鹿げてますよ。僕がトップならもっと大きいところ狙いますね」
「モブキャラで良かった」
しかし、今僕たちを人質としている組織は反異能がどーのと言っていたので、異能持ちから人権を取り上げて国家が徹底的に管理させようとかそんなあたりでしょう
SNSやワイドショーでよく馬鹿にされている手合いです
「まぁ、ほっておけば学生警察や自警団が来てくれるでしょう」
「それだと元が取れませんな」
「えぇ、折角のパフェをこのトンチキどもめ……」
「いえいえ、それではありませんよ」
「?」
「この状況は、元をとれる状況なのです」
タナベさんの目がコンサルタントとしての目に鈍く輝いていました
「武装組織が、人質をとっている。さぁ、茂武様が作者ならばどうしますか?」
「そりゃ…主人公やヒロインが駆けつけて事件解決、が一般的なセオリーでは?」
「そうなるでしょ? こんな美味しい場面を公的組織に任せるだなんてアホの極みですよ」
「だけど、僕は何の能力も持っていませんし」
「その通り。あなたには今、勇気しかないのです」
僕の胸に指が刺さりました
「結局、最後はそこなのです。どれだけ強い力を持っていても、使わなければ意味がない。昔の映画でもこう言っています。『兵器は公にしてこそ抑止となる』。茂武様、勇気です。勇気こそがあなたを押し上げる」
「焚き付けやがって……」
しかし、その通りです
場を見回すと、店員も客も怯えており、立ち上がる事すらままならないでしょう
打って変わって拗らせ政治サークルも必死の形相でした
今の今まで、政治を語り合う若者だったのでしょうが、いきなり武器を渡されて調子づいてしまった、といったところでしょうか
もっと僕がみりたりーな知識に溢れていれば、銃を判別して背後を特定できるのでしょうが、どうにも不勉強ですので
ただ、多少なりとも勇気を奮い立たせられたのは事実です
少し『動いて』みようと思います
「あ、あの~」
「なんだ!」
「ひっ、い、いえ、その、ト…トイレに行きたくて」
「我慢しろ!」
「そ、そんな無理ですよ! さっきパフェ食べてお腹冷えてるし、もし行かせないってなら、うわ、これ、やば、悟る」
「……えぇい! おい! マサる…いやA1! こいつに付いていけ!」
「はい!分かりましたオーヤm、じゃなかった、リーダー!」
A1と呼ばれた、中学生?でしょうか
彼は恐る恐る銃口を僕へ向けてきました
トイレへ向かう僕をタナベさんが心配そうに見てきます
安心してください
いや、無理です。怖い、普通に怖い
「なるべく早く済ませろよ」
「………」
年下に敬意無く命令されるのって、こんなに腹が立つものなのですね
個室に入れたはよいものの、少し思い違いをしてしまいました
窓がないとは
広がるアロマの匂いに、落ち着いた照明、ベージュとブラウンによる山小屋を彷彿させる内装
どうしましょう
「「………………」」
その通りです
悩みに悩みましょう
どうやって『元を取るか』
元を取るというからには自分の相場も鑑みねばなりません
「あ、あの~」
「どうした!」
「か、紙を、ちょっと、その、無いので」
「……待ってろ」
腹が立つとは言いましたが、あどけない反抗期は僕にもありましたので、微笑ましくそれでいて尚更腹が立ってきます
「おい! 上から投げるぞ」
「あ、はい、ありがとうございま」
ドアの隙間に影を確認
ドアノブをちゃんと握りしめる
さ、後は思い切って!
「す!」
「ふげ!」
ドアがA1君に当たりましたが、それだけで満足する僕ではありません
何の為に体重を80キロにしてきたと思ってるのか
「こんのぉ!」
首に腕を回す形で無理やり倒すと間髪を入れずにのしかかります
彼は銃を持っていますが、僕には衝動的な勇気に何と言っても80キロの体重があります
デブの戦い方なんてこの程度で良いのです
「よくも! 僕の! パフェを! このぉ!」
「や、やめ、ぐぶ!」
大食漢から食べ物を奪う行為は徹底的に弾劾弾圧しなければなりません
頭と腕を交互に、しっかりと踏みつけます
しかし、中々意地があるようで手にした銃を離す事はありません
「や、やめて!」
「え」
形勢逆転とは突発的なものなのでしょう
A1君が無理に体を起こすと今度倒れたのは僕の方でした
「今度はこっちの…」
「ひ、ひ、ひ」
あれだけ踏みつけられて怒らないような聖人がこんなバカげたテロを起こすわけがありません
彼の目には明確な殺意、手には銃が握りしめられていました
「クソデブがぁぁぁぁぁ!」
僕が最後に見た光景は眉間に迫る弾丸――――――
「大丈夫ですか!」
「え!?」
ではありませんでした。それに最後でもない
氷
目の前には氷に包まれた弾丸がありました
「学生警察です! 今すぐ私と同行してください!」
「あ、あぁぁあああ!」
A1君は銃を乱射しようとしましたが、瞬時手足銃口全てに氷が張り、遂には戦意を喪失しました
「さ、早く表に逃げてください!」
「あ、あぁ。ありがとうございます!」
僕の精一杯の勇気は既に尽き果てていました
店内に戻ると、拗らせサークルが全員お縄についており、手錠をかけられていました
「茂武様!」
「タナベさん!」
変わって外では店員に客が保護されてパトカーやらバスに乗り込んでいました
「いやぁ、ご無事でよかった」
「タナベさんこそ。それで今は何を」
「あぁ、事情聴取というのですかね。パトカーに乗せられるところを知人がいると言って引き延ばしてもらってたんですよ」
「他の業務もありますのでそろそろご同行をって、お前は…」
「殿ヶ谷先生」
学生警察顧問と書かれた腕章を身にまとっていたのはクールビューティ名高き殿ヶ谷空子先生でした
一体どの民族の遺伝子を引き継いでいるのか、あるいは本当に殿ヶ谷陽人と姉弟なのか、複雑な家庭事情を連想させる空色の髪は今日も風にたなびいています
「茂武、だったか?」
「はい、そうです」
殿ヶ谷先生は体育の教師です
しかし、僕はあまりその授業を受けておりません
歴史愛好家である以上、軍人や武将に憧れる事はあるものの、筋肉をつけようとするも途端に足腰腹が重くなってしまうからです
周囲には「必要単位じゃ無いから」と言って見栄を張っています
「まさか担当学年が巻き込まれているとはな……それで、その」
「タナベ、でございます」
「この人とはどういった関係なんだ?」
「え! あぁ、そ、そのう、家庭教師です」
咄嗟に出てきた言葉は、僕の国語力の成果と言えるでしょう
「家庭教師?」
「はい、まだ始めたばかりですが、何度か指導のほどを」
「ふーん……」
怪しげな視線がタナベさんに刺さりますが、それをものともせず笑顔で受け流しています
確かにこの神城島で島外の大人がいるのは珍しい事ではあります
「まぁ良い。早くパトカーに乗ってくれ」
言われるがままにパトカーへと乗り込みました
後部座席と運転席との間には何やらガラス?が貼られています
初めての乗車体験に少しワクワクする僕でした
「防音ガラスですね」
「防音?」
「容疑者に襲われない為、そして車内での会話を聞かれたくない為でしょう」
「そういう…」
紙面で国家の闇をいくつか見てきた僕としては、本当にやってるんだと感心に浸るばかりでした
「おかげで私たちも好きに喋れる。どうでした? 初めてのバトルは」
「あんまりかっこ良いものじゃありませんでした」
A1くんとのバトルを説明するとタナベさんに笑みの表情が浮かび上がりました
「やりましたね」
「だけど、とどめは学生警察が」
「いや、凄い進歩ですよ。モブキャラが戦うという事自体がどれほど主人公泣かせになるか」
「おまけにバトルものは読まれますからね」と付け加えたタナベさん
確かにモブキャラクターが最前線で戦ってしまえば、主人公の活躍の場面がへってしまいます
ただの良いとこどりマシーンだなんて言われれば、人気投票で最下位になることだって考えられます
「それもあります」
また心を読まれてしまったようです
「もう一つはキャラクターとしての重要性が逆転してしまう事です」
「逆転」
「はい、些か浪花節ですが…。茂武様、何の能力も無いキャラクターが巨悪に立ち向かうのと、強い能力を持ったキャラクターが巨悪に立ち向かう。一体、どちらを凄いと、応援したいと思いますか?」
「そこまで誘導されると…そりゃ前者の方になりますね」
「でしょう? だから主要人物たちは時に「どうでも良い」とか言いつつも、モブキャラエキストラを無関係だから巻き込むな!とか言うのです」
なるほど、と思いました
あれ、そう言えば
「タナベさん、この前言ってたアンケートってどうなりました?」
「ヴぇ」
見るからにバツの悪い顔と声でした
「いや、そのぅ、何と言うか」
「はい」
「何の修飾も無しに言うと、0票でした」
予想はついていました
ですが、いざ0と突きつけられると虚無感が湧いてきてしまいます
「修飾してください」
「それでは…茂武様、これはある意味、良い結果と言えます」
「ほう」
曰く、以下の通りでした
・主人公との敵味方を成り行きで任せられるという事に、当面の僕は、僕の思い通りに動けるという事
・主人公やこの世界を、より時間をかけて調査できる事
・その過程で何らかの能力を得られる可能性がある事
この3つでした
「そうですね。肯定的に捉えた方が良いですね」
「こればっかりは申し訳ありません。当社の宣伝不足が原因です」
「ま、次のアンケートを期待しますよ」
ホっとしている自分がいました
確かにタナベさんの言う通り、僕はまだ何も知らず、何も持っていないからです
この状態で敵味方を決めるのは、訳も分からず支持を表明して大国のぐだぐだに巻き込まれる中小国のようなものです
そうです。今は雌伏の一時なのです
いずれは、いつかは、必ず、光り輝いてやる
僕の目には鈍い欲望と、ヒロイン然とした殿ヶ谷空子先生が映っていました




