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第3話

「ぜぇ、はぁ、ぜぇぜぇ」


朝8時

僕はあの日以降走って登校するようになりました

ダイエットだとかそんな高尚な事ではありません。ただ、学校を調査するのに適している時間は昼でも夕方でも夜でもなく、朝だったのです

この時間帯に来る生徒といえば、部活動で朝練に来た者か、早く起きて何もする事が無いから来る者かのどちらか。教員の方々も早朝担当が2人いるぐらいです


「お、今日も早かったね~」

「あ、おはようございます」


ジャージ姿に身を包み、たわわだなと分かるぐらいに胸は膨らんでいるのは、文学部の村上先生です。今まで、会う事はありませんでしたが、この生活になって毎朝顔を合わせるようになりました


「また日直代行?」

「はい、結構儲かるんで」

「たった10円で請けてるんだっけ?」

「元は取れませんけど、感謝を得られますからね。全くやってられませんよ」


笑顔でその場を立ち去りました

しかし、日直代行はあくまでポーズ

本当の目的は……


「(……………焦げだよな)」


この学校を隈なく調べる事でした

何度も言いますが僕は史学生。データがどうのこうのなんて知りませんし、パソコンなんて家で論文を作ったり、動画サイトを見るぐらいです

要は、手探り弄りで探すしかないという、アナログな手段しかなかったのです


「(これは切り傷か?)」


そして分かったのはこの校舎でどうやら戦闘が行われているという事でした

しかし、あまり外にいると怪しまれてしまうので長居はできません

何せ、戦闘後ですので


「(もう確定だ。傷、焦げ、その他の損傷。範囲も深さも全部別々で、昨日とは違う場所にある。残っているのは『どうせ誰も見ない』とか思って手ぇ抜いたからかな……)」


神城島の学校はそのセキュリティも非常に高く、誰かが触法行為をすれば、すぐに学生警察や自警団が動き出します

つまり、こういった戦闘はご法度のはずなのです。しかし、その後があり、早朝のニュースで何も報じられていないという事は、大なり小なり体制が関わっているという事でしょう。

足早に校舎へと入った僕は教室を目指しました

グラウンドからは朝練に来ている生徒がかけ声を出しながら走っています


「(元気なものだ…ん?)」


グラウンドの向こう側

クラブ棟の最上階の窓に誰かがいました

クラブ棟には芸術関係やはっきり言って活動内容不明の小規模クラブが多数押し込められています

ですが、こんな朝早くに何でいるのでしょうか

検討がついた私はすぐに目をそらし、教室へと向かいました


「おはよーございまーす」

「……………」


小さな声で入ると、教室にクラスメイトがいました

綺麗な黒髪ロング、優しいお目目に豊かなお胸と言えば愛川霧さんの事を指します

僕の…ではなく、誰かのヒロインであろう人物です


「「……………」」


彼女の『キャラクター』はミステリアスなお姉さんと言えると思います

僕は一度も話したことはありませんが、聞こえてくる会話からそう判断しました

無言の空間は些かクるものがありますが、今は熱心にディスプレイ拭きや鉢植えの水やり、日誌の作成などです


「………今日もお前か」

「先生、おはようございます」


入ってきたのは担任のハリエット・織田先生でした

流暢ではあるもののアクセントに訛りがあるハリエット先生はこの神城島に来るまでは英国人だったそうですが、今は籍を日本に定めこの2-Aのクラス担任となっております


「今日の日直はお前ではないはずだが」

「ははぁ、いや昨日、殿ヶ谷くんに頼まれまして」

「トノガヤが…?」

「はい。『遅刻するだろうから頼む』と…いやぁ、彼の遅刻魔ぶりには困ったもんです」

「……………」


殿ヶ谷

その名前を出すと、ようやく僕の背中に視線が刺さりました

これで確定でしょう

愛川霧をヒロインとする主人公は殿ヶ谷陽人

これで間違いありません。ご丁寧に殿ヶ谷くんを少し馬鹿にすると教室から出ていってくれましたので


「そうかあいつ…いや、良い。ありがとう」

「ではでは」


これ以降はおおよそいつも通りの学園生活でした

チェックは欠かしません

明らかに異常と呼べる者、見目麗しい人物を全てリストアップしていきます

委員長や部長などは既に書き込んでいます


「(嘘だろ…本当に増えてる。え、それにこの額って)」


帰りに銀行へ寄った訳ですが、残高を確認すると本当に振り込みが為されていました

なんと43万円

1回の視聴につき5000円と言われていたので、86回もの人に見られた計算となります

新卒社員の軽く2倍の給与に唖然としてしまいました

それに、その学生の時分としてもこう……高すぎるような

後ろを向くと列こそ無いものの、ずっとATMの前にいる事から視線がこちらに向けられていました

そそくさと10万円を財布に入れ、銀行を出るとタナベさんがいました


「タ、タナベさん」

「ああ、もう確認されましたか。いや、お宅に伺う前にこちらが最後の確認をしようとおもっていたのですが」

「本当に振り込まれてるだなんて…」

「驚かれましたか。これで確信していただけたでしょう」

「だけど、43万ってのは、学生には大金すぎますよ。おまけにまだ何もアクションを起こしていないのに」

「茂武様。その何もしていないという状況こそが、86という数字を叩きだしたのです」


おおよそ僕の常識や論理では考えもつかない事をタナベさんはおっしゃいました

僕はあくまで歴史の範疇でしかその論と理を構成する事ができない苦学生だと思い込んでいるので、メディア概論だとか広告戦略Ⅰといったものは全く分からないのです


「たとえは色々できる訳ですが、自分が食べるものを種から見て見たいという心理ですよ。茂武様にしてもそうですが、良作になるかもしれない作品はできるだけ早めにブックマークしておきたいものでしょう?」

「否定はしませんが…」

「でしたら、堂々としておきなさい。43万といっても出来高歩合制なんです。来月分の給与がどうなるやら私には見当もつきませんので」


言いくるめられたような気がしました

少し歩くと、タナベさんと一緒に喫茶店へ向かいました

曰く「ビジネスの話を家に持ち込むのは良くない」との事です


「店員さん!このビッグホイップアイスクリームチョコバナナパフェを……2つお願いします」

「はい、ご注文ありがとうございます!オーダー!8番のお客様に…」

「え、ちょっとタナベさん」

「おごりですよ。初任給は自分の意思で使わないと。あぁ、それともこっちのメロンアイスサンデーの方がよろしかったのでしょうか?」

「……いえ、ありがとうございます」


タナベさんはにこやかにメニューを閉じました


「さて、茂武さま。この数日間で分かった事をお聞かせいただければと」

「……まず、主人公ヒロインが誰かってところからで」

「はい」

「殿ヶ谷陽人、三好晴治郎、友神喜一。こいつらは主人公だ」

「理由は?」

「まず3人ともイケメンです」

「ぶふっ」


タナベさんが水をすこし噴き出されました

事実、僕の溢れそうでもない国語力を動員すればこれ以上に最適なものが無いからです


「確かに、おおよその主人公は顔が良いものですが」

「そのイケメンというのも、程度が良いんです。少なくとも非モテする顔ではない。女性とつきあう上で問題の無い最低限のイケメン」

「あー、なんというか想像はつきますね」

「それだけじゃないですよ。一番僕が主人公だと思ったの理由は、ヒロインです」

「ほう」


ヒロインを持ち出すとタナベさんは少し身を寄せてきました

やはり、ヒロインの存在は重要なのでしょう


「殿ヶ谷陽人。少なくとも彼には4人の美少女が付きまとっています。愛川霧、友瀬原妃美、クリスティン・サリヴァン、体育教師の殿ヶ谷空子」

「三好晴治郎のヒロインは?」

「確認できただけでも5人。マドリン・バーキット、イネス・ルブルトン、笑岡恵美、恐杏子、ヒルダ・J・赤松」

「たった一人で英仏を相手にしている訳ですか」

「特にイネス・ルブルトンは厄介ですね。なにせ旧貴族で、フランスを代表する財閥のお嬢様だ」

「旧貴族で財閥ですか。なるほど、お嬢様だ」

「まぁ、ステータスの範囲を越えませんよ。ボナパルティストやらオルレアン家やらブルボン家やらといった王党派のデモには参加してないようですし」

「次、友神喜一」

「こちらは2人だけです」

「たった2人?」

「それ以上にいると思います。学外の人間関係までは分かりませんでしたね」

「ヒロインは?」

「イリーナ・リフォロヴァ。ロシア人です。それと顔と髪色がよく似た姉でしょうか」

「2人ってそういう…」

「放課後こそこそしてるとこを着けていたら、見慣れない外車が停まってました。多分、そういう組織なんだろうなぁと」

「ロシアのスパイか、国際的な何かですか」

「はい。以上が、ここ数日で分かった主要人物たちです」

「ありがとうございます」

「もっとも、バトル系なのか日常系なのかはまだ分かりませんでしたが」

「行動が放課後や夜に集中しているとなると面倒ですね」

「できることなら夜も動きたいんですが。19時以降は目を付けられますからね」

「なるほど。活動時間に制限があるわけですね」

「はい。学生警察や自警団になれば22時まで動けるらしいですが」

「ふむ……」

「お客様! ビッグホイップアイスクリームチョコバナナパフェを2つお持ちしました! それとこちらはサービスのアイスカフェラテとなっております!」

「むおー、来た来た!」


思いのほかビッグなパフェにお互い舌鼓を打ちました

どんな話の途中でもソフトクリームやホイップクリームがあればそちらに目が移るのは人類が原初より抱く本能の一つです


「となればその学生警察や自警団に入った方が行動面、知識面、人脈面に変化はできますね」「簡単には言いますが、どちらも異能やら魔法やらパワードスーツやらを持ってないと入れない組織なんですよ」

「不便だこと」


パフェを1つ頬張ると、タナベさんは少し考え込みました


「茂武様。その自警団や学生警察に一般人が入る余地などはあるんですか?あるいは前例とか」

「聞いた事がありませんね。そもそも学生警察や自警団はあくまで異能持ちの方々の自発的な意思ってのが前提でできていますし、異能持ちの犯罪者を取り締まるとかいう部分がほとんどの時間だそうですから。はっきり言ってどれだけ入りたいと言っても一般人はNGだと思いますよ」

「その線もダメなんですか」


お互いに頭を使ったので糖分が欲しいのでしょう

この理論的な知識欲を満たすためにパフェをもう一頬張りします

ふと外を見ると外は慌ただしい雰囲気でした。車という車が次々とこの店の前に駐車されていきます

すると、タナベさんは何かを思いついたかのようにスプーンを置きました


「あ、そうだ。じゃあこういうのはどうでしょう。忘れ物を理由に、夜に学校へ行くという……」

「今すぐ手を上げて、こちらの指示に従え! 我々は反異能解放戦線だ!」


どうやら『巻き込まれて』しまったようです


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