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マサオがルナとハルカを誘わなかった理由

 パーツクリーナを噴きかけてはワイヤーブラシでチェーンを擦る。この時は表面のプレートよりもコマとコマの繋ぎの部分に食い込んだ汚れを取る事を意識しなければならない。まあ、歯磨きで歯と歯の間をしっかり磨く様な感じと言ったところだ。そしてウェスでチェーンを拭いてはクランクを少し後ろに回してチェーンを動かし、またパーツクリーナーを噴いてはワイヤーブラシで擦り……を繰り返し、チェーンが一周したところでスプロケットやプーリーも掃除してプリンスのチェーンの洗浄が終わった。黒ずんでいたチェーンは銀色の輝きを取り戻したが代わりに綺麗だったコンクリートの床はパーツクリーナーの染みだらけになってしまい、トシヤは後で怒られないだろうかと本気で心配になった。


 次はトシヤのリアクトの番だ。作業手順は同じ。だが、マサオみたいにパーツクリーナーをバカバカ噴いて床をベトベトにするのは気が引ける。

 ウェスをしっかり宛てがって、ちょびちょびとパーツクリーナーを噴くトシヤにマサオが呆れた声で言った。


「おいおい、そんなチマチマ噴いてどうすんだよ。もっと景気よく行かないと汚れが落ち無いぜ」


 それはそうだがマサオの家でマサオのパーツクリーナーを使わせてもらっているのだ。


「そんなワケにはいかねーよ」


 トシヤは出来るだけ少ないパーツクリーナーで、出来るだけ床を汚さない様に気を付けてリアクトのチェーン洗浄作業を続け、その甲斐あって何とか床をあまり汚す事無くチェーン洗浄を終えたのだが、やはり全く床を汚さないなんて事は不可能だ。


「なっ、汚さないで作業なんて出来るワケ無いんだよ。ならぱーっと派手にやって、後でしっかり掃除した方が気持ち良いじゃんかよ」


 しょんぼりするトシヤにマサオが言った。なるほど、確かに一理ある。単なるバカなボンボンとしか思えないマサオだったが、彼は彼なりに考えている様だ。


 洗浄が終わったら次は注油だ。またリアクトとプリンスを入れ替えてチェーンオイルを垂らしてはクランクを回してチェーン全体に注油した後、数回クランクを回してまたプリンスとリアクトを入れ替える。


「余分なオイルを拭き取らなくちゃいけないんだろ、いちいち入れ替えなくてもプリンスを先に済ませてからリアクトをやった方が手っ取り早いんじゃないのか?」


 トシヤが言うとマサオは得意げに答えた。


「いやいや、そう考えるのは素人だ。注油はパーツクリーナーが乾いてからだし、拭き取りはオイルが馴染んでからってのが鉄則だからな」


 さも手馴れた様な事を言うマサオだが、もちろん本で得たばかりの知識である事は言うまでも無い。と言うか、トシヤが何も知ら無さ過ぎるのが問題だ。走るだけでは無くメンテナンスもある程度は自分で出来なければ出先で泣きを見る事になるのだから。


 リアクトのチェーンにも注油し終わると小休止、トシヤの奢りで自販機で冷たい缶コーヒーを買い、二人で地べたに座り込んで愛車を眺めながらのコーヒータイムと洒落込んだ。


「今日はハルカちゃんとルナ先輩を誘おうって言わなかったよな」


 缶コーヒー片手にトシヤが言った。最近何かにつけてハルカとルナを誘おうと、いやルナを誘う為にハルカに連絡を取ってくれとトシヤに面倒臭い事を頼むマサオが今日はそれをしなかったのだ。トシヤにとってはその理由が気になるところだ。単に明日会えるから今日は別に誘わなくても良かったとか? いや、マサオはそんな事は絶対に言わない。彼は出来れば毎日でもルナと一緒に居たいと思っているに違いないのだから。

 するとマサオは恥ずかしそうに答えた。


「お前、そんな事効くか? だいたいわかるだろーが」


 つまり要するにマサオは今回はこっそりとチェーンのメンテをしたかったのだ。もちろんメンテナンスをするのは良い事だから隠す必要など全く無いのだが、マサオとしては皆で渋山峠のヒルクライムに行く直前に今までやって無かったチェーンのメンテを突然やったのがハルカに知られたら「チェーンの抵抗を少なくしてちょっとでも楽に上れるしようとしたんでしょ?」などと言われるのではないかと危惧したのだった。

 言うまでも無いだろうが、ライド前、特にヒルクライムに行く前にロードバイクのメンテを行うのは恥ずかしい事では無い。それどころか寧ろ推奨される事だ。


「ふーん、男の見栄ってヤツか?」


「まあ、そんなトコだな」


 トシヤとマサオは顔を見合わせてニヤリと笑った。


 コーヒーを飲み終えた二人はチェーンの表面に付いた余分なオイルの拭き取り作業に入った。これで今日の作業は終了だ。

 トシヤが作業を終えたリアクトのペダルを掴んでクランクを逆回転させてみると、前よりもスムーズに回せる様な気がした。その違いは僅かでしか無いが、ロードバイクの動力源は一馬力にも満たない人間の力なのだからほんの僅かなロスを無くす事が大きな成果に繋がる。ホイール交換の効果は既に実感している。これにチェーンのメンテナンスが加わってどれぐらい上りが変わるのか? 明日が楽しみで仕方が無いトシヤとマサオだった。



 お読みいただきましてありがとうございます。

 マサオはマサオで色々考えてる訳ですね。さて、次回は渋山峠ヒルクライムに挑むトシヤ達にまたちょっとした事件が起こります。またのお付き合い、よろしくお願いします。


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