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番外編 ~すての無謀な挑戦3~

すて 「お待たせしました『ヒルクライムラバーズ番外編 ~すての無謀な挑戦3~』!!」


マサオ「だから誰も待ってねーって」


すて 「いよいよ今回は『日本一の激坂』『酷道』と言われる国道308号線の暗峠最大の斜度である37%勾配にアタックです」


マサオ「うわっ、コイツ無視しやがったよ」


すて 「既に身体も精神もボロボロの『すて』が37%勾配を前に何を思ったか? お楽しみ下さい!」


ハルカ「そんな格好良いもんじゃ無いけどね」

 それから少し走って、また俺がへたばっていると一台の自転車が下りて来た。ドロップハンドルのミニベロだ。よくもまあ、ミニベロでこんな所を……と思っていると、そのミニベロは俺の斜め前で停まった。

「兄ちゃん、頑張ってるなぁ。ココ、初めてなん?」

 クドい様だが俺はおっさんだ。

「はい。ソレでココ、上ったんですか?」

 息も絶え絶えに尋ねると、ミニベロの人は「奈良から上って今から大阪を回んねん」と答えた。奈良から来たという事は、この人は頂上まであとどれぐらいか知っている筈だ。俺は今一番気になっている事を聞いてみた。

「あとどれぐらいで頂上っすか?」

 するとミニベロの人は非情な現実を俺に伝えた。

「まだ序の口やで。無理して漕いだら膝壊すで」


――まだ序の口かよおおぉぉぉぉぉ!!!!――


 そう言えばまだネットで良く見る『最大斜度37%のカーブ』に出くわしていない。確かそこらへんが半分だった筈だ。と言う事は、これから噂の激坂区間を走らなければならないという事だ。

ロードバイク乗りはゴールまでまだまだ遠くても「もうちょっと」とか「もうすぐ」とか言う。もちろんそれは騙している(単にその人にとっては『もうちょっと』でも俺にとっては『めっちゃ遠い』というだけかもしれないが)のでは無く、励ましてくれているのだ。実際、そう言ってもらえると元気が出る。その事をしみじみと感じた俺だった。


 言葉を失ってしまった俺だったが、呆然としていても仕方が無い。選択肢は二つ。『行く』か『戻る』か。もちろん選んだ選択肢は『行く』だ。ミニベロの人と別れた俺は疲れた身体と心に鞭打って更に上り始めた。


          *


 ネットなどで「坂がキツ過ぎてフロントタイヤが浮く」と書いてあるのを見て「また大袈裟に」なんて思っていたのだが、本当にペダルを踏めばフロントタイヤの接地感が無くなり、本当にフロントタイヤがリフトする。ミストラルはフラットバーハンドルだから前に荷重を移しにくい。休んだ後の再スタートにも細心の注意が必要だ。あらためて思った。


――ロードバイクで来たら絶対立ちゴケしてるな――


 そう、ロードバイクでは避けていた暗峠をミストラルで上ろうと思った理由の一つがそれだ。ビンディングペダルのロードバイクだと、再スタートする時に上手くクリートが嵌らないと間違い無くコケるだろう。いや、それ以前にヘロヘロの状態だと停まる際にシューズとペダルが繋がったままでコケてしまうに違い無い。フラットペダル万歳! ……引き足を使え無いのは辛いが、立ちゴケするよりはマシだもの。


 ヘロヘロになりながらも俺は走り続けた。いや、もう押した方が速いんじゃね? などとも考えたが、課題である『何回足を着こうが押して歩かない』を守る為に意地だけで数メートル進んでは足を着いて休み、また数メートル進んでは足を着いて休みを繰り返していた。そんなうちに目の前に大きく上りながら曲がる右のカーブが現れた。

挿絵(By みてみん)


「ココが噂の最大斜度ポイントか」

 呟いた俺はそのカーブの手前で足を止めた。もちろんそこを一気に通過する為だ。ちなみにそこで写真を取る気力も体力も無かった。俺は頂上まで着いても奈良側に下りる気は全く無い。だって奈良側に下りてしまったら、また山を上らなければならないからな。頂上まで上ったら来た道を戻って下りる。だから写真は帰りに撮れば良いのだ。


ちょっと休んだ俺は一気に急勾配のカーブを駆け上った……嘘。トロトロとなんとか通り抜けた。だが、残念な事に噂の最大斜度ポイントはソコでは無かった。そこからもう少し行くとまた上りながら曲がる右カーブが出現したのだ。

挿絵(By みてみん)


「うわっ、マジか……」

 思わず声が漏れた。今だから言える事だが、さっきの右カーブは山側が苔に覆われた山肌だけだったし、路面に刻まれているブラックマークも少なかった。だが、ココは山側に反射鏡の付いたポールが何本も建てられていて、路面のブラックマークも強烈だ。そう、ココこそが噂のフォトジェニック、『日本一の斜度』を誇るポイントなのだ。

 また足を止めて休んだ後、華麗なダンシングで一気にそこをクリアした俺は颯爽と上り続けた。「ココまで来たらあと半分だ」と自分に言い聞かせて……すみません、また嘘です。斜度の緩いアウト側をなんとか切り抜けるとまたすぐに足を着いて休んでしまいました。

 そもそも俺はダンシングが下手くそだ。ココまですっとシッティングで上っている。もちろんこの先もオールシッティングだ。だって、ダンシングなんかしたら余計に疲れるんだもん。誰か俺に『休むダンシング』ってヤツを教えてくれ。


 とは言うものの、ココまで来ればもう半分(まだ半分とも言う)だ。この先は少し勾配が緩むとネットで見たし、行くしか無い。と思ってたら本当に坂が緩くなった気がして、少し楽に上れる様になった。実際は結構な急坂の筈なのだが、コレが『感覚が麻痺する』というヤツだろう。『坂がキツ過ぎてフロントが浮く』事と言い、ネットにありがちな過大な表現だと思っていた事が本当の事なのだと身をもって知った瞬間だった。


――続く――



マサオ「まだ続くのかよ!」


すて 「そんなん言うんだったらお前、暗峠上ってみろよ。本当に死ぬ思いするから」


マサオ「う……」


ハルカ「私だったら上れるかも」


すて 「やめとけやめとけ。あんなトコ、自転車で行くもんじゃねーぞ。心身共にボロボロになるだけだ」


ルナ 「そんなに……?」


すて 「俺の主観だがな。まったくあんな道を作ったヤツを正座させて説教したいぐらいだ」


ハルカ「よくそんな道、上ったわね」


すて 「タイトルにもあるだろ、『無謀な挑戦』って。もっと鍛えてから行くべきだったぜ」


トシヤ「じゃあ、俺も鍛えたらいつか上れますか? 暗峠に」


すて 「足着き無しとか考えなきゃ今でも上れん事は無いと思うけどな。でも今行ってもしんどいだけで面白く無いぞ。話のネタにしかならん」


トシヤ「それでも上りたいって言ったら?」


すて 「渋山峠を足着き無しで上れる様になったら考えてやるよ」


トシヤ「よし、頑張るぞ!」


すて 「おう、頑張れ若者!」


ルナ 「ではそろそろ締めましょうか」


すて 「こんなところまでお付き合いいただきましてありがとうございます。次回、遂に番外編も完結です。感動のゴールを見逃さない様にして下さいね」


ハルカ「よろしくお願いしまーす」


マサオ「感動したのは『すて』一人だけだっつーの」


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