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ハルカとトシヤ、展望台で二人きり

 数十分後、トシヤとハルカは無事に渋山峠を上り切り、展望台に到着した。もちろん先に着いたのはハルカで足着き二回。これはトシヤに付き合って足を着いただけで、ハルカ一人だったら足着き無しで上っていただろう。呼吸も絶え絶えなトシヤに対して少し余裕が見える。


「さすがに今日はキツかったわね。でも、この暑さで足着き二回なら、もうちょっと頑張ったら足着き無しで上れるんじゃない?」


 ハルカがニッコリと笑って言った。正直なところトシヤ自身もこの暑さと食事直後と言う悪条件で二回の足着きで済んだ事から少しはそんな風に思ったりしていたのだが、ハルカから言われるとその気になってしまう。


「そうだね。次こそは足着き無しで上ってみせるよ」


 言ったものの、呼吸はまだまだ乱れたままだ。そんなトシヤにハルカは「楽しみにしてるわ」とまた笑った。

そんなハルカの笑顔にまた厨二男子スイッチが入ってしまい、顔を赤らめて俯いてしまったトシヤの顔を心配そうにハルカが覗き込んだ。


「大丈夫? 顔、赤いよ。熱中症じゃ無いでしょうね?」


 ハルカはエモンダに跨ったままグローブを外し、トシヤの額にそっと手を当てた。


「ちょっと熱っぽいかな?」


 確かにトシヤの顔は赤いし、額は熱っぽかった。だが、その理由が熱中症以外にある事は言うまでも無い。だがハルカは熱っぽいトシヤを気にかけて、乙女スイッチが入る余裕も無く純粋に心配しながらリアクトのボトルケージからボトルを引っこ抜いた。


「はい、とりあえず水分補給して。温くなっちゃってるけど我慢してね」


 トシヤはハルカからボトルを受け取り、すっかり温くなってしまったスポーツドリンクを口に含んだ。


「ふうっ、ありがとうハルカちゃん。少し落ち着いたよ」


「そ、そう。なら良いのよ。まったく心配かけないでよね」


 照れ臭そうにトシヤが礼を言うと、ついさっきまで親身になって心配していたハルカがいきなり素っ気ない態度になった。ほっとして心の余裕が出来たハルカに乙女スイッチが入ってしまったのだ。


「ごめん……」


 謝るトシヤにハルカは気まずそうに顔を背けた。


「お昼食べた後、上ろうって言うトシヤ君に賛成しちゃった私にも落ち度はあるから……時間的に暑くなるのはわかってたのに……」


 ハルカは自分に責任があるかの様に言った。だが、ハルカが悪いなどという事は全く無いし、そもそもトシヤは熱中症にはなっていない。


「そんな、ハルカちゃんに落ち度なんて無いよ。調子に乗った俺が悪いんだ」


 トシヤの声にハルカが背けていた顔を向けると、思いっきり二人の目と目が合ってしまった。


「………………」


「………………」


 トシヤとハルカは言葉を失ってしまった。二人共妙なスイッチが入ってしまっている上に、昼過ぎという一日で最も暑い時間帯だからか展望台の駐車場には他のヒルクライマーはおろか乗用車の一台も停まっていない。正真正銘二人っきりなのだ。


「とりあえず座ろっか」


 少しの沈黙の後ハルカの提案でリアクトとエモンダを駐車場の隅にゆっくりと寝かせたトシヤとハルカはいくつも置かれている車の転落防止用の石に並んで座った。


 例によって静寂がトシヤとハルカを包んだ。ここで何か言えれば二人の仲は間違い無く急接近する筈だ。しかしトシヤもハルカも何も言い出す事が出来ず、ただ時間だけが過ぎていった。


「ハルカちゃ……」


「トシヤく……」


 トシヤが思い切ってハルカに声をかけたのと、ハルカが意を決して口を開いたのはほぼ同時だった。だが、それに数秒遅れて聞き覚えのある声がトシヤとハルカの耳に届いた。


「うあぁぁぁ、着いたあぁぁぁぁ!」


 それは『声』と言うより『叫び声』だった。トシヤとハルカがその方を見ると、プリンスに跨ったマサオがヘロヘロになって駐車場に入って来た。その後ろにはルナの姿も見える。

 マサオは最後の力を振り絞ってトシヤとハルカの近くまで到達したが、クリートを外して足を着こうとして大きくぐらついた。


「マサオ!」


「危ない!」


「マサオ君!」


 トシヤとハルカ、そしてルナが思わず声を上げたが、マサオはプリンスをこかして傷を付けたくない事と、ルナに恥ずかしいところを見られたくないという思いで必死に耐え、危ういところでなんとか踏みとどまった。これが所謂『火事場の馬鹿力』というヤツだろう。


「何を大声出してんだよ、俺がこんな事でコケるワケ無いだろ」


 立ちゴケを回避しただけなのに、いや、立ちゴケしかけたくせに偉そうに言うマサオにトシヤもハルカも開いた口が塞がらない。


「はっはっはっはっ……」


 何にせよマサオがコケなかった事にほっとしたトシヤが笑い出すとハルカとルナも笑い出し、最後にはマサオまでも笑い出した。


「まったく大物だな、お前ってヤツは」


 散々笑った後、トシヤが言った言葉を聞きながらハルカは思った。


――トシヤ君、さっき私に何て言おうとしたんだろう……――



 少し休憩したトシヤ達は峠を下る事にした。もちろん目指すはいつものコンビニだ。温くなってしまったボトルのスポーツドリンクでは無く冷たいドリンクを喉に流し込む為に。


 いつもの様にハルカが先陣を切って走り、トシヤが続く。マサオがトシヤを追って、ルナが殿を務める。慣れた調子で走るハルカのお尻、いや背中を見ながらトシヤは思った。


――あの時マサオが現れなかったら、ハルカちゃんは何て言ってたんだろう……――


 そう思いながらも自分もあの時、ハルカに何て言おうとしていたのか? せっかく出来たロードバイク仲間だ。妙な事を言って今の関係を壊してしまうのだけは避けなければならない。だが……カーブの度に左右に揺れるハルカのお尻を見ながらトシヤの気持ちはモヤモヤするばかりだった。



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