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ルナとハルカのアドバイス

 話をしているうちに汗も乾き、そろそろ下りようかという事になったところでトシヤに緊張が走った。ほんの少し前に見たハルカの鋭い下りの走りを思い出したのだ。


「あの……ハルカちゃん、どうやったらあんな風に速く走れるのかな?」


 おずおずとトシヤがハルカに尋ねると、マサオも身を乗り出した。


「そう、ソレだよソレ、俺が教えて欲しかったのは! 上りは根性でどうにかなると思うんだが、下りは危なっかしくてな。アドバイスってヤツをよ……」


 ヒルクライムは根性でどうにかなるものでは無い。今日、マサオはそれが身に染みた筈だが……そう思いながらもハルカは二人に簡単なアドバイスを与えた。


「慣れよ」


「何だそりゃ!」


 確かにハルカの言う通りではある。だが、そんなものアドバイスでも何でも無い。マサオが突っ込むのも当然だ。


「そんなんじゃ無くって、何かこう、コツみたいなヤツは無いのかよ!」


 マサオが食い下がると、面倒臭そうなハルカに代わってルナが適切なアドバイスを与えてくれた。


「やっぱり目線かしらね」


 自転車は見た方に進む。これはオートバイや自動車でもよく言われるが、要は身体が無意識のうちに見た方に向かう操作を行ってしまうと言う事だ。これは危ないからと言って行きたくない方を見てしまうと、自分の意志とは裏腹に危ない方へ向かってしまうという初心者が陥りがちな厄介な現象だ。ちなみにカーブでの目線の置き方の基本は、侵入の際はカーブの奥に、そしてクリッピングポイントを抜ければカーブの出口に向けると言われている。


「なるほど、目線か……」


 マサオが解った様な事を言うが、本当に解っているのだろうか? だが、トシヤは思い当たる節が有る様だ。


「そうか、それでか……」


 なかなか追い付いて来ないマサオとルナを案じてハルカと二人、ハイスピードのダウンヒルを試みた(実のところはたいしてハイスピードでも無いのだが)時、ハルカの後を着いて走っていると比較的スムーズに走れていたのだが、ハルカに千切られて姿が見えなくなった途端にギクシャクした走りになってしまったのは目線の変化、つまりハルカの尻を見ていた時は目線が遠くに有ったのが、ハルカという目標を失う事によって目線が定まらず、またスピードが出る怖さから近くを見てしまっていたと気付いたのだ。


「それと、やっぱりブレーキね」


 ルナからもう一つアドバイスが出た。しかし『下りを速く走りたい』と言ってるのに何故ブレーキなんだ? と、今一つピンと来無い顔のトシヤとマサオを嘲る様に黙っていたハルカがしゃしゃり出てきた。


「カーブでスピードが出過ぎてたらどうなるかしら?」


 そんなの決まっているだろう、答えは『曲がりきれない。最悪転ぶ』だ。今更何を言ってるんだという顔の二人にルナが妙な事を尋ねた。


「オーバースピードでカーブに突っ込んじゃったら危ないわよね。マサオ君は危ない事って好きかしら?」


 上級生のルナから「危ない事って好きかしら?」なんて言われると、誘惑されている様に勘違いしてしまいそうだが、今はそういう事を言っているのでは無い事ぐらいはマサオにも解る。


「危ないと怖いです」


 素直に答えたマサオにルナは大きく頷いた。


「うん、そうよね、怖いわよね。だから怖くない程度までしっかりスピードを落とすの。これが鉄則」


「でも、それじゃ速く走れないんじゃ?」


 マサオが不思議そうに言うとハルカが笑い出した。


「怖かったら余計に速く走れないわよ、恐怖で身体がガチガチに固まっちゃってね。だからブレーキでスピードを調整するの。怖くない程度にね。そうやって何度も走っているうちに怖くないスピードが段々上がってくるわ。これが私の言う『慣れ』よ」


 なるほど、ハルカも別段いい加減な事を言った訳では無かったのだ。『慣れよ』の一言にそんな深い意味があったとは。いや、考えてみれば当たり前と言えば当たり前の事で、別に深くは無いか。しかし、それなら最初からそうやって説明してくれたら良いのに……などと思うトシヤとマサオにハルカが問いかけた。


「慣性の法則ぐらいは知ってるわよね?」


 トシヤもマサオも物理は得意では無いが、なんとなくは解る。二人揃って頷くと、ハルカは安心した顔で付け加えた。


「じゃあ、解るわよね。あなた達は私達よりスピードが落とし難いって。だから車間距離はしっかり取らないと、私がブレーキかけたら追突しちゃうかもしれないわよ」


『軽さは正義』という言葉が有るぐらい、重量が軽い方が運動性は高い。どう見てもトシヤやマサオよりハルカやルナの方が体重は軽いだろうし、乗っているのは軽量モデルのエモンダだ。下りのブレーキングでのアドバンテージはかなり高いだろう。まあ、そんな極限のブレーキ合戦などはしないだろうが。


「まあ、そんな無理なスピードは出さないから安心して着いて来てね」


 ハルカが走り出すとルナはトシヤに続く様に促し、トシヤがハルカを追って走り出したのを見届けると、ルナは少し間を開けてマサオを従えて駐車場を出た。


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