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二人の記念に

 トシヤはハルカを、ハルカはトシヤを気にしながらも無言で撮影を続けているが、そのうちにマサオとルナが追い付いてくるだろう。十分後かもしれない。二十分、いや、三十分後かもしれない。とにかく二人きりの時間は無限では無いのだ。覚悟を決めたトシヤが遂に意を決して口を開いた。


「せっかくだから、二人で写真撮ろうよ」


「えっ……」


 それはもちろんハルカとしても待ち望んでいた言葉だ。だが、実際に言われると、やはり面食らってしまう。


「ほら、今日はハルカちゃんのおかげで上れた様なもんだからさ。師匠と弟子ってコトで」


 ハルカが嫌がったとでも思ったのか、言い訳がましい事を言うトシヤに、ハルカの口から笑いが漏れた。


「ふふっ、しょうがないわね。じゃあ、一枚だけ付き合ってあげる」


 本当は嬉しいくせにハルカはあくまでも『仕方が無い』体で言うと、トシヤのリアクトの前に立った。


「もうちょっとこっちに寄ってくれないかな?」


 隣に並んで立つと、ハルカがすっと逃げる様に離れてしまったのでトシヤは困ってしまった。スマホカメラの自撮りモードは写角が狭いので、ハルカがトシヤから微妙に離れて立っているとフレームに収まらない。だからと言って離れてしまったハルカに自分から寄っていく根性などトシヤは持ち合わせていない。


「でも、私汗臭いし……」


 ハルカが恥ずかしそうに答えるが、トシヤは女心を全く理解していなかった。


「そりゃ俺だって一緒だ。気にしないよ」


「女の子は気にするの!」


 ハルカは思わず大声を出してしまった。もちろん『汗臭い』と言うのも理由の一つだろうが、それ以上に大きな理由が有る事に気付いていないのかとハルカは少し寂しく思ったが、いくらトシヤでもそこまでバカでは無い。単にハルカにもっと近付いて欲しいという願望がストレートに出てしまっただけだ。ただ、言い方が少し、いや、かなり残念なだけで。 

 とか言いながらもハルカは少しトシヤに近付いた。それをきっかけにトシヤもハルカにそっと身体を寄せた。確かにハルカからは汗の匂いが漂ってきたが、それはトシヤにとって不快なものでは無く、むしろ良い香りにさえ感じられた。


「なんだハルカちゃん、全然臭くなんか無いじゃないか……」


 ハルカの匂いに頭がクラクラしそうになりながらトシヤはフレームに二人が上手く収まっているのを確認し、撮影ボタンを押した。


「これで満足したかしら?」


 スマホカメラの合成シャッター音を聞いたハルカは平静を装ってトシヤに言うが、実は緊張して心臓がバクバクしていた。男子と二人で写真を撮る事なんて、今まで何度となく有ったのに。もちろんそれが何を意味するのかはハルカ自身が一番良くわかっている。

 トシヤは女の子と二人で写真を撮るなんて事は初めての経験だ。ハルカに『満足した?』と聞かれ、満足そうに会心の笑みを浮かべて頷いた。


「うん、ありがとう。メールで写真送るね」


 トシヤがメールを送ると、ハルカは早速届いたメールを開封すると、ハルカのスマホの画面の中でリアクトとエモンダをバックにトシヤとハルカがぎこちない顔で笑っている。そして本文にはこう書いてあった。


『今日はハルカちゃんのおかげで上りきれた。苦しかったけど、楽しかったよ。ありがとう』


 それを読んだ瞬間、顔が熱くなるのを感じたハルカが横目でトシヤを見ると、トシヤも照れ臭そうにスマホの画面を見たまま顔を上げれずにいる。ハルカはクスッと笑うとトシヤに向かって言い放った。


「今日は足着いちゃったけどね。まあ、足着き無しで上れる様になるまでしごいてあげるから、覚悟する様にね」


 上から目線で言っている様に聞こえるが、それはハルカなりの「また一緒に走ろう」というメッセージだった。


「うん。よろしく頼むよ、鬼コーチ」


 ハルカの気持ちをわかっているのかいないのかは定かでは無いが、トシヤは笑って答えた。もちろんトシヤが笑ったのは、ハルカがトシヤを『足着き無しで上れる様になるまでしごく』という事を『また一緒に走れる』と良い方に考えたから。つまり、早い話が二人共『一緒に走りたい』という思いは同じだという事だ。後はお互いの気持ちを伝えるだけなのだが、それが一番難しいのだけれども。


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